第46話・レジーナ運搬中
魔境の大森林。
樹冠が空を覆い、昼でも薄暗い緑の回廊が続く。湿った土の匂い。苔の匂い。どこかで遠く、獣の鳴き声が反響している。
その森を――ひとつの部隊が、まるで自分の庭を歩くような足取りで進んでいた。
先頭は第二王女アウローラ。
彼女の周囲を護衛隊が扇状に展開し、侍女隊がその内側を支える。
隊列の中間に、背負い籠を担いだ聖騎士ラディウス。
籠の中には第一王女レジーナが収まっている。
王女を運ぶ形としては、どう考えても異常だ。
だが、この森において「普通」という言葉は意味を持たない。
枝の間を、黒い影が跳ねた。
「お、来た来た」
護衛の一人が、やけに軽い声を出す。
次の瞬間、樹の陰から飛び出してきたのは、牛に似た魔物だった。
体格は馬より一回り大きい。角は鋭く、眼は赤い。
並の兵士――レベル二十付近なら、これを見た時点で死を覚悟する。
護衛隊は覚悟どころか、呼吸すら乱さない。
槍を一閃。
角が折れ、肩を穿ち、突進の軌道をずらす。
同時に別の護衛の剣が脇腹へ滑り込み、骨の継ぎ目を狙って裂いた。
血が跳ねる前に、魔物の脚が崩れる。
「はい、次!」
誰かが冗談みたいに言った。
今度は猿の魔物が頭上から飛び降りてくる。
腕が異様に長く、爪は鉤。飛びかかれば人の頭を簡単に裂ける。
侍女が一歩、前に出た。
足捌きが滑らかだ。
ただ避けるのではない。間合いを外し、死角に入り、体勢を崩させる。
短剣が喉元に吸い込まれ、猿が声を出す暇もなく落ちた。
隙がない。
部隊の連携が、森の地形に最適化されている。
動きづらい樹海の中でさえ互いの死角を潰し、距離を合わせ手数を連ねる。
それを背中で感じながら、ラディウスは額に冷や汗を一筋走らせた。
(……彼らはもう、王国「最強の小隊」だ。国王直属の近衛騎士団でも勝ち目は無いだろう)
これが「護衛」だと言われたら、笑うしかない。
これは部隊だ。戦争の刃だ。
しかも、そこに侍女隊まで混ざっている。
侍女でありながら、動きは熟練の戦士そのもの。
(あの侍女隊と一対一なら……負けはない。だが、三人掛かりなら――)
確実に、自分が削られる。
高確率で敗北する。
王国が誇る聖騎士が、侍女三人に負ける。
数年前までは、絶対にあり得なかった構図だ。
「……うぅ」
背中から、呻き声が漏れた。
籠の中の、愛しい人の声。
ラディウスは歩みを崩さず、声だけを後ろへ投げる。
「大丈夫かい、レジーナ?」
「……なんとかね。揺れも、思ったほどではないですし……でも、態勢が、結構……」
丸まっている状態が続けば、さすがに辛い。
籠には覗き穴が付いていて外が見える構造だが――ラディウスは、そこを見ない。
見れば、おそらく、籠の内側から凄まじい眼光がこちらを射抜く。
そういう気配がする。いや、たぶん確実にする。
「それにしても……僕の出番が本当にないね。まさか、ここまでとは」
思わず苦笑が漏れる。
自分のレベルは四十七。国の最強の騎士として崇められる領域。
なのに、今はただの運搬役だ。
護衛隊は四十三から四十五の猛者揃い。
小隊全員が、自分に匹敵する。二人掛かりで来られたら勝てない。
それが、隊列の外周をいつもの仕事として回している。
籠の中から、呆れたような声が返ってきた。
「私からすれば、あなたもアウローラ達も、両方異次元よ。特にこの籠の中からだとね」
「……まあ、見え辛いだろうしね」
「全然見えないわよ! 黒い影がビュンビュン往復しているようにしか見えないわ!」
籠ががたがた揺れた。
レジーナが抗議のために身じろぎしたらしい。
ラディウスは思わず背筋を強張らせ、肩紐を少しだけ締め直した。
