160.最終形態
カチッ!
無機質で、軽い音が鳴る。
引き金を引いても、火薬が炸裂しない。
それもそのはず、既に先程最後の薬莢が排出され、銃弾は残されていなかった。
「なくなっちゃったかー。やっぱりアランさん達と戦った方が良かったかな?
いや、でも、初見でコイツは危険過ぎるよね……」
私の周りの建物は、既に見る影もない程崩壊していた。
カオスヒュドラの双頭がこちらを睨む。
しかし、睨んでいた頭が一つだらんと垂れる。
私が撃ち続けた中央の顔の息の根が止まったのだ。
光を失った目は、もう動くことはないと分かる。
それでも最も左の頭は健在。むしろ、その硬質な鱗で殆ど無傷。
その頭が中央の首に噛みつき、邪魔だと言わんばかりに引きちぎる。
引きちぎられた首から紫紺の煙……
いや、凝縮されて黒と呼ぶべき煙が湧き出て、身体を覆う。
ゴキッ!ガキッ!
骨が、骨格が変わる音。
ベチャりと腐った部分が落ちていく。
煙が収まると左側に寄っていたはずの首が中央に移動し、腐っていた半身がほとんど元に戻っていた。
丸太のように大きかった胴体は、一回りくらいかな。
10mサイズくらいまで小さくなって、流線型の細身となっている。
しかし、それはまるで本来の姿かのように感じられるほどしっくりくる。
いや、おそらく本来の姿はこっちなのだろう。
明らかに先程までとは違う雰囲気だ。
穴の空いた翼膜は治り、誇示するように大きく広げている。
2本の後ろ脚だけで立ち上がり、その黄金に光る瞳は鋭く私を見つめている。
「うっはッ!エグッ!?
やっぱ、最終形態はカッコイイねぇ……
これは部屋に飾りたいなぁ……」
もちろん、前世ではフィギュア化されたので部屋に飾っていた。
当たらなさ過ぎて、ラストワン賞と同時の入手になったのはいい笑い話になっていた。
さて、最終ラウンド、ここからが本番である。
第1段階は囲われ、動きが制限された状態での戦闘。
第2段階はフィールドが広がり、縦横無尽に動き回るカオスヒュドラ+ゾンビとの戦闘。
最終段階、本来の力を取り戻したカオスドラゴン+更に増えるゾンビ達。
段階を経るごとに、有効部分が減ってしまい、もう銃弾が通る部位は僅かな腐敗が残る場所のみとなってしまった。
肩、脇腹、尻尾の付け根、そして、首元のよく逆鱗と呼ばれる場所。僅かな弱点である。
ラスボスに相応しい鬼畜難易度である。
……咆哮
私はコンクリート土台の残る瓦礫に走る。
瓦礫に滑り込んだ瞬間、高熱が通り過ぎていく。
カオスドラゴンのブレスである。
ここからはブレスまで使ってくるから厄介だ。
周囲の瓦礫が一気に燃え尽きている。
私は残弾の無くなったアサルトライフル【カルカロス】から、困った時のいつものハンドガン【オズ】へと持ち替える。
本当ならアサルトライフルがいいんだけど、弾がないとただの飾りである。
「アランさんはまだかな?」
そう呟くけど、まだ無線は来ない。
やっぱり、先生って偉大だよなぁ……
先生がいれば弾切れなんて起きないのにさ。先生を批判してるやつは後方で補給が潤沢な戦闘しかしたことないんだろう。
そんなことを考えていると、私に影が落ちる。
見上げると、コンクリートを背に隠れた私を覗き込むように顔を伸ばしてきたカオスドラゴンと目が合う。
「ニヒッ」
釣られたな?
両手の【オズ】を首元へ連射する。
グオォォオオ!!
思わず仰け反って後退るカオスドラゴン。
今回は上手くいったけど、まだまだライフは沢山あるだろう。
今ある装備でどうするか……
っと!
怒れるカオスドラゴンが前脚を振るう。強靭な爪は触れれば間違いなく肉を抉り取られるだろう。
私はそれをステップして躱す。
先程までの余裕は無くなったけど、一応、避けられない程じゃない。
速さは先生の方が速いし……
でも、デカいから攻撃範囲と威力が桁外れだ。
「ぬおっ!」
カオスドラゴンだけでなく、ゾンビが脇から近付いてきていた。
大きく仰け反って、ゾンビの頭を撃ち抜く。
そんな隙を見逃してくれる敵ではなかった。薙ぎ払われた前脚。
「んギッ」
ドゴォン!!
私は近くの建物に激突する。
イテテ…
シールドでガードしたから、その爪に切り裂かれてはいない。
でも、シールドごとピンボールのように吹き飛ばされた。
膂力が段違いである。私がぶつかった建物の方が耐えられず、シールドサイズの穴が空いてしまった。
ゾンビがこの戦場にまで到達してきた。ロジェだけじゃ処理できる量じゃなくなったのだろう。
ここからは気を配るモノが多くなる。
私はゆっくりと大穴の空いた民家から出る。
集中しろ…
視点の中心はカオスドラゴンに向けつつも、視界の縁に映るゾンビを把握する。
敵の配置とスピードを把握して適切に対応する必要がある。
もう余裕なんてない、やり取りになる。
なのに、どうしても私は口角が上がってしまう。
これが楽しいのはゲーマーの性なのか。
倒したい。
攻略したい気持ちが込上がってくる。
『ザザ……待たせた!準備できたぞ』
そんな時に、アランさんからの無線。
待ってました!
「遅いですよ?私の位置見えます?」
────────────────
side:アラン
レストデーンの街で、爆心地のように建物が破壊され、一部は燃え上がっている場所で、リリーナはあのヒュドラと対峙していた。
しかも、ヒュドラの姿が変化している。
あの異様な腐った肉体をしていない。
黒く輝く鱗に、緑の閃光が走る黒煙を纏っている。
腐食した身体で動くという禍々しさは少し減った。
だが、それ以上に、圧倒的強者である、といった威圧感が倍増している。
まるで御伽噺から出てきたようなドラゴンは、この距離からでも異常な存在であった。
そのドラゴンが見据えているのは、他でもない。
隻眼の死神
リリーナ・ランドルフである。
「見えてる……けど……」
近付きたくねぇー!!!
どう見てもあそこは死地!
俺の危機感が全力で仕事をしている!
あれはヤバい!!
あんなもんは厄災だ。
人が太刀打ち出来る代物じゃない。
だが、リリーナは俺達のために戦っている。
流石に泣き言なんて言えねぇ……
「じゃ、今なら大丈夫なんで、弾ください」
「……はい」
俺はドラゴンに、めっちゃ睨まれているリリーナに飛ぶしかない。
ま、マジで大丈夫なのか?という不安を押し殺し、行くしかない。
俺の危機感は気合いで振り払い、リリーナの影へ、移動する……
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