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異世界転移したけど森の奥で引きこもってます。スカウト? いやぁ、森から出る気はないので遠慮します  作者: 初音の歌
第二章

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第29話・夜の男子会


 有羽のログハウス、その一角。

 昼間は工房と台所としてフル稼働していた空間が、今はすっかり「男のよろず部屋」になっていた。

 床には毛足の短い敷物。

 その上に、簡易の麻雀卓がどん、と置かれている。

 卓といっても、有羽が木材と魔法でこしらえた麻雀卓だ。

 卓の四方に座った男たちが、カチャカチャと軽快な音を立てて牌を積み上げていた。


「んじゃ、俺が起家でいいな?」

「どうぞどうぞ。さっきの半荘でボロ負けしてましたしね、賢者殿」

「うっせ」


 有羽は、前に座る護衛隊員の軽口に舌打ちしながらも、楽しそうに点棒を整える。

 卓を囲んでいるのは、有羽と、アウローラ付き護衛隊の精鋭三名。


 一人は三十代前半の護衛隊長。

 短く刈り込んだ黒髪に、いかにも武人という感じの顔つきだが、牌を弄る手つきは妙に器用だ。


 一人は二十代半ば、金髪の青年護衛。

 愛嬌のある顔立ちで、普段から侍女たちにいじられているタイプ。


 もう一人は二十代後半の、寡黙そうな男。

 だが、打牌はやたらと攻撃的で、「しれっとリーチ」「無言で倍満」を平然とやらかす。


(まあ、ここら辺は完全に見慣れた面子になってきたなぁ)


