149.跡地
瓦礫に包まれたレストデーン司令本部。
時間がかかると思われていた制圧戦は、トリガーハッピーな少女により即日終了した。
第3師団によって確認されている司令本部の敷地は、その爆撃の跡を色濃く残していた。
そして第3師団の兵士達は、新たなネームドによる死神の力を目の当たりにすることになったのだ。
「……まだ熱いな」
瓦礫に触れた兵士が、すぐに手を引っ込める。
「うっ……これ炭化してる」
黒く変色した石材。
崩れた壁。
爆風で吹き飛ばされた鉄骨。
鉄骨に避難しても焼かれて動かなくなった兵士。
それらが司令本部だった場所に、無残に転がっている。
「炎帝もすんげぇと思ってたけど、死神は……なんかこう、怖いわ」
「……あの見た目なのにな」
「絶対、舐めたこと言うなよ?消されるぞ?」
「当たり前だろ!?」
ガラッ!!
第3師団の兵士達が一斉に銃を構える。
崩れた瓦礫の隙間から、人影が這い出てきた。
両手を挙げた、メラリア兵だ。
「ま、ままま、待ってくれ!」
「降伏だ!!」
「助けてくれ!!」
メラリア兵は土埃にまみれ、火傷を負っている。
武器は持っておらず、既に戦意は完全に喪失していた。
「……武装なし」
「拘束しろ」
兵士達が慎重に近づき、メラリア兵を取り押さえる。
抵抗する様子は全くない。
むしろ――
「た、頼む……助けてくれ……!」
「俺達は戦う気はない!」
「もうやめてくれ!!」
「……は?」
あまりの反応に第3師団の兵士が顔を見合わせる。
兵士の一人が、遠い目をした。
「そっか……そりゃそう思うよな」
「司令本部がこんな風になるんだから」
「あの連射でこの威力だもんな……」
メラリア兵は必死に頷く。
「あのシーランをあんなに…………どれだけ味方を犠牲にして撃ったんだ!?普通じゃない!」
「壁を作っても作っても、全部吹き飛ばされて……
あの軽い音が鳴ると、どこかが消えるんだ……」
メラリア兵は震えが止まらない。
歯をカタカタ言わせながら、懇願する。
「ガイア様さえ、止められなかった」
何が起きたのか、必死で整理している。
だが、シーランを連射できる者がいるとは想像もしていない。
全員、恐怖で顔色が悪かった。
その時だった。
「おい、さっさと捕縛しろ!日が沈み切っちまうぞ!」
低い声が響く。
兵士達が一斉に姿勢を正した。
「団長!」
そこに現れたのは、第3師団団長トニーである。
瓦礫の山を見渡し、腕を組む。
トニーに気合いを入れられて、テキパキと作業する第3師団の兵士達。
一方、トニーは戦場を見渡しながら、しばらく沈黙していた。
「……」
(参謀本部のスティーブン殿曰く、シーランはかなりの魔力消費らしい。リリーナ自身もレッドアイと同じくらいですかね?とか、思ったほどじゃないと言っていた。
そのレッドアイはお前の親父が使い所を見極めながら使っていた切り札だろう?