「無理に動かないで。酔うよ」
「もう酔ってるの!」
その返しに、ラディウスは小さく笑ってしまう。
笑って、すぐに謝った。
「ごめん」
「……許すわ。今は」
籠の中の声は、いつもよりずっと人間らしかった。
隊列はそのまま進む。
魔物が来ればいつものように処理され、森の気配は再び静まる。
やがて木々が途切れ、視界が開けた。
そこは、小さな空白。
樹海の中の開けた場所。
土は踏み固められ、焚き火の跡がいくつも残っている。ここで何度も野営してきた証拠だ。
夕方。
ちょうどいつも通りの到着。
ラディウスは、自分が遅れを生まなかったことに内心ほっとした。
背中に第一王女を背負いながら、隊列の速度に一切の遅れを出していない。
それは彼が聖騎士である証明でもある。
「ここで一泊。各自、いつも通り」
アウローラが言うと、護衛も侍女も即座に散った。
役割分担が完璧だ。警戒、設営、食料の準備、周辺の確認――全員が迷いなく動く。
ラディウスは背負い籠をそっと降ろした。
「降りられるかい?」
籠の蓋が、内側からゆっくり開いた。
のろのろと、レジーナが這い出てくる。
以前の予行練習の時ほどではない。
だが、それでもふらついている。足は地に着いているのに、魂が一拍遅れて付いてきている感じだ。
「……地面が、優しい」
第一王女がそんなことを呟く日が来るとは、王都の誰が想像しただろう。
侍女が冷たい水と布を持ってきて、レジーナは小さく礼を言い、ゆっくり呼吸を整えた。
そのとき、アウローラが中央に歩み出た。
彼女の手には、小さな石があった。
手のひらサイズの魔石。
だが表面には、極小の刻印が走っている。光の筋にも見えるし、文字にも見える。見る者の目が追いつかない密度だ。
有羽特製の「結界石」。
アウローラは迷いなく地面に膝をつき、石を埋め込んだ。
深く差し込み、掌で土を押さえ、最後に指先で石の頭を軽く叩く。
――トン。
それだけだった。
次の瞬間。
空気が変わった。
清浄という言葉が物理現象になったみたいに、周辺の空気が澄む。
湿り気が整い、鼻の奥に残っていた森の重さが薄れる。瘴気のようなものが、すっと引いていく感覚。
耳が拾う音まで変わった。虫の羽音が遠ざかり、代わりに焚き火の音がよく聞こえる。
結界は魔物の侵入を防ぐ――だけじゃない。
休息の質を底上げする。
疲労を軽くし、呼吸を楽にし、精神のノイズを削る。
レジーナは、目を見開いた。
聞いていた。
話には聞いていた。
だが、体で感じる衝撃は別物だった。
(……これは)
国境線を塗り替える道具だ。
戦場の前線に置けば、軍の消耗が変わる。疫病の流行地に置けば、流れが変わる。港に置けば、検疫の概念が変わる。
――国のパワーバランスを、静かに揺らす。
ラディウスも同じことを思ったのだろう。
彼は結界の広がりを肌で感じ、思わず喉を鳴らした。
(賢者、世渡有羽……)
彼は、まだ会っていない。
名前と噂と、アウローラの報告と、いくつかの成果物しか知らない。
だが今、この結界石ひとつで理解してしまった。
触れてはいけない領域がある、と。
アウローラはいつも通りの笑顔で、振り返る。
「はい! これで今夜は安全です! レジーナ姉上も、少し楽になりますよ!」
レジーナは返事をしようとして、言葉が一瞬遅れた。
政治家としての冷静さが先に出る。感情が追いつかない。
「……ええ。確かに。……これは、楽どころの話ではないわね」
その声は低かった。
怯えではなく、理解の重さ。
王族として「価値」を測ってしまった声。
空が茜色に染まり、樹海の影が長く伸びる。
焚き火に火が入り、湯が沸く匂いが立ち上がり始める。