 有羽は、シャッフルされた牌をじゃらじゃらと掻き集めながら、少しだけ感慨にふける。

 最初に麻雀を教えた時は、全員「何だその遊戯は」と怪訝そうだったくせに――

 今では、ルールを完全に飲み込み、リーチだの鳴きだのドラだのと言い合っている。


「積んだか? じゃあ、割るぞー」


 四人が手早く山を積み、サイコロを振る。

 コロコロ、と小さな音がして、出目が決まった。


「はいはい、親の前から数えて……ここね」


 隊長が、慣れた手つきで山を割る。

 牌が配られていく間にも、雑談は始まっていた。


「にしてもよ」


 金髪の護衛が、手牌を一枚一枚立てながらぼそりと言う。


「侍女隊、全員レベル高すぎねぇか?」

「戦闘力の話か?」


 有羽が、手牌を見つつも口角を上げる。

 金髪の言わんとしてる事を理解した上での問い。

 案の定、金髪は笑みを深くする。下品な類の笑み。


「あー、いや。色んな意味でな」

「はい出た」


 隊長が苦笑した。

 公の場なら兎も角、今は男だけの世界。

 隊長とて、野暮は言わない。


「まあ、否定はしないがな。腕も立つし仕事も出来るし、礼儀もきっちり。殿下の身の回りも、俺たちの仕事もよく分かってくれてる」

「そうそう」


 金髪が、牌を並べ直しながら力説する。


「やっぱ、こういう仕事だろ? ウチの隊には居ないけどさ。他の王族の護衛には、中には居るんだよ」

「何がだ?」

「いつも帰って来ない! もう嫌! って騒いで、荷物まとめて実家に帰るやつが」

「うわぁ……」


 有羽が、心の底から同情するような声を出した。

 王族、それも前線に出るタイプの護衛ともなれば、帰還の頻度は少ない。

 命の危険も多い。「今日無事に帰れて、明日も無事とは限らない」仕事だ。


「まあ、そういうのも人間だとは思うがな」


 隊長が、ぽん、と一枚切りながら言う。


「その点、侍女隊は俺たちの仕事に理解がある。遠征続きでも文句は言わんし、むしろこっちの身を案じてくれる」

「しかも全員美人だ!」


 金髪が、下心満載な笑顔で宣言する。


「わかる」


 寡黙な護衛が、珍しく即答した。


「それが大事」

「お前が言うと、なんか説得力あるんだよな……」


 隊長が苦笑しつつ、手牌から一枚をそっと河へ。


「ポン」


 間髪入れず、寡黙護衛が鳴いた。


「お前そこで鳴くのかよ!? まだ序盤だぞ!」

「序盤だからこそだ。鳴きたいから鳴いた」

「そういうとこだぞ、お前の攻撃力の高さ!」


 麻雀卓の上では、そんな感じで牌と会話が飛び交っている。

 有羽は、自分の手牌を眺めながら、ふと口を挟んだ。


「そういやさ。君ら、誰推し?」

「推し?」


 金髪が首を傾げる。


「誰が一番好みかって話よ。あの美女、美少女揃いの侍女隊に好みは絶対あるだろ?」

「あー……」


 三人とも、同時に手を止めた。

 しばし、静寂。


「リーチ」


 沈黙を破ったのは、金髪護衛。


「おい! 会話が重くなる前にリーチすんな!」

「だって揃いましたしねぇ」

「お前ほんと容赦ねぇな!?」


 有羽は笑いながらも、捨て牌を慎重に選ぶ。


「ロン」

「はやっ!」


 あっという間に、金髪護衛が手牌を倒した。


「リーチタンヤオ、ドラドラ」

「手堅く稼ぎやがって……」


 隊長が苦い顔をしながらも、点棒を渡す。

 一局目が終わり、卓の上が整理されたところで――

 金髪護衛が、さっきの話題に戻るように呟いた。


「……やっぱマルガリータさんいいよな」


 瞬間、三人の意識が同じ方向を向く。


「わかる」

「すごくよくわかる」

「理解しかない」


 寡黙護衛ですら、迷いなく頷いた。

 有羽でさえ同意した。妙齢の女性の色気には逆らえない。


「でも再婚話、全部断ってるんだろ?」


 隊長が、点棒を弄びながら言う。


「旦那さんに操立ててるって話だもんなぁ。戦死されたって聞いたが」

「女傑って感じだ」


 有羽は、そこでようやく自分も言葉を挟む。


(そういや、独り身って言ってたっけな)


 思い返す。

 切れ長の瞳。

 黒髪をきっちりとまとめ上げた姿。

 無駄な隙のない所作に、時折ふと漏れる、年相応の柔らかさ。

 たしかに、頭一つ抜けた「大人の女」の雰囲気がある。


「未亡人なんだよな……」


 有羽は、牌を配りながら問う。


「でも国もさ、あれだけの傑物で美人、放っておかないでしょ」

「おうよ。あんな美女、放置する方がどうかしてる」


 隊長が、苦笑いとも羨望ともつかない声を出す。


「しかも賢者殿。マルガリータ殿が何て呼ばれているか知ってますか?」

「え、あだ名あんの?」

「黒真珠ですよ、黒真珠」


 金髪が、妙に芝居がかった口調で言う。


「王都の夜会で、壁の花になってるマルガリータ殿に言い寄る男が、今も絶えないとか」

「うわー……」


 有羽は、ありありと想像してしまう。

 煌びやかな夜会の会場。

 壁際で、静かに杯を傾ける黒髪の美女。

 そこに、暇を持て余した貴族の男たちが、次々と声をかけに行く光景。


(めちゃくちゃ迷惑そうな顔してるのが、簡単に浮かぶな……)


