食卓事情
アメイラスさん以外の冒険者の皆さんは荷物を届けるため帝都正門前で、入城の順番待ちをしている。
カルミアさんは急遽ベッドのシーツを洗濯することにきめたらしく、現在六枚目で洗濯機の容量では一度に一枚で一回百回転・・・ 冒険者の体力って凄い。
まだあと二十枚ある、アメイラスさんの眼に虚ろな色が滲む。
惚れた女の為に男が無茶するのは珍しいことではないが、カルミアさんも容赦ない。
「それじゃあ~ 今日はこのぐらいにして~ あとは~ 明日にしましょお~
アーちゃんも泊まっていくわよね~ 」
一緒に寝ましょうという甘いお誘いではなく、明日もここで働いていきなさい、それもタダで・・・ アメイラスさん、本気で考え直す事を御勧めします。
「アーちゃん、ごはん食べていきなさ~い。」
食堂は無駄に広いので、カーテンで三つに仕切ってある。
十人掛けのテーブルがそれぞれ置いてあり、使っているのは暖炉横のテーブルである。
メニューはパン入りスープとサラダ、私自身は食べられないので今一つ興味が無いのだが、この世界のパンは硬くて不味いらしい、スープに入れてあるのは食べやすくするためだ。
一応故郷では食べやすいパンも作ってみた。
先ず、エビルハンド婦人の協力を得て、パンを薄く伸ばしては何度も折って重ねてみた。
パンを柔らかくするにはパン生地に空気を含ませれば良い筈だ。
何度か行い、試行錯誤の結果伸ばしたときに猪の背脂に塩を混ぜたものを塗ったものが、最も味が良かった。
ピザと名付け、去年の収穫祭にエビルハンド家の家人総出で作ったのだが、とても評判がよかった。
その時レシピも公開したのだが、その結果ファントムレイス領では腰を痛める御婦人が続出した。
美味しい物を食べるには、犠牲が大きく冠婚葬祭時の食べ物として落ち着いたらしい。
但し技術は流出して、皇家や裕福な貴族や商家では専属のパン焼き職人を雇って作らせているらしい。
リノス嬢も薄く粉練るのは得意で、とくに生地を頭上で回転させるのが上手かった・・・ 焼くのは下手で、炭六、生焼け三の割合で、火が強過ぎるといつも怒られていた。
もう一つの方法、酵母菌によって生地を膨らめるために、酵母菌の選定はボルケノバース家で、ボルケノバース婦人を中心に研究している。
ボルケノバース家に依頼したのは、ボルケノバース家にはモルモットとなる動物が飼われているからだ。
結果が出る前に帝都に来たので、どうなっているかわからないが、成功すれば美味しいパンがより簡単に食べられるようになるはずだ。
ネクア嬢には、芋から水飴を作る方法を模索してもらった。
里芋に似たものから、水飴とは言え無いが、練り芋のようなものが出来た、ファントムレイス領では里芋と長芋のような物しか入手出来なかったが、帝都なら他の材料も手に入るだろう。
味見出来ないので完成度がわからない。
多分これから味見役にされるゼロア君は苦労するだろうが、将来領主になるのだ。
この帝都では苦労してもらおう、鉄は熱いうちに打てというし・・・
テーブルを囲んでいるのはゼロア君、カルミアさん、カイア先生、アメイラスさん、タイオス先輩、ルルア嬢、リノス嬢、ネクア嬢で、アンとマリーは給仕係りで、他の侍女見習いは私達の後で食事となる。
タイオス先輩は三歳年上の先輩で、タルバルト男爵家の三男である。
あと、リノス嬢の兄がいるのだが、それについてはまたいずれ。
「それで、アメイラスさんが貧乳好きって本当ですか? 」
「あたしの母上に振られてカルミアさんに疾ったってき~たけど。」
恋愛関係についての女子の追求は容赦が無い。
「そういやあ、途中で会った奴に聞いたんだが、南の海で雲が襲って来たらしい。 虫の蜘蛛じゃなくて空の雲だ。」
アメイラスさんが強引に話題転換を計る。
「雲・・・ 虫の群れとかですか? 」
虫の群れが遠目に雲のように見えることがある。 海の上なら鳥の群かもしれない。
「なんか雲がひょろんと伸びて、海獣をすくいあげていたらしい。」
海獣と言っても海豹や海象ではなく、海棲魔獣のことで、島ほどもある巨大なものもいるらしい。
「大きかったんですか? 」
「お~ なんでも船よりでかかったそうだ。」
このとき、アメイラスさんは話題転換に成功したと思って、口元がニヤけていた。
「そんないるかどうかもわからない雲の話なんてどうでもいいです。」
「いや、それでも飯も終わったし暗くなってきたからこの話はおしまい。」
侍女達は、これからご飯と洗い物なのだ。
「そうですね、じゃあ明日。」
その言葉でアメイラスさんも気づいた、明日は洗濯機を回しながら話をするという拷問のような一日が待っていると・・・




