少女命名
新しく一行に加わった子には、名前が無かった。
それどころか言葉もろくに話せ無かった。
「この子の名前付けたほうがいいですね。」
「名前が無いと何て呼んだらいいかわかりませんし。」
「これから連れて行くとすれば名前は必要になりますわね。」
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本人は飴残をしゃぶっている。
甘いらしい。
幽霊なので味覚はありません。
憑依しても味覚はよくわからなかった。
この子に会ったのは初めてだが、二年くらい前に感じた『ソーマ』と同じ『ソーマ』を宿している。
山賊が人質ごと全滅していたときに感じた、私が思わず逃げてしまった、あの『ソーマ』の持ち主が、おもらいさんのこの少女だ。
連れて行って良い相手なのか正直わからないが、ここで捕まえておかなければ、二度と遭えない可能性がある。
ただ、問題なのは外見上危険に見えない事である。
そしてそれを伝える手段も無い。
『一言伝』は使ってしまったし、私がシャドウとして実体化出来るのは七日後の日没前後になる。
「この子の名前付けたほうがいいですね。」
「名前が無いと何て呼んだらいいかわかりませんし。」
「これから連れて行くとすれば名前は必要になりますわね。」
・・・・・・・・・・・・・・・
ここにいる中で最も立場的に高いのは、大公家の長男であるゼロア君である。
名付け親になるのは家長か、その場で最も身分の高い者というのが、不文律である。
なので、アンとマリーとネクア嬢が順番にゼロア君に圧力をかけているのだが、ゼロア君には理解出来ていないようでした
「ゼロア様、この子に名前を与えていただけませんか? 」
「え? あ、うん。
わかっ… わかりました。」
先に折れたのはネクア嬢でした。
ゼロア君の勝利です。
なんともすばらしいゼロア君の鈍感力でした。
父としては涙が止まりません。
幽霊なので泣けないけど。
空気を読むというのは、対人技能なので、これまでの人生の殆どを土蔵で一人で過ごして来たゼロア君には不可能といって良い。
「じゃあ、パドラ。」
「駄目です。」
「脚下。」
「問題外。」
「よろしいですかゼロア様、亡き母上の御名前を軽々しく付けてはなりません。
母上は元皇族で現皇帝の妹御なのですよ。
不敬罪にあたります。」
「ええっと・・・じゃあ・・・ 」
「ルルア様、リノス様、もちろんネクア様の御名前を付けてはいけませんよ。」
「ええっ? 」
「もちろん、私達のも。」
ゼロア君は、無表情のまま油汗を流しています。
ヒントを求めるように、少女を見ます。
つい最近髪を切り落とされたような頭に、垢抜けない田舎者丸出しの顔、手足は異様に細く、下腹部がぽっこりと出ている。
餓鬼だ。
子供を揶揄したガキではなく、地獄絵などに出て来る餓鬼である。
あれは極度に飢えた人間がどうなるか描いたものだそうだ。
ゴブリンも似た姿だが、こちらはこの世界では実在していて、民間伝承によると飢えた子供や動物が魔災の影響でゴブリンになるといわれている。
彼女は栄養不足であんな外見になったのだろう。
残念な事だが老人や子供を捨てる習慣はどこの村にもあるものだ。
でも、彼女は以前山賊に捕まっていた事があったはずだ。
「ナッペ。」
ゼロアがつぶやく。
「はい、採用。」
「良かったわね、あなたの名前は『ナッペ』よ。」
「ええっ? いいの? 」
騒いだせいで御菓子を取られると思ったのか、ナッペが逃げようとする。
マリーが捕らえ、アンがお湯売りからいつもより多く買う。
「ほらほら、いまからお湯できれいにしますからね~ 」
「ちゃんときれいにしたら、も~ひとつあげますよ~ 」
飴残をちらつかせる。
ナッペは、こくこくと、うなづく。
しかし、どこの世界でも女の子には甘い物をあてがっておけばよいらしい。
有無、これは宇宙の真理かもしれぬ。
あとでゼロアに伝えておかねば・・・