この場所での野営は、アウローラたちにとっていつも通りだ。
だが、レジーナとラディウスにとっては違う。
有羽の居住区に辿り着く前から、すでに分かってしまった。
森の賢者は、噂話の中の怪物ではない。
この世界の「当たり前」を、静かに壊す存在だ。
レジーナは、結界の澄んだ空気をもう一度吸い込む。
胸の奥で、覚悟が音を立てて固まっていく。
森の南部で「賢者」と対面する。
その時、自分は王女のままでいられるのか。
それとも――籠から這い出るただの人間になるのか。
焚き火がぱちりと爆ぜた。
夜が来る。魔境の夜が来る。
けれど、結界の中の空気だけは、妙に穏やかだった。
◇◇◇
夜の樹海は、音が少ない。
少ない、というのは正確ではない。
虫の羽音もあるし、遠くで獣が鳴く声もある。風が枝を揺らす音も、腐葉土が沈む音も、確かに存在する。
ただ――この夜に限って言えば、そのすべてが「遠い」。
アウローラが地面に埋め込んだ結界石が、焚き火の熱とは別の温度で一帯を包んでいた。
魔物が近づけないというだけではない。空気が澄み、余計な湿気と瘴気の気配が薄れ、耳に刺さるような森の圧が小さくなる。
結果として、野営地は不思議なほど静かだった。
焚き火の火が落ち、鍋の底の残り香が消え、食器の片付けも終わる。
護衛隊は交代で見張りに就き、侍女隊は簡易の記録や装備点検を済ませ、各自の寝床へ散っていく。
その輪の中心から少し外れた場所に、二つ並んだテントがあった。
ひとつは、護衛の詰所に近い予備。
もうひとつが、第一王女レジーナと聖騎士ラディウスのためのものだ。
二人だけ、夜間の見張りから除外されている。
レジーナはその事実に、ほんの少しだけ胸が痛んだ。
だが、痛みを理由に動くことはしない。
無意味だからだ。
戦闘能力の乏しい者が、闇の森で見張りに立っても役に立たない。
むしろ、危険を増やす。
護衛対象が余計なことをして負担を増やすのは、最悪の仕事だ。
守られる側の務めは、守りやすくあること。要らぬ行動をしないこと。体調を万全にし、意思決定が必要な時に、迷いなく判断できる状態でいること。
レジーナはその考えを、王女として叩き込まれてきた。
――それを、実践するだけ。
(私は、最善を尽くす。私にできる形で)
テントの入口を閉じると、外の焚き火の光が布越しに薄く揺れた。
風の音が、さらに遠ざかる。
結界の中の静けさが、薄い布一枚で切り分けられ、まるで別世界のように密になる。
寝具は、寝袋。
王都の品の良い寝具とは似ても似つかない。
布の筒。詰め物の塊。肩まで潜り込むと、もはや人の形が消える。
レジーナは最初、正直に思った。
(蓑虫だわ)
だが、今は違う。
身体が包み込まれる感覚。
冷たい地面の気配が消える感覚。
息を吐いた熱が胸元に溜まり、じんわりと全身に回っていく感覚。
驚くほど、暖かい。
これもまた、森の賢者の知識を基に王国が再現した品だった。
アウローラたちは何度も使い、今では軍にも冒険者にも広がりつつある。
だが王女という身分ゆえに、レジーナは実物を使ったことがなかった。
今夜が初めてだ。
「……あったかい」
思わず声に出る。
「私、何度か野営は経験したことあるけれど……これは凄いわ。冷えが、入ってこない」
隣では、ラディウスも同じように寝袋に包まっている。
男がこれを使うと、どうしても「装備品」に見えるのが少し可笑しい。
聖騎士の称号に、蓑虫が混ざると格が落ちる気がする。
「僕もそう思う。最初、蓑虫みたいな格好はどうかと思ったけどね」
やはり同じことを考えていたらしい。
「ほんとにね。私も、何なのこれって思ったわ」
二人で、くすくす笑う。
笑い声は小さい。だがテントの中には、それで十分だった。
