災害対策
「ち~ち~う~え~ た~い~へ~ん~だぁ~あ~
でっかいカニがたくさんきたっ!!」
もう少しきちんと報告してほしい。
その点父親のほうはしっかりしたものだ、既に異変を感じていたのだろう。軽甲鎧を美人の奥さんに手伝わせて着ていた。
「初めましてエビルハンド卿、私はシャドウと名乗らせていただきます。
時間が無いので本題から、甲羅が倍ケスト程の岩蟹がおよそ百匹、街道沿いにこちらへ向かっています。」
「なるほど、でっかいカニがたくさんたくさんだな。」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
あのですね、おとうさま?
いや別に間違ってはいないが・・・
一芸に秀でた人というのは、時におおざっぱだったりするのだろう。
そういうことにしておこう主に私の精神的な安定の為に。
さて、急がないと時間が・・・あれ?
私が全力飛行すると秒速三百八十メートル~三百メートルこれは実証実験をしてある、音の伝達速度が三百四十メートルなのでだいたい音速である。
先ほど一分半ぐらいの距離だから340×90だから27000たす3600で30600だから30.6kmで時速10キロぐらいだったから三時間ぐらいの余裕がある。
それだけあれば・・・・・・
「なんでゼロアじゃないんだ?」
いきなり顔を覗き込んでくる。
「その名は簡単に使っていい名じゃないんだ・・・」
「へ~ そうなんだぁ 」
あの、御父上殿・・・
「でさぁ、君なに?
人間じゃないよね。」
地面に足を着けて人のふりをしていたが、あっさり見抜かれていたようだ、さすが八傑。
「私はフィクションであり実在しない人物なのです。ゆめまぼろしのごとき存在と御心得下さい。」
「ほう、それはそれは
いやなかなか頼もしい。」
何をどうするとその結論になるのだろう?
「それでエビルハンド卿には岩蟹百匹、片付ける算段がおありで?」
「うむっ 安心するがいいっ!」
なんと、さすがは八傑の一人。
「考えるのは我の役目ではないっ!」
さすがはリノスちゃんの御父上、エビルハンド卿・・・
「直言、よろしいでしょうか?」
「おお~ かわりに考えてくれるのかっ!」
何なのだろう、この脱力感は・・・
「まず他家に助力の文を、後は町の者に命じて外周沿いに火を、それと・・・ 」
到着予測時間と撃退法について話す。
この状況で三時間などあっという間である。
建物の外に人の集まる気配がある。
「父上、半数程集まりました。」
リノスの三人いる兄の一人だろう、父親似の少年が報告に入って来る。
「よしっ! 戰じゃっ!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「いだたたたたっ! いだいっ! いだい! いだいい! いだいですうっははうえぇっ!」
「何がいくさですか、貴女は大人しく私の手伝いをなさい。
よいですね。」
優しい口調でリノスちゃんを握りながら悟す母親。細くたおやかな指の中でリノスちゃんの頭の形が変わっています。
「でぇもぉ~」
うわ、この状況で逆らうとは、リノスちゃんの根性もたいしたものである。
「駄目ですよ。岩蟹の鋏に捕まったらこの程度では無いのですよ。
痛いなどと言う間も無く脳味噌を撒き散らすことになるの、わかりますね。」
「ううう~っ!」
「わかりなさい」
「わかりなさい」
私は何も見なかった。
これも子を思う母の愛なのだ、そうなのだ。
「はい・・・・・・・・・」
子を思う母の愛が通じた瞬間だった。
異世界の愛ってちょっぴり過激・・・
「わたくしが指示します付いて来なさい。 あなた よろしいですか? 」
いつの間にか部屋の角の机でむさぼるように文をしたためている御父上殿。
なぜでしょう、ただ作業をしているだけなのに『逃げた』という印象が有るのは?
「ああ、うん、娘よ、今回は御母さんの言うことをよくきいて手伝いなさい。
例の物も無いことだし、うん。」
御父上殿、眼が泳いでいますよ。
それに貴族が貧乏揺すりはみっとも無いです。
「エビルハンド卿、よろしければその手紙私が届けましょうか?」
それが最も速い。
「よろしく頼む。」
そう、これが最も有効な手段だからなのだ。
けっしてなんかいたたまれなくなったからではないのだ。
手紙を抱えて飛んでゆく私を、母親にテイクアウトされたリノスちゃんがすがるような眼で見てきたが、私は振り返る事は無かった。
大の虫を生かすため、小の虫を殺す事もある。大丈夫御母さんは君を死なせたりしないさ。
それに、正直言って君の御母上には逆らえる気がしない。
星の瞬く空を私は全力で飛んだ、町に生きる人達の為だと自分を慰めながら・・・




