表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/12

即落ち2コマぶちギレ劇場


「……あなたは自分のことなど好きではなかったはずです。あくまでも家同士の婚約であると」


「いいえ! そんなことはごさいませんわ」


「カロリーナ嬢」


 そこでやめておけと、そんなふうに言っているようだった。ヴァルターさんの声は、明らかに制止させようとしていた。けれど元婚約者の口は止まらない。昔から自分がどれほどヴァルターさんを思っていたか、離れてその思いが一層高まったか。子爵たちに止められてもなお、彼女は言い募った。


「嘘は結構です。自分は存じ上げております。……陰でご友人と『権力も金も持たないあんな堅物と結婚させられる自分は可哀想だ』とお話していたことを」


 ヴァルターさんにそう切り捨てられて初めて、彼女は止まった。子爵たちは驚いて娘を見て、なんてことを、本当なのかと怒っている。


「その心変わりは、自分の後ろにいる聖女様を狙っていると判断させていただきます」


 今の今まで、私はただの痴話げんかの類だと思って聞いていた。ヴァルターさんは優しい人なのに見る目がないなぁ、偉い人にいい子を紹介してもらった方がいいなぁ、ていうか聖女に謁見していて他の役人さんも同席しているのによくやるわ、なんてそんなふうに呑気に考えていたのに、ヴァルターさんの一言で凍り付いた。


「……待って」


 本当は話に入るつもりはなかった。男女間のいさかいに首を突っ込むのはナンセンスだと思っていたから。でもそれは、あくまでも、関係がない場合に限りだ。


「私の権力のおこぼれをを得るために、ヴァルターを利用しようとした、って言ってるの?」


 権力欲の強い女が、私を狙っているって、そういうことでしょう? ヴァルターさんを踏み台に私からおこぼれもらって悠々自適な生活を送ろうとしてたってことだ。女が真っ青な顔で震えている。それが肯定に思えてならなかった。

 ……頭の中が、急激に熱を増していくような感覚に襲われた。耐えがたい侮辱だった。不快で不快で、たまらなかった。


「戦場にも行かずぬくぬくと余生を暮らしていたくせに、ヴァルターに守られていたくせに、帰ってきたら手のひらを返して、ヴァルターを、利用する?」


 聖女様、と誰かが私を呼んだ。けれど私の口は止まらない。


「ねえ、指を落としたことはある?」


「目を焼き切られたことは?」


「それでもなお、聖女を呼び出したことはある?」


 聖女を呼び出す儀式は、戦場で行うには危ない儀式だ。割と簡単に行えるとは言え、人ひとりを異世界から引っ張ってくるのは、どうしたって術者が無防備になる。

 目という少しでもずれていれば即死というような攻撃を受け、指をなくして斧も握れなくなったヴァルターさんは前線では邪魔になると判断されたから後ろで私を呼び出した。かといって後方で攻撃が当たらないわけではない。余波を食らい、死ぬ可能性なんていくらでもあったのだ。


「お前にそれができるの。お前は、分かってやってるの? ヴァルターは世界を救ってくれたって」


「い、いえ、あの、せ、世界を救ってくれたのは、聖女様で……」


「ヴァルターが私を呼び出せなきゃお前たち全員死んでたって言ってるの!!」


 聖女様聖女様と持て囃して、ヴァルターさんのことは従者扱いする人の多いこと。彼は私の召喚者で、本来英雄的な扱いをされるべき人なのだ。彼らの中では身分や聖女と比べてしまうと見劣りしてしまうのかもしれないけれど、決してぞんざいな扱いを受けていい人ではない。


「聖女様……」


「……ごめん、気が立ったの。怒鳴るつもりはなかった。ごめん」


 ヴァルターさんに声をかけられて、少しだけ冷静になった。お世話になっている人を侮辱されて、感情移入しすぎてしまった。怒鳴り散らしたせいで頭が痛い。

 聖女点マイナスな行いを反省しつつ、息を整えていると、両親と共に女が頭を下げて謝っていた。


 ――聖女様、申し訳ございません、どうかお許しください、って。


 それを聞いたら笑ってしまった。声に出して笑ってしまったから、役人さんたちでさえ戦々恐々と私を見ていることに気が付いたけど、笑いが止まらなかった。だって何もわかってない。こいつら話を聞いていなかったのだろうか。


「なに、そんなに私のこと怒らせたい?」


「いえっ決してそのようなことは!」


 だったらなんでさっきの謝罪が出てくるんだよ、という言葉は飲み込んで、要点だけを口にした。


「ヴァルターに謝って」


 感情的にならないように発した声は、どこまでも冷たいものだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