外の世界が危険であればあるほど、こういう小さな笑いが生き物みたいに温かい。
しばらく沈黙が落ちた。
寝袋の中で呼吸が整い、耳が夜の静けさに慣れていく。
結界の外なら、森の奥の気配がもっと濃いはずだ。
木々の陰から覗く目のようなものが、常にあるはずだ。
だが今は、それがない。
澄んだ空気だけが、ある。
「……こんな優れた技術を」
レジーナが、ぽつりと言う。
「片鱗だけとはいえ、賢者はアウローラに教えた。何の代価も求めずに」
ラディウスが、小さく息を吐いた。
「信じられない話だよね。これだけの知識、無料で渡していいものじゃない」
彼は侯爵家の人間だ。
領地運営も、兵の装備も、予算も、いつだって現実の数字と結びついている。
「僕の侯爵領で、この技術を提供する者が居たら手厚く遇する。これは絶対だ。囲い込むという意味じゃない。正当な報酬を払って、継続してもらう」
「ええ。その気持ちは解るわ」
レジーナは天井の暗闇を見上げた。
そこには何もない。ただ布と闇だけ。
だが、頭の中には答えの出ない問題が浮かび続けている。
森の賢者。
世渡有羽。
国の枠の外にいるのに、国の内側を変えてしまう存在。
しかも、本人にその自覚が薄い――あるいは、薄く見える。
(無償の施しは、善意だけでは成立しない)
外交官として、レジーナはそれを知っている。
無償には無償の代価がある。金銭でない代価が。
尊厳、自由、時間、立場、未来。
どこかが削れている。
だから、余計に警戒が必要だった。
「……彼との交渉は、王国の今後を左右することになると思うわ」
声は静かだが、芯がある。
眠る前の会話であっても、レジーナはそういう言葉を曖昧にしない。
「正直、一国の王と会談に臨む……それと同じ緊張感よ。この機会を、決して無下には出来ない」
ラディウスが、少しだけ身体の向きを変えた。
寝袋の中で動くと布が擦れる。ふわ、と空気が揺れる。
「……君の愛しい妹が、ようやく掴んだ機会でもあるしね」
「ええ。絶対に無駄に出来ない」
レジーナは、目を閉じたまま頷く。
まぶたの裏に、アウローラの顔が浮かぶ。
数年前の、荒れていた頃の顔。
瞳に火があるのに、熱が冷たかった頃の顔。
笑っているのに、どこか壊れていた頃の顔。
そして今の顔。
お日様みたいに笑う顔。
冗談みたいに強くなって、冗談みたいに明るくなって、冗談みたいに「生きている」顔。
(あの子の頑張りに、私は応える)
姉として。
王族として。
「あの子が二年かけて繋いだ縁よ。命を張って、時間を積み上げて、何度も拒絶されて、それでも諦めなかった」
言葉にすると、喉の奥が少しだけ熱くなる。
レジーナは感情を抑えるのが得意だ。
だが、妹の話だけは別だ。
「姉である私は、応える義務があるの」
ラディウスは短く、「うん」と言った。
それだけで十分だった。余計な慰めは要らない。レジーナには、理解だけが必要だ。
レジーナは少し間を置いてから、もう一つ、心の奥の話を続ける。
「……まだ、分からないのよ」
「何が?」
「賢者様の考え。性格。求めるもの。嫌うもの」
アウローラから、何度も聞いている。
口は悪い。ぶっきらぼう。人嫌い。けれど優しい。
制度の意味は理解している。権力を嫌うが、権力の暴走も嫌う。
王都に行く気はない。関わりたくない。けれど、見捨てきれない。
聞けば聞くほど、矛盾しているようで、一本の筋がある。
だからこそ、厄介だ。
「言葉だけでは理解できないわ。私は……相手と対面して初めて、相手の輪郭を掴める。視線、間、声の温度、沈黙の質。そういうものを見ないと、判断はできない」
外交の刃。
そう呼ばれることは、光栄であり呪いでもある。
