155.捜索
ゾンビを処理しながら、紫紺の煙が上がった場所へ向かう。
街の様子が、明らかに変わっていく。
整った建物は減り、代わりに年季のある建物が増えていく。壁は剥がれ、窓は割れ、路地にはゴミが散乱していた。
「……雰囲気が違うな」
アランさんが周囲を見渡しながら呟く。
「治安、良くなさそうですね……」
ロジェも警戒を強める。
ゾンビのせいだけじゃない。
これはもっと前からこうだった場所だ。スラム街といえば分かりやすいか。
そういった装いの場所だった。
湿った空気。
人の気配が消えた街特有の静けさ。
「この辺りのはずなんだけど……」
私達は周囲を観察しながら、進む。
視界を確保するために、屋根に登って見る。
紫紺の煙が上がった位置は、この方向だったはずだけど、もう煙は上がってないから分かりにくい。
それらしい建物も、目立った異常も見当たらない。
ゾンビモードの祭壇は地下にある。地上マップの範囲に行ければ分かるんだけどなぁ……
そう思った、その時だった。
視界の端に、小さな違和感が引っかかる。
「……あッ!?」
私はゆっくりと顔を向ける。
建物の隙間から見えたのは小さな墓地。
「見つけたッ!」
そこは柵も朽ち、傾いた墓石が不規則に並んでいる。
どれも古く、風化して文字もほとんど読めない。
「墓地か……随分年季入ってる所だな。死体だから墓地ってか?」
アランさんが眉をひそめる。
「ただの墓地にも見えますが……」
ロジェもキョロキョロと観察している。
そんな中、私は無言で一歩、踏み出した。
………ここだ。
理由は言えない。でも、私だけは確信している。
ゲームで何度も見た光景。
構造。配置。
私は迷わず墓地の中央へと歩いていく。
周囲より一回り大きい墓石。
墓標としては違和感のない整った配置。
しかし……
私はしゃがみ込み、墓石の根元を見る。
わずかに。
ほんの数センチだが、土台から、ズレていた。
「当たりだね」
「マジですか……?」
ロジェが駆け寄る。
「ロジェ、動かせる?」
「やってみます!」
ロジェが墓石に手をかけ、力を込める。
ゴゴ……ッ
重たい石が、鈍い音を立てて動いた。露わになるのは私の知っている光景。
「ハハッ……こんなとこに階段が」
その暗く明かりのない地下へと続く石造りの階段を見て、ボソリと呟いたアランさん。
そうだね、これを知らずに見つけるのはかなりの時間を要するだろう。
煙の立ち上がったことと、私の知識がなければこんなに早く見つけることはできなかっただろう。
冷たい空気が、下から這い上がってくる。
「じゃ、行こうか」
私は躊躇なく足をかける。
「あ、自分が斥候を………」
「いや、いいよ。私が先頭」
ロジェの言葉を遮る。ロジェは少し悲しそうな顔をしているが、ここは私が一番分かってる。
それはアランさんだろうと同じだった。
螺旋状の階段を、一段。
また一段と下る。
足音が、石壁に反響する。
月明かりが遠ざかっていき、空気が変わっていく。
既にアサルトライフル【カルカロス】に付けたアタッチメントのライトしか明かりがない状態だった。
湿り気を帯びた、閉ざされた空間の匂いが鼻についた。
三本のライトによる光が先の見えない階段を照らす。
「……深いな」
アランさんが呟く。
「多分、30メートルくらいは下がりましたよね」
私は淡々と答える。
やっぱりだ。この深さ。この構造。
呼び覚まされる私の記憶と、完全に一致していた。
やがて階段が終わり、視界が開ける。
広がる空間。
円形ドームに近い構造で空間が広がり、中央には、巨大な祭壇が鎮座している。
祭壇やその周囲の柱に刻まれた無数の紋様が、ネオンのように、緑色に発光してこの空間を照らしていた。
まるで息をするかの如く、揺らめくその光は不気味な雰囲気を演出している。
「こんな場所が……」
「い、遺跡みたいですね」
アランさんやロジェは驚きを隠せない。
私はゆっくりと、前に出た。
見覚えがある。
何度も、何度も戦った場所。
死ぬほど見た景色。
「……祭壇の間」
思わず、口に出ていた。
ここが。
ゾンビの全ての始まりだ。
─────────────
side:ショーン
「きゃー!!」
「い、嫌だ!たすッ、助けてくれぇ!」
街は阿鼻叫喚だった。正に地獄絵図の様相であり、至る所で悲鳴が上がっていた。
俺達が助けられている人は既に20人を超えた。だが、全体から見れば一部だけだろう。
そして、明らかに市民のゾンビが多くなっている。
「こちらウォルマン小隊。本部聞こえるか?」
「……おぉ、ショーン!無事か?状況は??」
少し間があってから、トニー師団長が連絡に出る。
通信兵ではなく師団長が直接無線に出ている。おそらく本部も慌ただしく動いているのだろう。
「現在、救出は24名。だが、明らかにゾンビの量が増えている!これ以上は危険だ!」
「分かった!すぐ戻ってきてくれ!
