寮内幽行
久しぶりの実体化・・・十日ぶりなのはいつものことなのに、なぜかずいぶん久しぶりのような気がする。
いつものようにゼロアの呼吸を確かめると部屋をでる。
「おっと・・・ 」
「ひゃう~~~~~っ!!!」
ドアの前にマリーがいて、つい通り抜けてしまっていた。
暫く息を荒くしていたが、眼を閉じて息を整える。
「ゼロアさ・・・シャドウ様、乙女の大切な所を断りもなく貫くのは御遠慮願いたいのですが。」
うん、確かに心臓を始めとして重要臓器を通り抜けていたけど・・・
「誤解を受けるような言い方は控えて下さい。」
「お~ ゼロアだ ゼロアだ
すっかすかのゼロアだ! 」
廊下を走って来たリノス嬢が、私の中に手を出し入れして、けらけらと笑っている。
「リノスさん、あまりはしたないことはしてはいけませんよ?! 」
ルルア嬢はゆっくりと歩いて来る、後ろにネクア嬢が付いて来る。
ネクア嬢は、ルルア嬢とリノス嬢が居ると、途端に無口になる。
ゼロアは、そういったことに気付かない・・・正直鈍いので、そのあたりフォローしておかないといけない。
やっぱり爵位が関係しているんだろうなぁ・・・
さらに二人、食堂の方からやって来る、小柄な二人で同じぐらいの背丈、一人はナッペで、もう一人は寮母のカルミアさん、なんとハーフエルフだそうな、リノス嬢の祖母の頃から寮母をしていたらしい。
緑色の髪をショートカットにして、割烹着を着ている、髪より濃い緑色の瞳に薄茶色の肌だが、母親が南方系の人属というだけで、彼女はダークエルフではない。
外見から辛い経験もしたらしい。
後ろにいるナッペも同じ割烹着姿で、現在奉公人見習い中。
いや、一応メイドさんなんだけど割烹着を着てるとメイドさんというようには見えない。
事実、炊事掃除洗濯等は出来ない、それどころか日常会話にも不自由するレベルで、ゼロア、リノスと共にカルミアさんの監督の元で学習の日々である。
ゼロアは書取練習、リノス嬢は計算練習、ナッペは日常会話の習得・・・カルミアさんによると、ここまで教え甲斐のある相手は初めてだということだ。
「で、このナッペの魔法ってどんなんだ?
なんかコカトリスをイチコロだって話らしいけど。」
「う~ん、説明は出来るんだがナッペの魔法は用途が限られているから・・・
あの魔法は暗殺に最も適している、あんな魔法が広まったら暗殺合戦が始まる。
魔災の影響がこれから本格化すると思うのに、こんな魔法のせいで人間同士で争いを始めたらどうなるか・・・ 」
他国に侵略されるというのは幸運の内だ、人間同士が争っている間に人間を脅かすものが育ってしまったら・・・
「あらあら~ しーちゃんはいろいろ考えてるのね~ 」
「ゼロア様は大公家御令息ですから、いつもいろいろ考えていますわ。
既にファントムレイス家の頭脳と呼ばれていますのよ。」
「そうなの~ なんか変なものばかり作らせているってき~たよ~ 」
「すいませんね~ 変な領主見習いで。」
「ふ~ん ふふふ~ん 」
こちらの顔を覗き込んで、何かを見定めようとしている。
カルミアさんは年齢不詳のハーフエルフである、実年齢は幾つなのだか・・・
殺気!
「ねぇ~ 今何か不届きなこと考えなかった? 」
「は?! 」
「たとえばぁ~ おね~さんのこととかぁ~ 」
「そ~ですね、エルフの耳って尖ってるけど、どんな感触なのかな~ とか。
寿命はどのぐらいで今幾つなのかな~ とか。」
「・・・ れーてん。
も~ちょっと面白いことゆ~よ~に。
ちなみに、おね~さんが幾つか知りたかったらぁ 口説いてお嫁さんにすることねっ!!
そしたらついでに耳でも何処でも触らしてあ~げ~る~♡ 」
「たった今興味を無くしました。
触り甲斐の有りそうなのは耳だけですし。」
エルフの血が影響しているのか、カルミアさんはナッペと同程度の低身長でツルペタの幼女体型である、私はロリコンではないので興味無い。
「うんうん、いまゼロアくんの肉体は寝てるのよね~
よ~し 全力でイタズラしよ~!! 」
「すいません ごめんなさい
カルミアさんは魅力的で妖艶な年上のお姉さまです。」
「ま~ し~ちゃんて平気で嘘がつけるひとなのね~ 」
それはまあ、貴女程ではありませんが長く生きていますから。
「美しい女性を褒め称えるのは男の義務です。」
「あらあら~ 」
「ふ~ん 」
「へ~ 」
「・・・・・・ 」
しまった、やらかした。
これはこの場の女性を褒め称えないといけない流れだ・・・
ここは一旦引いて後に各個撃破が戦術的に望ましいのだが、状況がそれを許してくれそうにない。
「御館様~ 御客様です~ 」
幽霊も真面目にやってると良いことが有るようだ。
アンが呼びに来た。
一応この寮はファントムレイス領なので、現在当主はゼロアになる。
城とプライストベーム寮とブラッドハンド寮には手土産持参で挨拶に行ったから、返礼だろうか?
とにかくここは助かった。
厄介な相手が来ているとは知らず、私は待ち合い室へ急いだ。




