角竜機盾
上半身を角竜を模した盾で覆い全力で突進する。
三本の凶悪な角を持ったトリケラトプスの盾だ。
盾の裏側に肩付けして、盾と三本の角を魔力強化する。
これは盾の強度を増すとともに盾を肉体の一部、手の延長として感覚を得ることが出来る。
狙うのはエビルハンド家当主、軽やかな動きでいなす。
エビルハンド卿は得物を持たず、素手で足捌きを主体にフェイントを交えて軽々といなしていく。
まるで踊っているようだ。
いや、単にいなしているのではない。
誘導している。
リノス嬢の突進は砲弾を思わせるほど速い、速いが単調である。
流石は八傑、戦闘経験の差か。
誘導していることに気付くと、あと三手でリノス嬢が詰むとわかる。
盾に右肩を付けているリノス嬢の視界が開けた左側によけるエビルハンド卿、まず一手。
視界に入ったエビルハンド卿を無理な体勢で追おうとするリノス嬢、二手。
突進の速度を失ったのを利用して盾の角に手を添えて、その場でターンを決めると、どったんと倒れるリノス嬢、はい詰み。
「うっう~っつ! 」
手足をばたばたさせて駄々っ子状態のリノス嬢。
「こんちわ~ 」
夜だけど。
「ああぁ~っ!
おそい おそい おそい おそいぃい~っ! 」
「ごめん、遅くなった。」
「ひどいわ、またあのヒトのところにいたのね! 」
なぜでしょう、無いはずの心臓が止まりそうになりました。
ぎぎぎ と、音がしそうな動きでエビルハンド卿に顔を向ける。
「そうなのかね。」
親子で追い込みをかけに来ました。
「ルルアさんの所に寄ってました。
とりあえずお友達になりに。」
嘘をつく理由も無いので正直に言う。
「お友達付き合いも大事だけど、わたしのことも忘れないで下さいね。」
「あの~ 御父上殿・・・・・・ 」
「うん、その次は『娘さんを下さい』だぞ。」
「どうした、ほら早く。」
「ごめん、まだそういうの早いと思う。」
「そんなことはない、祖母君のタネト様は生まれた時には結婚相手が決まっていたし、クラドケスト家やマリナゼスト家では既に結婚相手が決まっている。」
「ええと・・・ 」
困って御当主を見ると、真剣を振って・・・なんか怖い顔をしていました。
「それよりさ、その盾完成したんだ。」
「うんっ! 三日前になっ!
これがあれば蟹なんか敵じゃなかったのに。」
「それはどうかな~
硬い相手だと相性が悪いと思う。」
その盾『角竜機盾』はリノス嬢の先月の誕生日に送ったものだ。
貴族の間でだけ広まっている習慣で、誕生日というものがある。
平民の場合、年の初めに一つづつ年をとるのだが、貴族間では社交的な理由から誕生日を祝うのが流行っているのだ。
盾そのものを作る技術も、材料を揃えることも出来ないので、絵を木の板に描いて贈ったのだ。
突進を主体としたリノス嬢には、トリケラトプスの角を持った盾が合うと思ったのだ。
「あの蟹の殻を貫くには速さも力も足りないと思うよ。」
「む~ 」
「残念ながら彼の言う通りだよ。
それにこの父の力でも十匹が限界だろう。」
ええ~ あの蟹の分厚い殻を十匹も?
「本当にですか? 」
「娘の前なら。」
さらっと言う。
娘の前ならその位出来るという事か、娘の前ならその位の無茶はするという事か、どちらにしろこれが父親というものか・・・
私はどんな父親になっただろう。
「さすがに父上は強いなっ!
よ~しもっと速くもっと強くだなっ! 」
実際には、フェイントなどの駆け引きも必要なのだろうが、それはまだ後でいい。
今は基本を固める時だろう。
だが・・・
「速く強くはいいけど、脚を柔らかくするのも必要なんだよね。」
「なにか良い方法がありますかな?」
う~ん、確かなんかの映画では・・・
「水に浮かべた丸太の上で闘うとか? 」
「ほほう、それは面白い。」
「ほほ~ それはもしろい。」
うん、意味を理解してから言おうね。
「む~ なんかしつれ~なことかんがえてるな~ 」
「いや、リノスさんは母上殿に似てるな~と思って。」
「そ~か うんうん、父上は強いけど、母上は怖いのだ。
な~ 父上! 」
「すまない、急用を思い出した。
これで失礼する。」
蒼い顔で走り去る。
流石の脚力である。
「にげたぁ やっぱり怖いのだな。」
「リノスさん母上殿からも何か教わっているのかな? 」
言ってしまってから、藪蛇の可能性に気付いたが、言った言葉は飲み込めない。
「おうっ! いろいろ教わったぞ。
女の武器は胸だけじゃないって、母上がゆってた。
すごいぞ、母上の胸は武器だったのだな、どうりで取り外しできるはずだ! 」