 あの切れ長の眼差しで、億劫そうな視線を向けられるのだ。

 想像しただけで背筋が伸びてしまう。

 しかし。


「……でも気持ちは分かる」


 ぽつりと言えば、


「確かにな」

「気持ちだけは、すごくよく分かる」


 三人が同じタイミングで頷く。


「黒真珠かぁ……」


 有羽は、手元の牌を見ながら小さく笑った。


「王都の人間、ネーミングセンスは結構あるな」

「たまには良いこと言いますよ、あいつらも」


 隊長が、ぽん、と一枚切る。


「ポン」


 今回は金髪が鳴いた。


「俺、マルガリータさんにお疲れさまですって声かけられるだけで、三日は頑張れるもん」

「安い男だな、お前」

「褒め言葉として受け取っておく!」


 わはは、と笑いが広がる。

 有羽は、開いた手牌を眺めながら、なんとなく尋ねた。


「でも、再婚話は全部断ってるんだよな?」

「そうだな」


 隊長が、少し真面目な顔になる。


「『夫はひとりで充分です』って、公の場で言っちまったからなぁ」

「おお……」

「旦那さん、相当な人だったって聞きますしね」


 金髪が、牌を撫でながら続ける。


「騎士としても一流で、人柄も良くて。戦死が伝わった時、王都で女たちの嘆きがすごかったとか」

「それを全部真正面から抱えたのが、マルガリータ殿ですからね」


 寡黙護衛が、珍しく長めに言葉を紡いだ。


「そりゃあ、簡単には再婚しないでしょう」


 牌が、ぱちん、と卓に置かれる音が続く。

 有羽は、それを聞きながら、なんとなく胸の奥がちくりとするのを感じた。


(……まあ、そうだよな)


 自分だって、「失ったもの」を全部忘れられたわけではない。

 日本の家族のこと。

 友人のこと。

 元いた世界の景色。

 前を向いて生きてはいるが、心のどこかに、確かに遺影のように残っているものがある。


「……ん?」


 ぼんやりしていたところに、金髪の声が飛んできた。


「賢者殿はどうなんすか」

「何が」

「好み」


 間髪入れずに話題を振ってくるあたり、空気の読み方がある意味抜群だ。


「こう、守ってやりたくなるタイプですか? それともマルガリータさんみたいな、頼れる大人の女系?」

「おい、詰め方が直球すぎるぞ」


 隊長が苦笑しながら制する。


「そういう話は、もうちょっと酒入ってからだろ」

「いやいや、今だから聞けることもあるんですよ!」

「大体、最初に話振ったのは賢者殿でしょうに。逃がしませんよ?」


 金髪がにやにや笑いながら、さらに追撃しようとした瞬間――


「リーチ」


 次は、寡黙護衛が空気を読まないリーチ宣言。


「お前ーーーーッ!」

「無言で手進めてやがったなぁ!?」

「話の流れも、点棒も持っていこうとする男だな……」


 わいわいと騒ぐ声が、ログハウスの天井に響く。

 女たちのひそひそ話など、ここまで届くはずもない。

 男たちの耳には、ただ牌の音と笑い声、そして少しずつ危ない方向に転がり始める話題だけが流れ込んでいた。

 この後の会話は――まあ、どこの世界でも男連中の集まりでありがちな方向に進んでいく。


「やっぱ、ああいうクール系がさ……」

「いやいや、飲ませると崩れるタイプも捨てがたい」

「あの侍女さん、酔ったら絶対可愛いだろ」

「殿下は?」

「そこ突っ込むな」


 一同が爆笑し、

 誰かがまたリーチをかけ、

 誰かが「そこで待つなよ!」と叫び、

 誰かが「倍満!? お前、しれっとデカい手作るなよ!」と嘆く。


 牌の山が崩れては積まれ、

 点棒が右へ左へと移動し、

 笑い声は増すばかり。


 やがて話は、晩酌のつまみの話から、酒にまつわる失敗談へ。

 さらに「もし王都に帰ったら誰を誘って飲みたいか」といった方向に転げ落ちていき――

 いつしか、この「麻雀」そのものに対して、話題が移った。

 牌を集めている最中、ふと隊長が言う。


「しかし賢者殿、この遊戯……」

「麻雀な」

「そう、それだ。王都での普及率。貴族達の間では中々凄いぞ?」


 有羽は、手早く牌をかき集めながら肩をすくめる。


「成程ね……確かに、教養があって、知見もある貴族なら、麻雀の奥深さを理解できるか。けど、そういうってことは庶民はまだ触る機会もない?」

「そりゃそうさ」


 金髪護衛が、自分の配牌を眺めながら頷いた。


「そもそも、この牌からしておかしいもんな」


 卓の上に並ぶ牌は、どれも角がきっちり揃い、手触りも均一。

 白、赤、緑、黒――色は鮮明で、柄の歪みもほとんどない。


「これ、なんだかんだで全部、賢者殿の特別製なんだろ?」

「ん。まあ、俺の魔法で量産したやつだな」


 有羽は、手牌を立てながら答える。


「同じ厚さになるように魔法で削って、同じ重さになるように内部をちょっと調整して、表面も、削る位置を術式で統一して――ってやってるからな。普通に人力でやったら、相当大変だぞ?」

