番外編 4話 萬月楓の初恋
野上君がいなくなって私がいるクラスからハーレムは無くなった。
塚本さんも片桐さんも学校に戻って来た。
野上君だけがこの学校からいなくなった。
それ以外はなにも変わらない…いつもの日常が続いている。
ハーレムが無くなった事でこのクラスの変な空気もなくなり全てが普通になった。
表面的にはだけど…。
私が知ることじゃないけど野上君がコレまでしてきたことが公の場にさらされた事で学校側はその対処にてんてこ舞いみたいだ。
慰謝料を請求する親もいれば大事にしたくないから黙ってて欲しい親と親によってその反応はまちまちだけど塚本さんに聞いた話だと誰も妊娠とかはしてなかったらしいから慰謝料とかが取れる程の大事にはならないみたい。
私は…私は何も変わってない。
ほしかった普通の日常が帰って来た、それだけ…。
野上君がいなくなった事でハーレムは解散。
元ハーレムのメンバーも互いを牽制し合う事も無くなって私に口撃してくる子もいなくなった。
全部元通り…。
でも元通りにならない事が一つある。
私は貴樹君に…、
中原君にあれ以来話しかけれていない。
向こうもなんとなく私を避けている気がして話しかけられない。
何より中原君と片桐さんは前より明確に仲良くなって周りからは付合ってるなんて言われてるくらいだから…近寄り辛い。
片桐さんも私が近寄ろうとすると黙って私を見てくる。
静かにただ黙って私を見てくる。
それが怖い…凄く……怖い。
私は中原君の事が好きだったのだろうか?
わからない…。
でも彼と一緒にいた時間は私には充実した時間だったのかも知れない。
楽しかったと言える。
明確に楽しかったと今なら言える。
それが友達としてなのか好きになったからなのかわからない。
でももう遅い。
それにどうせ最初から無理だったんだ。
中原君には片桐さんがいる。
あの人が何を考えてるなんて私にはわからない。
ちっともわからない。
でも一つ確実に言える事がある。
中原君の隣にはいつだって彼女がいる。
最初から彼と恋愛なんて出来ないんだ。
それだけは確かなことなんだ。
ため息が出る。
こんな時は本の世界に入り込むに限る。
本の中の世界は私にとても優しい。
誰も私に嫌な事を言って来ない。
それに神の視点で物語を楽しめる。
まるで神様になれたような万能感を感じれて私は好きなのだ。
いつかの様に本屋で本をかって公園のベンチに座って読み耽る。
今日は日射しが心地よく11月だというのに温かい。
だから油断していた。
私はもっと周囲に気を配るべきだったんだ。
でもこんなの誰にも予測出来ないし出来るワケない。
「よぉお!またこんな所で読者かぁ?えぇ?萬月よぉ?」
「野上くん?…どうして…?」
「自宅謹慎とかさぁ?学校追い出されたのに守る義理ないだろ?つーかさ俺はあいつ等に入れて欲しいって頼まれたからソレを叶えてやってただけなのに俺だけ悪者って可笑しくねぇ!?お前もそう思うよなぁ!?萬月!」
「ひぃ!?……わっ…私しりません」
急いでその場から逃げ出そうとするが野上君は私の腕を掴んで離さない。
男の子の力はとても強く私は痛さと怖さだ竦み上がってしまう。
「よく見るとよぉ!お前もそこそこ美人じゃん!あのクソ女共と違って俺の事を受け入れるよなぁ!?なぁ!?」
「ひぃ!?やっ止めて!」
「んだよ!テメェも俺を馬鹿にするのか!ふざけんなよマジで!」
激昂した野上はそのまま萬月楓を壁に叩きつけ強引に迫ろうとする。
しかし。
「やめなよ、女の子を無理矢理ってのは感心しないですよ?」
「ああ?」
「え?」
そこにいたのは萬月や野上とそう年齢の変わらない女だった。
いや、1個か2個年上かも知れない。
何処か大人びた余裕のようなモノを感じれたのだ。
「たっ…助け…逃げて!」
「何?お前?」
「女の子に無理強いは良くないですよ?色男さん」
「透かしてんじゃねぇよ!クソ女ぁ!」
野上はそのままそのクソ女に襲いかかる。
が…。
「うぼはぁ!?」
女は野上の腕を掴むとそのままソレを捻って野上を自由を奪う。
属に関節技と呼ばれるヤツだ。
「はっ…離せ!クソが!あだだだた!」
「か弱い女の子に暴力はよくないですよ?色男さん」
「はっ…離せ!」
「嫌ですよ、だって貴方離したら襲いかかるじゃないですか?」
「約束する!もう襲わない!俺が悪かった!だからだから離してくれよ!」
「え〜本当ですかぁ?」
「本当だから!なっ!なぁ!?」
「仕方ないですねぇ〜」
萬月にはこの後の展開が手に取るように予測出来た。
だからだろう。
「駄目、」
口から言葉が無意識に出たがそれよりも早く女は手を話した。
そして……。
「ばぁぁっかがあぁぁっっ!、」
、
野上は自由になるやいなや直ぐ様女に襲いかかる
しかし。
野上の視界が反転しそのまま暗転する。
「凄い…。」
地面に大の字に倒れてのびているのは野上。
その横でふぅ~と息を吐いてるのは女。
「だらしないですねぇ〜大の男の子が。」
「あ…あの…ありがとうございます…。」
「気にしなくてもいいですよ?困ったら助け合うものですからね!」
「いえ…それでも…助けてもらえて…私…うぐ…ひぐ…」
「あらら、泣いちゃうくらい怖かったんですね、彼の事は私がなんとかしておきますから貴方は直ぐに家に帰った方がいいですよ?彼が起きたらまた襲われちゃうかもですし。」
「ひっ!……、でも…その…ありがとうございます!この御恩は…あっ!私萬月楓っていいます。」
「楓さんですか、私は珠寺早苗って言います。借りとか気にしなくてもいいですから気を付けて帰ってくださいね?」
「いえ!あの…本当にありがとうございました。」
「いえいえ。」
朗らかな笑顔で萬月を送り出した珠寺早苗と名乗った女性はなんでもない事の様に男一人を無力化した。
その大人びた様子から年上女性は確定。
恐らくは大学生か。
しかしそんな事は萬月にとっては些事だった。
(凄くカッコよかった…早苗さん…とても素敵な女の人)
コレまで感じたことのない高揚感。
何処までも広がっていって大声を出したくなる程の気持ちの高ぶり。
萬月楓にとっては初めての恋だった。




