群蟹災害
森がおかしい。
虫の声がしない。
リノスとの四度目の逢瀬に向かっていた私は、何だかとても厭な感じがして感覚をソーマ探知に切り替える。
遠いがなにか・・・
消耗が激しくなるが、全力で飛行する。
速度は正確に計ったことがないが、音速に近い速度が出せる。三分が限界だが。
二分もいかないうちに森の中を走る生き物を見つけた。
黒い岩のようなものが森の木々を縫って走っている。
2ケスト(四メートル弱)はある岩のような甲羅から一対の鋏があり、六対の脚が軽やかに動いている。
蟹だ、百匹以上いる。
地球にも山に棲む蟹がいたが、タルフにも内陸に棲む蟹がいて、名前はまんま岩蟹、森で子供が行方不明になる原因の一つである。
地球の蟹より遥かに大きくて、危険な生物なのだ、右の大鋏を盾のように構えて時速十キロぐらいで走っている。
止まる。
向きを変えて走り出す。
街道の方だ。
気になって先回りしてみる。
商隊がいる。
護衛が二十、四頭立ての馬車が五台、町の近くで夜営しようとしているのだろう、陽が落ちているのに移動している。
護衛の者が防御しようとして剣を抜き、弓を構える、その後ろで魔法の詠唱を始める。
ほとんど一瞬で馬も人も大鋏に切られて蟹の群れの中に消えてゆく。
群れの食事を見届けることなく、私はその場を離れた。
蟹が目指しているのは町だ。
私の地球の知識では山の蟹が集まるのは産卵のとき、海に向かってだが、いま群れが向かっているのは逆方向だ。
急いでリノスの元へ飛ぶ。
リノスさんは肉体強化して高速移動するための練習をしていた。
「よっ! 遅かったなっ!」
気楽な調子で練習を続ける。
「時間が無い、御父上に報告してくれ、岩蟹の群れおよそ百匹が街道沿いに町に向かっている。
既に商隊が襲われた。」
「は?
ほ ほんとか?」
「蟹の弱点は火だ、2ケストもある蟹を倒すには高温で呼吸器系を攻めるのが有効だ。 」
塩素ガスを発生させることが出来ればもっと簡単なのだが、この近くにはスーパーもコンビニも無い。
蟹は山に棲んでいても鰓呼吸で、そのために鰓を濡らしている。
蟹が泡を吹くのはその為だ。
「う~っ むつかしいなっ!
よくわからんから ついてこい!」