第7話 石の毒
子供たちを探すため、エルゼンの村を出発したアルンとベルシュ、それに村の自警団の面々。カーナ湖の湖畔に、ぞろぞろと列をなして進む。
あたりはすでに夕暮れ時で、カーナ湖は夕日を浴び、鮮やかなオレンジの光を、湖畔を歩く捜索隊一行に反した。
先頭を進んでいたギルソンが、その肩ほどの高さまで生い茂った茂みの中に入っていく。
「こっちだ!」
アルンらも茂みをかき分けながら、それに続いた。
少し進むと、開けた場所が現れる。
小高い丘、その側面にぽっかりと空いた洞窟の入口があった。
入り口にかけては斜面になっており、吸い込まれそうな雰囲気を醸す。
「カーナ湖近くの洞窟というと、ここしか思い浮かばんな」
ギルソンが洞窟の入り口の前に立つと、顔だけをこちらに振り返り、そう言った。
洞窟の入り口、その両脇には石像が立てられている。まるで洞窟を守っているかのようだ。どうやら人をかたどったもののようだが、長年雨風にさらされ侵食しているのか、表情や格好を読み取ることはできない。
一行は、持ってきた松明に火を灯すと、洞窟の中へと入っていった。
洞窟の中は、松明の灯りだけが頼りの、闇の世界であった。
しかし、かつて地下墓地として使われていたというだけあって地面は平坦であり、障害物などもなく進むのには苦労しない。
「おーい!」
捜索隊の面々が叫ぶ。その声は反響しつつ、洞窟の闇に吸い込まれていく。
だが、子供たちからの返事はない。
通路のような狭い道をしばらく進んでいると、広々とした空間が姿を現した。
先頭を歩いていたギルソンが言う。
「地下墓地として使われていた場所だ。ここがこの洞窟の行き止まりなんだが……」
ギルソンの言うように、そこには墓石のような石が並べられている。
「おーい!」
再び、子供たちを呼んでみる。やはり、返事はない。
「ここにいないのなら、この洞窟じゃないってことだ。くそっ! どこにいるんだ!」
ギルソンは苛立ちの声をあげた。
念のため、アルンは墓地として使われていた空間を、隅々まで見てまわる。
(亜人や盗賊も近づかないようなところに、子供たちがいるわけないよな……)
そんなことを考えながらとぼとぼと歩いていると、なにかに足をとられた。
「おっと……うわあっ!」
アルンが足元を松明で照らすと、痩せこけた子供の顔が闇の中から浮かびあがった。その顔にはまるで生気はなく、目は虚ろであるが、死んでいるわけではないようだ。
さらに松明であたりを照らせば、何人かの子供が、洞窟の壁に沿って、力なく座り込んでいる。どの子供も同じように、魂の抜けたような様子である。
「どうした!」
アルンの悲鳴を聞き、ほかのものも駆けつけてきた。そして、子供たちを見つける。
「おい、しっかりしろ!」
子供たちに問いかけるが、反応がない。
「様子がおかしいが、生きているようだし、とにかく運び出そう!」
ベルシュがそう言うと、ひとりの子供を抱きかかえた。
そのときである。子供の手から、持っていたなにかがこぼれ、地面に転がり落ちた。
それは濁った紫色の、子供の手のひらにすっぽりと収まるほどの小さな石のようだった。
「これは……宝石か?」
石を覗き込むようにして見ていたギルソンが、それを拾い上げようと手を伸ばした。そのとき、ベルシュが声をあげる。
「待て! ……それは”紫冰石”じゃないのか?」
「紫冰石?」
アルンがベルシュのほうを見る。
「詳しくはおれも知らないが……毒があるそうで、この石に長い時間触れていると、正気を失ったり、魂が抜けたようになると……おそらく、子供たちも紫冰石の毒気にやられたんだろう」
ベルシュの説明を聞いたギルソンは、狼狽え、後退りした。
「とにかく、子供たちを外へ。石には触るなよ!」
洞窟を出ると、すでに日は沈み、あたりは暗くなっていた。
子供たちがエルゼンの村に運び込まれる。どうやら、いなくなっていた子供全員が見つかったようだ。
子供たちはすぐさま医者に診せられ、医者によれば、衰弱はしているが命に別状はないだろうという。石の毒も、時間が経てば抜けるらしい。
翌朝、アルンとベルシュのふたりは、フォルタン亜人警戒所に戻るため、村を出発しようとしていた。
村の入り口まできたところで、ギルソンが小走りでやってきた。
「礼が……まだだったな。事件の……解決の……」
ギルソンが、気恥ずかしそうに話す。
「気にするな。おれたちは仕事をしただけだ」
ベルシュは、ギルソンの肩をぽんと叩いた。
「その……悪かったな。よそものだから冷たくしちまって……この村はそうやって守られてきたから……」
ふたりは、ギルソンと一面の花畑の甘い香りに見送られ、村を後にした。




