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異世界転移したけど森の奥で引きこもってます。スカウト? いやぁ、森から出る気はないので遠慮します  作者: 初音の歌
第三章

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第55話・決着


 午後のログハウスは、もはや「森の賢者の家」ではなかった。

 歓声と悲鳴と、理不尽への抗議が飛び交う――小さな戦場である。


 テーブルの中央には、王国と魔国を描いた大きな地図。

 その上を四つの駒が駆け、硬貨の玩具がじゃらじゃらと流れ、札がめくられ、ルーレットが回り、サイコロがテーブルで転がる。


 窓の外には護衛隊。

 中には侍女隊。

 どちらも完全に「観客」だった。控えめに、しかし真剣に見守る。


「殿下、そこは赤です! 赤ですって!」

「行け! そのまま行け! いや待て、黄色だ! 黄色踏めぇ!」

「ノングラータが近いぞ! 逃げろぉ!」


 前言撤回。観客は大盛り上がりだった。全く控えめではない。


 そして――盤上の主役は、当然ながら四人。

 勝負は、色々酷かった。


 とりわけ姉妹が、酷い。

 アウローラとレジーナは、目的地へ向かうという「本筋」を、平然と見失う。

 勝ちたいのではない。

 儲けたいのでもない。

 ただ――放浪神ノングラータを、相手に擦り付けたい。


「姉上、覚悟!」

「来るなと言っているでしょう!」


 レジーナが名馬カードを握りしめる。

 アウローラも名馬カードを握りしめる。

 互いに名馬で互いを追い、追いついて重なって、神を押し付け、押し返し、押し付け、押し返し――


 そのたびに、目的地から遠ざかる。

 そして遠ざかった姉妹を尻目に、有羽かラディウスが淡々と目的地に到着し、褒美を得る。

 その瞬間、盤上の規定で「遠い者にペナルティ」。つまりノングラータが再び姉妹どちらかに降ってくる。

 見るに堪えない。


 護衛達は腹を抱えて笑い、侍女達は口元を隠して震える。

 だが姉妹だけは笑っていない。笑えるわけがない。神が憎い。


「どうして! どうして私達の旅は! いつもこうなるのだ!」

「あなたが来るからよ、アウローラ」

「姉上が逃げるからだ!」

「逃げていないわ、回避よ」

「同じだ!」


 喧嘩は美しい顔で行われるほど、逆に醜い。

 盤面が修羅になっているその横で――有羽は淡々と金を回し、淡々と物件を買い、淡々と「勝ち筋」を作ろうとしていた。

 だが、世の中は甘くない。


「よし、黄色マス。魔法――……豪商の魔法、来た」


 有羽が「お」という顔をしたのも束の間――アウローラの手番で跳ねた。


「黄色! 私も黄色! 魔法! えへへ……えへへへ……」


 嫌な笑いをし始める。


「……何引いた?」

「強奪!!」


 全員が「うわ」と言った。

 護衛が外で「うわ」と言い、侍女が「うわ」と呟き、ラディウスが「うわ」と肩を落とし、レジーナが「うわ」と微笑んだ。最後の王女は酷すぎる。

 有羽は、頭を抱えた。


「……なんでお前、俺がいいの引いた時だけそれ引くの」

「運命だな!」

「運命って言葉を雑に使うな!」


 有羽は豪商の札を指で挟み、眉間を揉む。


「……やられた。これ、次のアウローラの番までに使わないと、奪われる」

「使えばいいじゃないか」

「今いる近隣の町が、全部微妙なんだよ……」


 盤面を指でトントン叩く。

 町札が出ている。どれも収益3割、2割。魔道具屋、服屋、酒場。

 豪商で買っても、旨味が薄い。

 本来なら温存したい。王都の宝石店などに使いたい。

 だが温存すれば、奪われる。

 有羽は歯を食いしばるように言った。


「……くそ。買いたくもない物件を、豪商で買う羽目になるとは」

「商いは妥協ですわね」

「レジーナさん、煽らないで」