「でしょうねぇ……」


 隊長が、自分の手牌をさわさわと撫でる。


「木工職人に頼んでも、ここまで全部同じにはならんからな」

「手作り牌だと、どうしても少しずつ違いが出ますからね」


 寡黙護衛が、珍しく補足する。


「角の丸まり方とか、重さとか」

「そうそう」


 有羽は、にやりと笑った。


「そういうのを見極めるの、ガン牌って言うんだよ」

「がんぱい?」


 三人が同時に首を傾げる。


「牌の表面とか角とか、傷とか歪みとかを全部覚えて、見えないはずの牌を見て当てる行為。俺の国にも居たんだよ、そういうイカサマするやつが」

「ほら来た」


 金髪が、妙に納得した顔になる。


「やっぱ賢者殿の国にもいるんだな、そういう連中」

「どの世界にも一定数、変な方向に努力する奴がいるってのは真理だな」


 隊長が苦笑する。


「こっちでも、カード遊びで似たような話は聞いたことがある。わざと端を少し折って、特定の札を見抜こうとするとか」

「どこの国にも居るもんだ。そういうイカサマ師」


 有羽の声には、半分呆れ、半分感心したような色が混じる。


「だからさ。麻雀みたいなゲームを公の競技として広めようと思ったら、まず牌の質からどうにかしなきゃいけないわけよ」

「確かに」


 隊長が頷く。


「賢者殿みたいに作れればいいが、同じものを大量に作るのは難しい。真似して作っても、どうせ見抜く奴が出てくる」

「ガン牌するやつですな」


 金髪が、どこか誇らしげに新しい単語を繰り返す。


「やたら楽しそうに覚えるな、その言葉……」


 有羽は半眼になった。

 そんな会話をしつつも、山は崩されては積まれ、牌は配られていく。





◇◇◇





「……で、問題はそれだけじゃない」


 有羽がそう切り出したのは、南場もそろそろ終盤に差し掛かった頃だった。


「ん?」

「ルール?」

「いや、ルールはもうそこそこ固まってるだろ。ローカル役とかはまぁ、おいおいとして」


 有羽は、一枚切ってから続ける。


「麻雀ってさ――どう考えても、賭け事に向いてるゲームなんだよ」

「それは」

「否定できないな」


 護衛三人が、妙に素直に頷いた。


 四人で卓を囲み、点数を競う。

 勝ち負けが、目に見える形で出る。

 牌の上振れ下振れもあるが、読みや度胸で差をつけられる。

 賭けるなという方が無理な構造だ。


「今んとこ、王都の上流階級じゃ遊戯として広めてるらしいけどよ」


 隊長が、手を伸ばしながら言った。


「銅貨とか、菓子とか、酒一杯とか、その程度で勝ち負けしてるはずだ。まだ穏やかなもんだが……」

「銀貨が出てきたら洒落にならんな」


 寡黙護衛が、ぽつりと呟く。


「銀貨、金貨レートで打つ店が出てきたら……王都が大騒ぎになる」

「まあ、なぁ……」


 有羽は、内心だけで、数字を並べる癖が抜けない。

 瞬時に思い浮かべる。この世界での通貨。

 下から、賤貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨。


(日本円で換算すると……賤貨一枚で、だいたい十円くらい。銅貨が五十から百円。銀貨一枚で二千から三千円くらい。金貨は五万から六万……こんなもんか)


 一局で飛んだら、数十金貨が動くような卓――それはもう、死人が出ても不思議じゃない額だ。


(千点で金貨一枚レートとか始めたら、アホほど金が消えるぞ……)