……避難所の方はもうゾンビに襲撃されていた」
「なにっ!?」
「防壁があるんじゃ!?」
近くで聞いていたイーノスも驚いている。そりゃそうだ。襲撃に強いからこその避難所だぞ?
シェルターはそんな簡単に破られるもんじゃないだろう?
「生き残りの話では、シェルター内で既に死者が出ていたようだ。そいつから内部で広まったんだ。シェルターも内部から解放されたが、感染は爆発的に広まっている!」
おいおい、まだあの煙が広がってから4時間くらいだぞ。
せっかく解放したはずのレストデーンの街が…
人が……
崩壊していく。
「こっちはもう撤退する。数が多すぎる、早く戻ってこい!」
「了解だ!オルガ!聞こえてたな!?」
「……」
ッ!?
「……聞こえッ、てるッ!ふう。こっちも撤退するわ」
オルガが応えるまで、少し間があった。
良かった、コノヤロウ。ビビらせんなッ!
ったく、この異常事態にどうやら俺自身も気が急いている。
「了解。気ぃつけろ。まだ増えるぞ」
「えぇ、分かってるわ。そっちもね」
「おし、お前ら戻るぞ!」
「「はいッ」」
装甲車を走らせると奴らは寄ってくる。車の前だろうと構わず突っ込んで来るため、もう何体轢いたか分からない。
この車じゃなければ、その体当たりで止められていただろう。
リリーナのやつが絶対にこの車にしろと言った理由が理解できる。
高機動車両だったら、囲まれていたかも知れない。
それだけの数のゾンビがいた。
「ほとんどの住民がゾンビになってしまったんじゃ?」
イーノスが話すそれは、最悪の事態だが、今の俺にそれを否定できる材料はなかった。
「なってるかもな……」
「リリーの方も間に合えばいいですが……」
あの家族には世話になったからな。無事が一番だが、この状況で楽観視できない。
「アイツで間に合わねぇなら、誰も間に合わねぇさ。俺達は最善を尽くすしかないんだ」
「それもそうですね」
……
イーノスは当たり前と言わんばかりの反応だ。
確かに俺が言った訳だが、こいつらも大概、リリーナに対する信頼が厚い。
……厚過ぎる。
不安がないというか、最上だと思っている……
リリーナならできると思っているし、リリーナが最強で、リリーナが正しいと思っている。
俺達は今、走行中の装甲車の上から銃を撃っている。
ゾンビを少しでも車両に近付けないためにだが、隣にいるイーノスは他の奴らに比べて明らかに精度が高い。
シアもそうだが、リリーナの世代は総じて能力水準が高いんだ。
おそらくはリリーナの影響だろう。
だがなぁ……
アイツが強いのは認める。認めるが、それと同時にやらかしてもいるんだよなぁ……
普通、作戦本部が瓦礫になるまで撃ち込むか?
あのまま、止めなきゃ瓦礫どころか更地になっていたぞ。
まぁ、いくら強くてもまだまだ若造だ。
あのバカは俺が監督してやんねぇとな。
キーン!!
急に耳鳴りのような音が響く。
空を覆う紫紺の雲が、みるみる初めに煙が舞い上がった所へと吸い込まれるように戻っていく。
ものの数分で吸い込まれた紫紺の雲。空は晴れ、雲のない月夜に変わる。
満月による光で夜でも視界が通りやすい。
すると、
どぉぉおおおン!!
物凄い爆音が鳴り響いた。
音の方向は、紫紺の煙が現れ、消えた場所。
リリーナやアランが向かった先。
そこから、なにか大きな影|が飛び出していた。
アイツ、今度は何したんだッ!?
少しでも面白いと思って頂けれれば、
ブックマークやいいね評価等して頂けると、モチベーションも上がって非常に嬉しいです!