 結局、有羽は「買いたくもない」収益3割の魔道具屋を、豪商で買った。

 十分の一で買うのに、心が痛むという矛盾。


 だが、地獄はそれだけでは終わらない。

 ノングラータが同行中のレジーナが、黄色マスで手に入れたのは――会議の魔法。

 全員を、同じマスに集める。

 ノングラータ持ちの第一王女がこれを持った時点で、平穏な未来は消滅する。

 レジーナは、微笑みを崩さずカードを掲げた。


「では皆様。お集まりくださいませ」

「やめろ」

「やめて」

「やめてください」


 三方向から止める声。

 だがレジーナは慈愛の笑みで、容赦なく発動した。


 ――盤上の全員が、一箇所へ集結。


 テーブルの上に駒が密集し、硬貨が揺れ、札が散る。

 観客が「うわぁ」と声を漏らす。

 そして、次に起こることは誰もが理解していた。

 ノングラータが、誰に付くか。

 この場合の裁定は、サイコロ。


「1~2、俺。3~4、アウローラ。5~6、ラディウスさん」


 有羽が淡々と割り振りを読み上げる。

 レジーナは笑っている。目だけが、獲物を見る目だ。


「さあ、振りますわ」


 ころころ――

 止まった目は、3。


「……っ!!」


 アウローラが凍った。

 次いで爆発した。


「姉上ぇぇぇぇ!!」

「私は振っただけですわ。神が選びましたの」

「絶対に違う! 絶対に違う!! 神がそんなに都合よく姉上の味方するわけがない!」


 その瞬間から始まる、美人姉妹喧嘩・第二幕。

 醜い。実に醜い。

 美人二人が、揃って「王女がしていい顔」を捨てている。

 観客は沸く。

 護衛隊は窓の外で腹を抱え、侍女隊は口元を押さえ、ラディウスだけが「いや、本当に仲が良いね」と感想を漏らす。

 全ては神が悪い。


 そして――その混沌を、さらに混沌へ落としたのが有羽だった。

 有羽は自分の手札を見下ろし、静かにカードを置く。


「……暴風、使うわ」

「え?」


 暴風の魔法。

 ルーレットを回し、自分がランダムな町へ飛ぶ。

 一見すると運任せで、目的地から遠ざかる可能性もある。

 だから「弱い」と思われていた。

 だが有羽は、違う視点で見る。


「今ここにいると、ノングラータ押し付け合いに巻き込まれる。俺は去る。じゃ」

「逃げるな!! 卑怯者!!」


 アウローラが吠える。

 レジーナの目が、凶眼になる。

 王女がしていい眼ではない。

 ラディウスだけが、深く唸った。


「なるほど……「位置そのものを変える」のは、距離争いだけじゃなく「神の擦り付け合い」から逃げる手でもあるわけか。盤上の戦争だね」

「戦争って言わないの。遊びだよ遊び」


 有羽は笑いながら言うが、その目は真剣だった。

 この遊戯は、遊びの顔をした駆け引きだ。

 だからこそ――盛り上がりは止まらない。


 やがて、ゲームは終盤へ。

 二年目の終わりが近づく。


 そこで発覚したのが――序盤でラディウスが泣く泣く買った「畑」の思わぬ強さだった。

 ラディウスは、姉妹喧嘩の巻き添えでノングラータを押し付けられ、あるターンで「物件売却」の災いを引いた。

 皆が思う。「畑が売られる」と。

 だが――売られない。


「……ん?」


 侍女の一人が冊子を覗き込む。

 護衛の一人が「おかしいな」と呟く。

 有羽がページを指で叩いて言う。


「畑は売れない。例外」


 姉妹が同時に立ち上がった。


「どういうことだ有羽!? こんなのは横暴だ!!」

「そうよ! 許されていいことではないわ!!」


 すげぇ剣幕。

 美人が怒ると迫力が増す。

 侍女隊が慌てて二人を抑える。抑えきれない。

 有羽は肩を竦め、淡々と説明した。


「ノングラータの逸話、知ってるでしょ。賭博や商いで失敗した時に「ノングラータのせいだ」って言われる神。でも農家を祟ったって話はない。地道に、懸命に働く人のところに、放浪神は来ないって言い伝えがある。だから畑は対象外」


