故郷出立
朝日が昇るのを見ていると、誰かがこちらに歩いて来る。
黒っぽい服装で、なんとなく喪服に見える。
随分と近くまで来て、やっとネクア嬢であると気づいた。
黒のピコハットを編んだ髪にのせ、黒紗々のヴェールで顔を覆って、白のブラウスの上から黒のカーディガンを羽織り、白い長手袋をして、黒い長靴下・・・ストッキングといってよいだろうか?
いや、タイツのようなものかもしれない・・・ストッキングだとしたら、ガーターとかあるのだろうか?
スカートの中がどうなっているかわからないが…!!!
忘れていた、この世界の下着、女性用は六尺褌だった。
六尺褌の下のガーターベルト、なんて残念な・・・
いや、それどころか・・・
・・・(妄想中)・・・
朝、隣で寝ていた女性が、ほつれ髪をととのえながら、甘い吐息をからませて、けだるげに眼を覚ます。
裸の胸をそっと覆いながら布団から身を起こし、恥じらいながら脚を布団から出してゆく。
寝床の側に用意してあった長い布の端をそっと唇にたばさみ・・・
ぐいぐいと六尺褌を絞める。
なぜでしょう、泣きたくなりました。
この世界では、ゴムが無い、少なくとも今の所見て無いし本にも書いて無かった。
もしかしてこれから行く帝都にはゴムがあるのだろうか?
ただ、毛糸の編み方次第ではゴムに近い物を作れる・・・この世界の毛糸はとてもチクチクするので、直接肌に触れる物は無理だし、ゴム程の伸縮性は無い。
となると・・・ゴムが無いと仮定して、この世界の技術でも作れるとなると・・・紐パン。
うん、それしかないよな。
よしっ! 帝都についたら・・・
幽霊にはつくれません。
よし、こうなったら・・・
流石にゼロアを巻き込む訳にはいかない。
あきらめちゃだめだ。
なにか、何か方法が有るはずだ。
魂の父親が己の欲望のままに帝都を蹂躙する計画を立てていると、ネクア嬢はやって来ていた。
「おはようございます、若様。」
「おはよう、ネクア・ステイフィールド殿。」
しばらくネクア嬢は黒紗々越しにゼロアを見ていたが・・・
「やはり、シャドウ様とは違うのですね。」
その言葉に、一瞬ゼロアの顔が曇る。
ゼロア君、君その仏頂面何とかならないのかね?
・・・考えてみたらゼロアは十歳になるまで、生まれて九年間ずっと土蔵の中で、わずかな人間としか会っていない。
コミュ障どころではない、監禁状態だったのだ。
対人関係など無かった。
私が実体化している時は、ゼロアは昏倒している。
筆談では、コミュニケーション能力は育たない。
「シャドウがネクアさんにやさしくしろと。」
ばかやろ、それ言っちゃ駄目だろ。
「やさしくとは、どうすればいい?」
そこからかいっ!
あ~いつも側にいて、こちらからは話し掛けていたから、何となくわかっていた、わかってもらえていた気になっていた。
私は幽霊で、どれだけ話し掛けても聞こえ無いのだ。
ネクア嬢は、少し困った顔で・・・
「どうしてシャドウ様がそのようにおっしゃったのか、御存知ですか?」
「ネクアさんの母上が亡くなった。」
お~ま~え~わ~
少しくらい言葉に気をつけろ!
暫く続く沈黙。
「とにかく乗れ、出発する。」
用意してあった馬車は六頭立てで御者席の後ろに座席が四つ、その後ろには荷物が載っている。
ネクア嬢の荷物はステイフィールド家の家人が運んできた。
ゼロアの荷物の三倍ぐらいあった。
量はあったが、軽そうだったから中身は服だろう。
いや~ 女の子だねぇ。
ステイフィールドの家人は見送りすると、そのまま戻るのだろう。
ファントムレイス家からは、メイドさん? が二人。
アンとマリーで、ゼロアの乳兄弟である。
一応役職的にはメイドさんなのだが、メイド服を着ていません。
この世界にはメイド服が無いのかもしれません。
下着とメイド服は作らなけらばならない、これは転生者の義務です。
因みに二人共攻撃魔法が使える。
護衛役も兼ねているのだ。
あと、ついでにボルケノバース家のルルア嬢とエビルハンド家のリノス嬢は二十日前に帝都に向かった。
ゼロアとネクア嬢は特待生なので入学試験は免除なのだが、ルルア嬢とリノス嬢は入学試験を受けるため先に行ったのだ。
ルルア嬢はともかく、リノス嬢は筆記試験が危うい。
エビルハンド家現当主は、筆記試験に落ちて一浪したそうだ。
そのせいで、当時家庭教師役だった幼なじみに一生頭があがらなくなったそうな。
くわばらくわばら。
言う必要も無いだろうが、その幼なじみは、現在エビルハンド家の最高権力者であるエビルハンド夫人だ。
そんな事がなかったとしても、多分一生頭があがらなかったと思う。
「ところで、母上ってどんなもの?」
こらこらこらっ!
君は地雷があると踏まずにはいられないのかっ!
「え?
あ・・・ そういえばファントムレイス家の・・・ 」
そういえばファントムレイス夫人であるゼロアの母親はゼロアの誕生と同時に亡くなったのだった。
「母上って見たことないから、知らない。」
がば
いきなりネクア嬢がゼロアを抱きしめる。
数えで十歳なのにネクア嬢はわりと胸がある。
おいこら、何でお前ばっかり・・・
いや、いいんだけどね、私が小学生の頃はね・・・
何となくゼロアに触れると、ゼロアの思考が伝わってくる。
ネクア嬢の胸に顔を埋めて・・・
(なんか、ぷよぷよするなあ。)
うん、まあ、小学生だったらそんなもんだよね。
六尺褌の絞め方についてはネット等でお調べ下さい。




