新任教師
世界は間違っている。
胃の中のものをすべて吐き出して、青ざめた顔で教室へと向かう女教師。
深呼吸して入っていったのは、特待生のいる特別教室だった。
壁を抜けるとゼロア君がいた、ルルア嬢とネクア嬢、アンとマリーもいた。
アンとマリーは生徒ではなく侍女として来ているが、この学園には侍女として通ってその後優秀な人材に成った者も少なくない、学園に通うだけの財力を持たない者への救済措置のようなものだ。
特待生だけではなく、普通の学生でも侍女や侍従を連れている者は居る。
伯爵以上の貴族は、連れているのが当然といった風潮がある。
ボルケノバース侯爵家とエビルハンド伯爵家も近日中に侍女がくるはずである。
ファントムレイス家も帝都に出張所を持っているのでそこで用意することになっている。
侍女の条件として読み書きが出来ることと、できれば魔法が使えること。
ファントムレイス領はとくに識字率が低く、当然四則演算が出来る者も少ない。
思考力や想像力、思考を構成する能力を養うのが難しいのだ、ただそれを覆すのが魔災である。
魔災の子が冗談半分に「火よ出ろ!」と言って本当に火が出てくることがある。
ナッペのように言葉さえまともに話せない者が魔法を使えるようになるのが魔災の子の恐ろしい所である。
実際子供達が魔法ごっこをする姿はよく見かけるが、たとえ潜在魔力があっても魔法を現象としてイメージ出来ないと魔法という技術として身に付けることは出来ない。
では、ナッペの場合はというと推論になるが、蛇の捕食行動を見て魔力でそれをトレースしたのではないだろうか。
それも、無意識の内に・・・
発現したのが山賊の根城なだけに、あまり楽しくない想像をしてしまう。
当時ナッペは五~六歳・・・
彼女も侍女として教養を身につければ一生食いっぱぐれは無いだろう。
この教室に侍女は二人アンとマリーを含めても四人といっても入学式なので、新入生の五人しかいない。
特待生は一年~五年まで全て一つの教室で、他の一般生徒は二つの教室で入学式後の学園の説明を受けているが、実際には学習内容によって教室を移動する方式とのことだった。
授業は午前中だけで座学だけのようだ。
魔法についての実践は、午後に個人個人で行うようにとのこと。
魔法については、家ごとに秘密の部分があるので、寮で先輩に教われということらしい。
そのくせ、年二回の学期末には実技試験があるとのこと、勿論筆記試験も。
「もちろん先生は皆さんの魔法技術の向上のためにいるのですから、いつでも相談に来て下さいね。」
うわ、なんか先生みたいなこと言ってる。
酒呑んで勢い付けようとして、吐いてたくせに・・・
説明も流暢で、態度も堂々としている。
まるでベテラン教師のような風格さえ漂わせている。
もしかして酒が入ると調子が良くなるとか、漫画にはそんな人物が出てくることがあるが、現実に存在するとは思わなかった。
ちなみにカイア先生は十五歳、ファントムレイスに届いたプロフィールでは宮廷魔導師だったはずだ。
この学園出身で特待生、五年かかる学園生活を跳び級で二年半で終えて、宮廷魔導師に抜擢・・・典型的なエリートコースである。
大公家に嫁ぐには、元男爵家というのは位が低すぎるが、宮廷魔導師との合わせ技で辛うじてというところか。
帝国は封建制度、身分制度で固まっているのだ、男だと強ければなんとかなるのだが、女性は本妻以外にするという手があるので、逆に本妻についてはそれなりの身分が求められる。
それでも、こうして堂々と教師をしているカイア先生を見ていると・・・楽屋裏を知っているので、何ともいえない気分だ。
「あの先生なにか不思議な香りよね、酸っぱい匂いは・・・ 柑橘系かな? 」
ルルアさん、それは胃液の匂いだと思いますよ。
「それと・・・ お酒の匂いが混じってるみたい、都ではこういう香水が流行ってるのかな? 」
閉店する頃の酒場に行けばいくらでも嗅ぐことの出来る匂いです。
ルルアとネクアがこそこそとガールズトークをしている、教卓と生徒の座席との間に距離があるので、匂いが薄まって本来のものとは違う匂いになっているのだろう。
ゼロア君はゼロア君でカイア先生の大きく開いた胸元・・・というか、おおきくて白いおっぱいに釘付けだったりする。
ここが現代の日本だったらPTAから抗議が来そうな露出度の教師である。
まさかゼロアを狙っている?
大公家とはいえ貧乏貴族のファントムレイス家にそれだけの魅力があるのだろうか?
宮廷魔導師と学園教師ではずいぶんと立場が違うが何かあったのだろうか?
もう少し調べてみることにしよう。