 考えるだけで、頭が痛くなる。


「どうにかならんのか?」


 隊長が、牌を撫でながら呟く。


「殿下もお好きだしな、この遊戯」

「殿下に限らず、教養ある貴族は結構ハマってますよ」


 金髪が笑う。


「運だけでどうにかなるわけじゃない、ってのがいいんでしょうね」

「それはあるな」


 有羽も頷いた。

 麻雀は、たしかに運の比率が高い。

 だが、運だけでは勝ち続けられない。


「運の波を読む目と、他家の手を読む洞察力と、自分の手をどう終わらせるかの思考力が要る」

「度胸もね」


 寡黙護衛が、一枚切りながら言う。


「安全牌ばかり切っていたら、永遠に勝てない」

「無謀と勇気の境界を見極める訓練には、いい遊戯だな」


 隊長が感心したように言った。


「うちの隊でも、若い連中に叩き込むか?」

「振り込んだら腕立て百回とかいう地獄ルールになりそうなんですが、それ」

「いいじゃないか、身体も鍛えられて」

「やめて差し上げてください……」


 そんな冗談めいた話の裏で、確かに護衛たちは感じていた。

 ――この遊びは、戦場でも役に立つ。

 場の流れを読む感覚。

 相手の「気配」を追う習慣。

 自分の手札から「最善手」を探す思考。

 それらはすべて、戦況判断や部隊運用に繋がる。


「……で」


 そこで、金髪が顔を上げた。


「法整備の話に戻るんだけどさ」

「お前が戻すのかよ、その話」

「だって気になるだろ?」


 牌を一枚引き込みながら、彼は続ける。


「賤貨や銅貨くらいならまだ笑い話で済むけどさ。銀貨、金貨が動き始めたらさすがに問題だろ?」

「そりゃそうだ」


 隊長が頷く。


「王都にも、すでに賭けで身を持ち崩した連中はいるからな。カードでも、サイコロでも、酒でも」

「酒の飲み比べや力比べだって、賭け事にできますからね」


 寡黙護衛も、冷静に言葉を足す。


「やろうと思えば、何にでも金を乗せられる」

「そうそう」


 有羽は、小さく肩を竦めた。


「だからな。麻雀だけを悪者扱いするのも、ちょっと違うのよ」

「じゃあ、どうする?」


 隊長の問いに、有羽はしばらく考えるように黙り込んだ。

 そして、一枚牌を切ってから、ぽつりと言う。


「完全に健全な遊戯として世に出すのは、多分不可能だろうな」


 三人が、同時に眉をひそめた。


「そこまで言い切るか」

「言い切る」


 有羽は、あっさりと答えた。


「構造上、金と相性良すぎるんだよ、このゲーム。『賭けるな』って法律で縛っても、裏で賭ける奴は出る」

「……まあ、そうですね」


 寡黙護衛が静かに認める。


「じゃあ、どうする?」

「できるだけ安全に進めるしかねぇだろ」


 有羽は、そこで少し真面目な声になった。


「俺が思うに――国を挙げてやるしかない」

「国?」


 金髪が目を丸くする。


「国家が噛む以外の方法は、たぶん無いと思うぞ」


 有羽は、指先で牌を弄びながら続ける。


「公認の麻雀卓を、王都や各地にいくつか作ってさ。ここ以外で大きな金額を賭けたら処罰くらいのルールを、ちゃんと作る」

「公営賭場にするということか?」


 隊長が言うと、有羽は肩を竦めた。


「まあ、そんな感じ。王家公認って立場にしちまえば、少なくともどこで大金が動いてるかを把握できる」

「……なるほど」

「完全に潰すことは出来ないなら、せめて見えるところに集めるわけですか」


 寡黙護衛が理解を示す。


「そう。どうせやる奴はやる。だったら、裏路地の安宿で銀貨金貨が飛び交うより、王家の目が届く場所でやらせた方がまだマシ」


 有羽は、苦笑いを浮かべる。


「それでも取りこぼしは出るだろうけどな。全部は救えない」


 隊長が、しばし黙ってから言った。


「……賢者殿、あんた、王城で話したらそのまま法案になるぞ」

「やめとけ」


 有羽は即答した。


「俺は法整備屋じゃねぇし。思いつきで喋ってるだけだ。細かいところは、そっちの頭いい人達が詰めればいいだろ」


 金髪が、そこでぽんと手を打つ。