 観客――侍女と護衛が、なるほど、と納得する顔になった。


「確かに聞いたことがある」

「畑に祟りはない」

「旅の神は怠け者に付く」


 そんな囁きが広がる。

 姉妹だけが納得しない。出来ない。

 だって納得したら負けちゃうから。


「ぐぬぅ……!」

「ぐぬぅ……!」


 王女が出しちゃいけない唸り声が二重奏になる。

 けれど言い返せない。二人は道理を知っている正しい王族だから。

 言い返せないから余計に悔しい。

 拳がぷるぷる震えて、最後は渋々、机の上に降りる。


 ともあれ。

 畑は、じわじわと金を生んだ。

 派手さはない。

 だが確実に、盤上の資産を支えた。


 そして最後の三か月。

 ラディウスが運良く引いたのが――豪商の魔法。


「……これを、ここで引くのか」


 ラディウスが静かに呟く。

 声は穏やかだが、目が「勝負師」のそれになっている。


 彼は迷わなかった。

 目的地ではない。

 盤上で最も高価で、最も収益の強い王都の物件。


 王立劇場。

 普通なら買えない。高すぎる。

 だが畑の収益で積み上げた資金がある。

 そして豪商で値が落ちる。


 手が伸びる。

 札が取られる。

 硬貨が支払われる。


 畑王が、劇場主に。

 物語みたいな流れだ、と侍女の誰かが小さく漏らした。

 護衛隊が窓の外で拍手を。

 アウローラは悔しそうに唇を噛み、レジーナは目を細めた。


 そして――三年が終わり、総資産の計算が始まる。

 硬貨を数え、札の価値を足し、収益を見込み、最後に借金を引く。


 有羽は早い。

 数字を扱うのが得意な手つきで淡々と計算し、結果だけを並べた。


「はい。結果。一位ラディウスさん。二位俺。三位レジーナさん。四位アウローラ」


 静寂。

 次いで。


「……っ」


 レジーナとアウローラが、同時に遠い目を。

 三位と四位の争いは、勝負ではなかった。

 地獄の底で、互いの足首を掴み合う儀式だった。

 結果、二人とも借金まみれ。

 マイナス金貨1000枚越え。

 王女が二人揃って、借金取りの幻を見る顔をしている。


「……やはり、足の引っ張り合いはよくないわね、アウローラ」

「……ええ。私も姉上も、大事なことを見失っていました。意味のない争いは、無意味な結果しか生まない……当然と言えば当然なのに……私達は、愚かでした……」


 しみじみと反省する二人は、絵になる。

 美しい。哀愁がある。

 だが――そこに至るまでが、あまりに酷い。

 ラディウスだけが、救われたように笑う。


「それにしても……まさか序盤の畑が勝敗を分けるなんてね」


 笑みは柔らかい。

 勝者の余裕、ではなく、純粋な楽しさの笑みだ。


「ふふ。野菜が好きになってきたよ。根菜畑か……やはり農業は国の土台なんだね」

「いや、ゲームでそんな「真理に至った」みたいな顔しないでくださいよ」


 有羽が突っ込むと、ラディウスは素直に笑った。


「ははは。ごめんごめん……でも、本当に楽しかったからさ」


 その言葉は本音だった。

 盤上の勝利以上に、「心の勝利」の声だった。

 そして勝者は――楽しさだけで終わらない。


(この遊戯は……教育に転用できる)


 ラディウスの視線が、地図の上を滑る。

 地理。産業。街の位置関係。名産。収益。

 遊びながら、覚える。

 これほど「吸収」が早い教材はない。


(だが……このまま王都に広げるのは危険だ。経済情報が丸裸になりすぎる)