眼帯で隠しているから失念していた。
あの子は常にレッドアイを使っている。それだけの魔力量を保持しているんだ。
感覚が狂ってしまっている。
シーランとリリーナは異常な程、噛み合ってしまった……)
「……結果、一人で全部やっちまいやがった。おかしいだろ」
兵士達が一斉に頷いた。
「団長もそう思います?」
「俺達もそう思ってました」
トニーは瓦礫を軽く蹴る。
黒く炭化した破片が転がる。
「捕虜は?」
「数十名確保しています」
「残敵は?」
「レストデーン西部側で少数確認されてます。組織的な抵抗はありません」
「……そうか」
トニーは頷くと、淡々と指示を出した。
「第1中隊は残敵警戒。第2は捕虜の確保と搬送。第3は拠点設営。第4は捕虜収容所を確認。場所は特務に聞け」
「「はっ!!」」
兵士達が散っていく。
その中で、一人の兵士がトニーに近づいた。
「団長」
「なんだ」
兵士は少しだけ躊躇してから言う。
「……あのアインリーパーって、本当にあの見た目なんですか?本物の死神とかじゃないですよね?」
トニーの視線が瓦礫の山へ向く。
そこには、ついさっきまで司令本部があった。
トニーはそんな訳ないだろと思ったが、直接話したこともない者からすれば、そう思っても仕方がないと改める。
(あの子が敵じゃなくて良かったよ……)
「大丈夫、話せばあのまんまだ。味方だぞ」
兵士がほっとした顔をする。
だが、トニーは続けた。
「ただし」
「?」
「戦闘中の中身は本当に分からなくなる時があるな。ハッハッ」
兵士は自然と生唾を飲んでいた。
「……それは味方で良かったです」
トニーはふっと笑う。
「お前達は炎帝や絶命を目指せ。
無能力なら、ザック・フォーデンのように能力が無くても特務機関入りできるほどの実力をつけろ!」
「「はいッ!」」
瓦礫を見渡す。
「あの子は参考にならん。……災害だと思え」
質問した兵士も、思わず聞いていた周りの兵士達も、トニーの発言はスッと受け入れられた。
「お、リリーのことですか?」
そこに通りかかったのは、ロブ達、特務機関から派遣された者達であった。
「君は確か特務機関の…」
ロブはなんの気なしに声を掛けていた。
振り向いたトニーを見て、第3師団団長であることに気付き、姿勢を正す。
「はッ!特務機関所属、ロブ・フリップ准将であります。【隻眼の死神】リリーナ・ランドルフとは同期ですので、思わず声を掛けた次第です」
「いや、楽にしていい」
(同期……つまり、こやつも狂気の世代ということか。後ろの2人も特務のようだが、この感じは格付けは済んでいるな。
既に実力はこやつの方が上と認識しているな……)
「ロブ・フリップ准将、ならば聞くが、リリーナ殿は学生時代から変わらないか?」
「っと……そうですね。あまり変わらないかと……
最初の演習の時から、笑いながら撃たれました……」
「そ、そうか……」
(それだけ聞くとかなり危険な奴に聞こえるな……)
案の上、周りで聞き耳を立てていた第3師団の面々はギョッとした顔をしていた。
更に聞こうとトニーが口を開きかけた時。
ズゥゥゥン!!と地下から腹の底に響く様な衝撃が広がる。
素早く全員、警戒態勢となる。
「ガイアか?」
最も怪しい候補だった。
「アレをッ!!」
ロブによって、その可能性はすぐに否定される。
ここより南の方角。
地上から空へ立ち上る、紫紺の煙……
その煙は渦を巻き、空に広がっていく。
時折、稲妻のように緑の閃光が走り、不気味な様相をしていた。
レストデーンにいた皆がその様子を見上げる。
何が起きているのか。
ただ言いようのない不安だけが広がっていく。
一陣の風が吹く。
空に気を取られ、地上を駆け巡ってきた紫紺の煙に気付くのが遅れた。
「吸うなッ!!」
トニーはそう叫ぶのが精一杯だった。それだけの短い時間で爆発的に広がった煙に巻かれる。
煙が晴れるのに時間はかからない。すぐに視界は確保される。
「なんだったんだ?」
トニーもロブも、アルステリア軍も、生き残ったメラリア兵達でさえ、何が起きたか分からない。
「…………」
ただ、何かを感じ取り、警戒する。
神経を研ぎ澄まし、周囲を観察する。
音が止み、静まり返っていた。
ガラッ…
瓦礫が崩れる音。
静寂を破ったのは、銃を構え、警戒する兵士達……
………ではなかった。
紫紺の煙に飲まれたレストデーンの街。
既に息を引き取った者たちが目を覚ます……
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