「でもさ、そういう頭いい人達が、もう一人いるじゃん」

「だれだ」

「第一王女殿下」


 卓の空気が、少しだけ変わる。


「……第一王女さん、そんなにハマってんの?」


 有羽が、恐る恐る聞くと、護衛三人とも微妙な顔をした。


「随分、嵌っております」


 寡黙護衛が、真面目に頷く。


「夜会の後の二次会で、たまに麻雀卓が出るんですが……」

「レジーナ様、強いんだよなぁ……」


 隊長が、どこか遠い目をした。


「読みも度胸も、洒落にならん。あの御方は、絶対にブラフが顔に出ない」

「一度、殿下(アウローラ様)が『姉上は運も良いから』って笑ってましたけど……」


 金髪が、肩をすくめる。


「正直、運だけじゃないっすよ。あの人は勝ち方知ってる」

「……うわぁ」


 有羽は、頭の中で想像する。

 アウローラの姉――第一王女レジーナ。

 優雅な笑みを浮かべながら、静かに牌を切る姿。

 捨て牌は綺麗に揃えられ、指先からは一切の迷いが見えない。


『あら、ごめんなさいね?』


 とでも言いながら、倍満を叩きつけてくる光景が、そのまま目に浮かぶ。


(……やべぇタイプだな)


 まだあった事も無い、アウローラの姉を想像して、怖気が走る。

 なんとなくだが、有羽自身の天敵のような気がしてならない。

 しかし、そんな相手とも。


「……そのうち会うかもしれんけどな」


 小さくぼそりと呟くと、三人が一斉に顔を上げた。


「今なんと?」

「いや、なんでもねぇ」


 有羽は、慌ててごまかす。


「リーチ」


 とりあえず宣言してみた。


「話をごまかすためにリーチをかけるな」


 隊長が苦笑しつつも、河を睨む。


「でも、まあ結論としては――」


 そこまで言って、有羽は一枚引き、手牌を眺めてから、ぽんと河に置いた。


「君らの国で、一般にも普及するには、まだまだ準備が足りないってことで」

「……ですよねぇ」


 金髪が、肩を落としてため息をつく。


「牌の問題もある。法整備もいる。公営にするなら王家や評議会の決定も必要……」


 寡黙護衛が、指折り数える。


「道は長いな」


 隊長が、ぽつりと言った。


「だが」


 彼は、ふっと笑う。


「長い道の先にある景色は、悪くないかもしれん。王都の酒場で、賤貨を握った若者が麻雀で読みを鍛えてる……そういう未来も、少し見てみたい」

「その時は、きっちり責任者として呼ばれそうですがね、隊長」


 金髪がからかう。


「麻雀普及隊長という新たな肩書きが」

「断る」


 即答だった。


「俺は殿下の護衛で手一杯だ。それ以上の仕事は御免だ」

「ロン」


 その瞬間、寡黙護衛が静かに牌を倒した。


「……お前な」


 隊長が、額を押さえる。


「ここぞというところだけ持っていく癖、どうにかならんのか」

「運も実力の内」

「はいはい……」


 有羽は、笑いながら点棒を数えた。


 牌の音。

 笑い声。

 少しだけ真面目な議論。


 ログハウスの中で夜は更けていく。

 麻雀という名の遊戯は、まだ王都全体には広まっていない――


 だが、こうして少しずつ、護衛たちの間で、王族の間で、そしてそのうち国全体へと、じわじわと根を伸ばし始めているのだった。



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― 新着の感想 ―
一度だけ女子大生コンパニオン3人と、実写版脱衣麻雀やった。真剣に打ってると、思ったほど半裸に興奮してる暇無かったw
 私も友人に誘われてWEB上のやったけど、ルールとか読んでないから適当に鳴いて居るなぁそれでも何か勝ててるみたいだから問題ないけど素人がするならロンだのツモだのように審判か助言してくれる補佐が欲しい。
一局目で寡黙護衛さん、鳴いてるのにリーチしてますよ。上がりからもリーチ抜けてますし、リーチしたのは別の方では?
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