 黄昏れているレジーナも、同じことを考えているはずだ。

 これは劇薬であり猛毒。

 扱いを誤れば、国の上澄みだけが握っていた情報が、笑い声と一緒に広がってしまう。

 有羽は、そんな空気を読んだように――いや、読んでいるのだろう――静かに言った。


「……この遊戯。俺は量産するつもりないので。この家の中で遊ぶ為だけに造ったものです」


 少しだけ、間。


「……もっとも、()()()()()分には、俺は何も言いませんが」


 その言葉は、安堵と恐怖を同時に運んだ。

 知識は渡す。

 扱いは任せる。

 それは、金鉱脈の地図を渡すようなものだ。

 莫大な富と、凄惨な争いの種を、同じ封筒に入れて手渡す行為。

 ラディウスは、笑みを崩さぬまま内心で息を吐いた。


(怖い人だ……森の賢者。彼は、王都に引っ張り出すべき者じゃない)


 必要な時だけ森へ。

 距離を守り、礼を守り、過剰に縛らず、過剰に期待しない。

 国として最良の距離は、きっとそこ。


 だが――その距離は。

 アウローラにとっては、望みの叶わぬ距離でもある。


 ログハウスの中で、借金王女が二人、まだ遠い目をしている。

 護衛と侍女は「次は私も参加したい」と言い始めて。


 盤上の旅は終わった。

 けれど、盤の外の「距離」は――まだ、誰も動かせていない。





 ◇◇◇





 そして有羽は――少しだけ離れた場所から、皆を眺めていた。

 テーブルの上にはまだ地図が広がり、硬貨の玩具がいくつか転がっている。札はきちんと束ねられたものもあれば、熱に浮かされたまま放り出されたものもある。ルーレット盤は片付けられずに端に寄せられ、次の戦争を待つ兵器みたいに黙っていた。


 護衛と侍女は観客のくせに顔が赤い。

 勝ってもいないのに勝者のように語り、負けてもいないのに負けた人間のように嘆いている。あの熱量は、もはや「見物」ではない。巻き込まれている。


 ラディウスは、いつもより肩の力が抜けている。

 剣を握る時の指ではなく、少年みたいにサイコロを摘まんで転がす指。運命に祈る顔。出目に一喜一憂して、思わず笑ってしまう顔。――国を背負う者が、ああいう顔をできる瞬間は、そう多くない。


 レジーナとアウローラの姉妹は、相変わらず感想戦を続けている。

 負けたのに、負けていない。次は勝つという前提で話している。


「魔法の使い所が甘かったわ……次はもっと計算します」

「赤マスを怖がって遠回りするのは、必ずしも正解ではありませんでしたね、姉上」

「……ええ。だからこそ次は――」


 負けず嫌いという性質だけ、姉妹で完璧に一致しているらしい。

 有羽は、その声を聞きながら、小さく息を吐いた。笑いではない。安堵に近い。


 皆が楽しめた。

 国の地理も、産業も、数字も、知っている者たちが、現実を忘れるほど夢中になれた。

 それはつまり――盤の上の数字が、ただの作り話ではないという証明でもあった。


(齟齬は、少ない)


 リアルさがあるからこそ、遊戯は熱を持つ。

 もし数字が荒唐無稽なら、途中で誰かが冷める。笑いながらも「嘘だ」と思う。

 だが誰も冷めていない。熱中し、悔しがり、次を考えている。


 有羽は、胸の奥でそっと答えを出した。


(魔国女王メトゥス・ラウルスリム……うん。良かった。あなたは()()()()()


