番外編 3話 瑞穂の行動力
退院してから数ヶ月の時間が過ぎた。
今の私はとても晴やかな気分だ。
もう何も悩み事が無い、これ程までに清らかな気持ちになれたのはいつぶりだろうか。
今の私には貴樹とどうこうなりたいとかそんな気はないしそれはこの先も変わらない。
夢の中で人の温もりに触れ自分がいかに浅ましく愚かしい存在かを知ることが出来たから私は自分を見つめ直す事が出来たんだ。
しかしそんな私の感傷的な気持ちに何も配慮しないでズカズカと踏み入って来る輩は一定数いる。
スタイルがいいから、顔が良いから、髪が綺麗だから、上品で品があるから…そんな理由で私の内面など知ろうともせず馬鹿な男共がやってくる。
実に不愉快だ。
貴樹と早苗さん…そしてそんは二人の間に生まれた天使の様に愛らしい瞬君。
私にもあんな支え合う本当の愛が欲しい。
こんな連中がいくらいた所で私は決して満たされない。
それはあの夢の未来が証明してくれた。
だから私は二度と間違わない。
そう決めたから…。
学校に復学した頃既に塚本はハーレムメンバーからは孤立していた。
無論野上からも見捨てられていた。
もっとも意外だったのはまだ学校にいた事だ。
てっきり教師達にもあの動画が渡って停学…最悪退学とかになってると思ったからまだ塚本が学校にいると貴樹に聞いた時はビックリした。
「おい、俺達やり直さないか?」
「はぁ?」
「俺…お前が必要なんだよ…だから…な?」
「前に言ったよね?無理だって」
「アイツとは別れたから!もう二股とかしないから!な?」
「塚本の事?ふふふ、アンタなんにも分かってないのね?てゆーか別れたってアンタ塚本を切り捨てただけでしょ?都合よく言ってるのかもしれないけど女切り捨てただけのクズ発言でしょそれ?」
「あんな女はどうだっていいだろ?俺が愛してやったのにヘマしやがって!あんな動画まで撮られてやがった…やっぱおれにはお前見たいな良い女が相応しいんだ!なぁ?お前もそう思うからあの陰キャと別れたんだろ?な?俺等やり直せるさ!な?」
「ふふふ……あはは、」
「?……は…ははは…おかしいのか?…何がおかしいんだよ?」
「いえ、なんと言えばいいやら、アンタ程自分本位になれたら人生楽しいんでしょうね?羨ましいわ…」
「な…なんだよ?お前俺の事コケにしてるのか…?」
「違うわよ…私もあんたとそう変わらない、人を自分の都合でしか見てない、あんたと私は本質的に同類なんでしょうね?」
「…?……良くわかんねーけどなら、俺等またやり直せ…」
「だから…私はあの夢の未来を見る必要があったんだね…」
「るからさ……は?……ちょ…何処行くんだよ…?」
私は歩き出す。
こんなガキに付合っても得られる物は何も無い。
「私とあんたは確かに似てるわ。でも似た者同士がつるんでも得られるものなんて何も無い、退屈なだけ。」
「良いじゃねーか退屈で、俺とダラダラしょうぜ?な?」
「しつこい男に興味はないの、それじゃーね?」
「待てよ!テメェ?あんま調子のんなよ?」
「はぁ…もう…面倒くさい…」
ジリジリと歩み寄って距離を縮めてくる野上。
その動作は変態そのもの。
改めて何故こんな奴がモテるのかさっぱりわからない…
そう、コイツは私と付き合いたいと言っておきながらハーレムは解散させると一言も言ってない。
コイツにとってつき合うとはハーレムを増やすと同義なのだ。
まったく舐められた物だ。
こんなガキに。
野上の目は血走っている。この場で私を押し倒す気でいっぱいだ。
私もいつかは貴樹と早苗さんみたいな素敵な家族を持ちたいと思ってる。
でもそれはこんなハーレム願望を持つクソ男と叶えられるものではないのだ。
肩を摑まれ顎を無理やりつかまれる。
無理やりキスされそうな所で私は野上の顔にめがけて塩コショウをぶちまける。
「ふぇあ!? なっ!?何こぶふぇ!?ハクシュっばくしゅ!目が痛てっ、これ、コショウ?」
「そうよ、痛いでしょ?後で目を洗っておく事をお勧めするわ」
あらかじめポケットのなかに忍ばせていた調味料を野上の顔にぶちまける。
かけられて目が痛むのか奴は私どころではないみたいだ。
必死に目をこすっている。
この隙に逃げるとしよう。
本当はスタンガンとかがあれば良かったのだけどあんな物一介の高校生が簡単に入手出来る訳もないし、手近に入手できる物で効果のある物なんてあん外沢山あるのだ、あの塩こしょうとかね。
所詮女は力で男には勝てない。
男もソレを理解しているから最後は紳士的な仮面を取っ払って獣になる。
だから備えは常に持って行くものだ。
貴樹位のものだ。
最後まで手を出して来ないと確信が持てるのは。
まぁそれが優しさか度胸がないだけなのかはこの際どっちでもいいけどね。