いつだって自分の判断が、国の運命を削る。
明日。
賢者と会う。
その一瞬の判断で、王国の未来は大きく変わる。
「賢者様の話はアウローラから何度聞いてるけど……ふふ、緊張するわ」
レジーナは自分でも意外なほど柔らかい声で笑った。
「王女としてだけじゃない。あの子の姉としても、心が弾んでる」
ラディウスが、わざとらしく咳払いをした。
「妹を狙う、不逞の輩として?」
「そんなこと言わないの」
即答だった。
そして少し間を置いて、レジーナは静かに続けた。
「……まあ、あの子を泣かせたりしたら、ただじゃおかないけどね」
声の温度が、ほんの少しだけ下がる。
それが冗談なのかどうか、夫であるラディウスには判断がつく。
多分、半分本気だ。
ラディウスは笑った。
「君が怒ると、僕より怖いからね」
「当然でしょう。あなたは優しいもの」
「優しいのは、君が守るべきものを明確にしてくれるからだよ」
そう言われると、レジーナは言葉を失う。
寝袋の中で、指先が少しだけ動いた。
暗闇の中で、ラディウスの手を探すように。
ラディウスが、その指先をそっと触れる。
寝袋越しでも分かる温度が、心を落ち着かせる。
外では、護衛隊の声が微かに。
足音も遠くに聞こえた気がする。
だが、結界の中の夜は、穏やかだ。
レジーナはふと、思い出した。
自分が侍女隊に命じたこと。
あなたたちは城で待機。
正しさが、あそこでは危険になる。
王族に仕える者の「正しさ」は、森では刃になる。
自分の威厳を守るための叱責は、賢者との縁を断ち切る。
それを、絶対に許してはならない。
(私自身も同じだ)
王女の威厳を振りかざしてはいけない。
法も領土も届かない場所で、権威を武器にするのは愚かだ。
レジーナは心の中で、明日の自分に釘を刺す。
私は交渉する。
支配しに行くのではない。
お願いしに行くのでもない。
互いの利益を見つけ、互いの恐れを避け、互いの境界を守る。
その時、ラディウスが小さく言った。
「君は、いつも通りでいい」
「……いつも通り?」
「相手の目を見て、言葉を聞いて、沈黙を聞いて、必要なら引いて、必要なら押す」
レジーナは少し笑った。
「あなた、私の仕事をよく見ているのね」
「当たり前だろう。僕は君の護衛だ。戦場だけじゃなくてね」
寝袋の中で、レジーナはゆっくり息を吐いた。
緊張が消えるわけではない。だが、輪郭のない不安が、少しだけ形になる。
形になれば、対処できる。
「全ては明日よ」
レジーナは、いつもの自分に戻る。
声に力が戻る。瞳が、暗闇の中でも鋭くなる気がする。
「いつもの外交と同じ。相手の目を見て、相手の言葉を聞いて、相手の求めるものを見定めて――私はそうやって、国を背負って生きて来た」
言い切ると、胸の奥が静かに整う。
自分の仕事に立ち返ることは、恐怖を小さくする。
だから最後に、レジーナは少しだけ柔らかい言葉を足した。
「……おやすみなさい、あなた。明日はいよいよ賢者様との対面よ」
ラディウスは即座に返す。
「ああ。おやすみ、レジーナ。安心して眠ってくれ。君は僕が、必ず護る」
その言葉は、誓いだった。
騎士の誓いであり、夫の誓いであり、王国の剣の誓いだ。
レジーナは目を閉じた。
寝袋の中の温かさが、ゆっくりと身体を沈める。
外は魔境。
明日は未知。
だが、今夜だけは、結界と温もりがある。
眠りに落ちる直前、レジーナは心の中で、もう一度だけ確かめた。
私は、守られる。
だから私は、守られやすくある。
そして明日、私は国を守る。
テントの布が、微かに風で揺れる。
それは遠い森の呼吸のようで――結界の中の夜は、静かに更けていった。




