勇者、ダンジョンに潜る
前衛は剣士の俺のみ。
攻撃魔法担当のミューゼル。
奇襲、補助魔法、罠解除担当のジョニー。
攻撃魔法と建築魔法担当のカナリア。
俺とジョニーは本来はSランク冒険者なので人数が少ないことはたぶん問題ないと思うが、バランスが悪い。
別パーティでギルドの受付さん夫婦。
マッパーの受付さんと、護衛の奥さん。
一応イザってときは受付さんの奥さんも助けてくれるらしい。
「子供は実家に預かってもらったから3日くらい潜れるよ」
…イザって時じゃなくても戦いたそうだ。
「いや、今日は様子見なんで夜には帰ります」
夫婦ってだけでも驚きなのに子供までいるのか。しかも実家もギルドから近いとか受付さん夫婦には色々驚かされまくりの日だなーと思いながらダンジョンの入り口に立つ。
入り口とは言ってもまだただの穴の四方を木の枝と紐で囲っただけだ。
「本当に見つかりたてなので入り口はこれからちゃんと考えます」
「では、またできたら呼んでください」
受付さんは魔法具で座標をしらべて、画板に貼り付けられた紙の中心に座標をメモをした。
俺は縄ばしごをかけるとまずは自分が降りた。
ジメジメと湿度は高いが空気は思ったよりキレイだった。
「ブレイカー、解析を頼む」
「………このフロアには魔物はおらんな。ただし罠が多く道が迷路だ。空気は浄化機能がついているが一部罠と連動しているから気を付けろ」
「了解。みんなー降りてきていいぞー」
安全を確認したので全員が降りてくる。
「1回は罠のある迷路らしい。魔剣に道案内を頼んでいるからはぐれないように気を付けてくれ」
「ルトさんのところは地図要らずですね」
曲がり道があれば正しい方向、罠があれば事前に察知して教えてくれる。
まぁ、実際解除したり、魔物が出たときは自力で戦ったり解いたりしなければならないのだが、魔剣は非常に有能だ。
最短ルートで俺たちは次のフロアへ降りる階段に続く扉を見つけた。
「なるほど、左、右、左、左と動かして開いたらボールを落とさないように端までもっていくんだね?」
ジョニーが答えがわかってる罠は楽だけど物足りないと言いながら罠を解く。
俺には聞いてもよくわからないパネルをサクサク動かすと扉が開き、二重扉のトリックもあっという間に解いて次のフロアへの階段を出現させた。
「これを毎回解くのは手間だねぇ」
俺なら説明を聞きながらでも1時間はかかりそうだ。別の入り口は作れないのだろうか?
「四つん這いで通れる程度なら可能だ。ここにトラップが関与しない隙間がある」
「OK扉をつけるね」
カナリアが壁に小さな扉を作る。
これは所謂猫用出入口だよなー…サイズは人用だけど。
ツッコミたいのを我慢しつつ出来た扉を確認した。
扉はちょうど壁の間に板状の何かが元々挟まっていたのでつけれたそうだ。
今回は普通の扉を通ってから俺たちは階段を降りる。
「このフロアから魔物がいるぞ」
階下のエントランスで魔剣が警告した。
エントランスはただ広い空間で、扉が何枚かついていた。
今俺たちが降りてきた階段の所に腰くらいの高さの鉄格子の扉があり、これは南京錠で施錠されていたのでジョニーに開けてもらった。
鍵は無いけどそれでもお宝になるらしいので回収する。
残りの扉は全部普通の扉だったので魔剣に鑑定してもらった。
「左から餌オーク、餌スライム、下のフロアへの階段、奴隷コボルトだ」
「餌?」
「生きていれば腹も減るし、魔族には身の回りの世話をする魔物がいるからな」
餌オークや餌スライムをプラントで生成していたモノがそのまま残っているらしい。
現状、オークは餌不足で共食いし、巫蠱の原理で残っている個体は最早ただのオークではないらしい。
スライムはぎゅうぎゅう詰めで身動きが取れない状態。奴隷コボルトは村を作って普通に生活しているという。
巫蠱オークについては強さが読めないという。
共食いに共食いを重ねているので油断するとSランクでも死ぬ可能性があると脅された。
「提案する作戦としてはオークの扉から開けて素早く壁壊しの陣を描き、数分後に発動するようにセット。扉を閉めてしばらく待ちまず、スライムとオークを戦わせて数を減らすのが良いと思う」
スライムは洒落にならないくらいみっちりつまっているので、ドアも開かないとの事だった。
試してみたら本当に開かない。
オークの扉は一応開くけど物凄い殺気に包まれていた。
確かにこれは身の危険を感じる。
俺と受付さんの奥さんで様子を伺いつつ、カナリアが壁破壊の陣を描いた。
「描き終わったよ」
その言葉と共にドアから出る。
時限式の魔方陣が発動し爆発音が聞こえたかと思えばそれよりも激しい地響きが鳴り響く。
これがスライムの音!?
プギィっとたまに餌オークの断末魔が響く。
「そろそろ扉が開けられる。扉を開けたらすぐに穴を塞げ」
扉を開けると辺り一面を餌スライムが蠢いていた。
オーク側の部屋に続く壁の穴を塞ぐと俺たちは部屋の奥へと進んだ。