 森の西部で見た姿が、脳裏に浮かぶ。

 銀糸のような長髪。淡い紫水晶の瞳。深い森色のローブドレス。

 整いすぎた美しさが、逆に警戒を誘う。絵画の中の女王。けれど絵画にはない重さが、彼女にはあった。


 米と、カレーのレシピ。

 取引の餌は甘く、そして危険だった。


 だから有羽は、レシピを即答しなかった。

 代わりに、カレーの現物と「ある情報」を交換した。

 魔国の経済情報。国の血管を覗くような数字。


 本来なら、有羽には無用だ。

 森に引きこもる男が持っていても、何の利益も生まない。

 どこにも売れないし、誰にも誇れない。脅しにもならない。使い道がない。

 だからこそ、差し出せる。

 そういう情報だった。


 だが、欲しかったのは数字ではない。

 欲しかったのは、数字を差し出す相手の()()()


 誤魔化すのか。盛るのか。隠すのか。薄めるのか。

 あるいは、まっすぐに渡すのか。


 もし、いい加減な誤情報だったなら。

 その時点で縁は切れていた。二度と会わない。取引もしない。

 無論、嘘を吐くつもりがなくても数字が揺れている場合がある。

 だがそれはそれで、魔国の王が()()()()だと理解するだけだ。


 国を束ねる者が、国の数字をどれほど自分の中に持っているか。

 それで王の力量は、だいたい測れる。


 ――初対面の女王を、その場で信用するほど、有羽は甘くない。


 アウローラが何度も何度も何度もやって来て、結界の外で叫び、泣きそうな声で笑い、危険をくぐってなお諦めず――

 そうして初めて、彼は扉を少しだけ開けた。


 その()()の重さを、他人は知らない。

 知る必要もない。

 だが有羽は、知っている。


 有羽は他人を信用しない。

 信用しないことで、自分を保っている。

 信用した瞬間、奪われるものが増えるから。


 レジーナが()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()と判断したこと。

 それは正しい。

 例外があるとすれば、アウローラだけなのだ。


(だから今日の遊戯は、試金石)


 メトゥスの誠意。

 そしてレジーナの誠意。


 この家で、盤を広げる理由。

 楽しませたい、だけではない。

 笑わせたい、だけでもない。


 盤は、嘘をつかない。

 人は、盤の上でつい本音を出す。焦り、欲、計算、そして――理解の速さ。


 レジーナが、あの冊子を見た瞬間に凍ったこと。

 それを隠し、笑い、観察し、飲み込んだこと。

 そして、最後まで「場」を壊さなかったこと。


 その全部が、答えだった。


(取引していいくらいには、信用できる相手だったね)


 メトゥスも。

 レジーナも。


 有羽は窓に目をやる。

 夕焼けが差し込んで、床に長い影を作っている。硬貨の玩具の端が淡く光り、地図の線が少しだけ赤く染まって見えた。


 この光の中では、すべてが穏やかに見える。

 けれど穏やかさは、油断とは別物だ。


 彼の警戒心は、癒えてはいない。

 閉鎖的で、病的で、しつこい。

 森で八年――ただ引きこもっていたわけではない。ただ漠然と森で過ごしたわけではない。

 孤独を嗜好として磨き、警戒を癖として固め、距離を生存戦略として身体に馴染ませた。


 西部の樹神女帝が、ただ力が強いだけの者を気に入るはずがない。

 「強い」は森では当たり前だ。

 森で長く生きる者は、強い。

 それだけでは、生き延びることは出来ない。


 大事なのは、強さの使い方だ。

 知識の出し方だ。

 距離の取り方だ。

 そして、他者の誠意を測るときの冷たさだ。


 誰かを信じるとは、手綱を緩めること。

 手綱を緩めるとは、いつでも噛みつける牙を、しまうこと。

 有羽はまだ、牙をしまいきれていない。


 だから微笑む。

 穏やかに。柔らかく。

 ――けれど、それは温度のある笑みではない。


 夕焼けの光を浴びながら、彼はただ静かに、次の一手を心の中で並べていた。


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― 新着の感想 ―
ノングラータが取り憑いている間はダイス目+1にすると、追い付きやすくなって面白いかも
そもそも拉致被害者だし当然なんだよな
 試し行為だけど相手を楽しませているからヨシ!
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