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召喚者 の 元婚約者 が 現れた !


 王城に招かれて、地獄のように挨拶される日々が始まった。誰も彼もが聖女様に気に入られたいのか、ご機嫌伺いにやってくる。正直なことを言えば、しんどい。見知らぬ人に会い続ける日々は楽しいとは言えなかった。おべっかまみれなのだから、余計にだ。それでも、貴族の家の出であるヴァルターさんも隣室に間借りし、常に同行してくれたのでどうにかなった。

 私のためにその身を拘束してしまうのは大変申し訳なく思うところではあるのだが、如何せん、私はマナーには疎いし、知り合いがいないのはつらいし、聖女という立場的に護衛も必要になる。


 だったら必然的に彼が選ばれるよね、という話だ。


 召喚者であるため一番面識があるし、彼の人柄は信頼に値すると思っている。誠実で実直で、気の回る武骨な騎士だ。私を聖女にした責任も感じているし、何があっても私のことは絶対に裏切らないだろうことは日々の態度から感じていた。

 こんなことを言ったら失礼に当たるだろうが、彼には今婚約者もいないし、最悪二人きりになって騒がれても問題のない相手だというのも個人的にポイントが高かった。そもそも召喚者とその聖女というだけで穿った目を向ける人もいる。相性がいいんだからどうせそういう関係なんだろう、という目である。戦場に行っていない人は特にその傾向が顕著だ。今後の彼の縁談が心配だが、どうしようもない場合には私から王様に掛け合うこともやぶさかではなかった。


 とかなんとかやっていたら、である。


「初めまして聖女様。わたくし、トスキー子爵家の娘カロリーナと申します」


 件の婚約者――元婚約者が現れた。正確に言うと元婚約者の一家もご挨拶に来てくれたというだけの話で、その中にご令嬢もいたのである。

 彼女は噂で聞いていた以上の美人で、金髪碧眼ボンキュッボンのパーフェクトお嬢様だった。……そのキラキラのおめめ以外は。笑顔ではあったものの、敵意丸出し嫉妬剥き出しというような目の色をしていたので、父親の子爵と母親の子爵夫人だけでなく私も目蓋をぱちくりして驚いた。自分のことながら他人事のように救世の聖女によくぞまあそんな目を向けられるな、と逆に感心するほどである。


「カロリーナ嬢、何故そのような目を聖女様に向ける」


 ギスギスな声を発したのは、予想通りヴァルターさんだった。ヴァルターさんも十分女性に向けてはいけない目をしている。傷のせいでその眼光は三割増しだろうか。

 すると彼女の目がぶわっと涙で覆われた。そしてか細い声でぽつり。


「だ、だって、ヴァルター様を独り占めにして……わたくし、悔しくて……」


「ん゛?!」


 綺麗な顔の可愛すぎる仕草にやられて思わず変な声が出たのは、ヴァルターさんではなく私である。なんだこの子……可愛すぎじゃないか……というか待ってて。どういうこと?


「ヴァルター、婚約は解消したと聞いていたような……?」


「はい。その通りです」


 視線を向けると、彼もやけに混乱した顔をしていた。なんで目の前で泣いているかわからないというような、頭の上にニ十個くらいクエスチョンマークが舞っているような顔だった。子爵たちも同様だ。可哀想に、娘の暴走についていけない顔をしていた。

 カロリーナは胸の前できゅっと手を合わせてヴァルターさんと私を見て来た。胸がつぶれて上目遣い。あざとい。だけどそれがいい。


「……解消されてもなお、ヴァルター様をお慕いしておりますの」


 なんとまあ。目の前でこんな告白劇を見せられることになるとは思ってもいなかったので、ちょっとしたニヤニヤが止まらなかった。聖女らしくしなくては、と思うのに、どうしても口が緩む。

 美人で可愛い元婚約者が、慕ってくれている。大切だから別れたその相手が、待っててくれたのだ。なんと素晴らしいことだろうか。


「よかったね、ヴァルター」


 一途な婚約者を持って幸せものじゃないか。そう言おうとしてヴァルターさんを見上げ、困惑した。……なんか、怒ってる、かな?

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