主家訪問
蟹の鋏のボイルと小皿に盛った塩。
目が覚めたゼロアの前に用意された朝食だった。
赤く茹であがった岩蟹の大鋏から身をほじくり出し、食べる。
塩を振り、また食べる。
その頃ファントムレイス家には二人の男性が招かれていた。
「先日の蟹の件御苦労であった。」
招かれていたボルケノバース家とエビルハンド家の当主は片膝をついて礼をする。
ファントムレイス家現当主は二人よりも若い、立場的には上だが本人も威厳や経験が足りてない事を自覚している男だった。
「あ~うちにも壁が欲しいですよね~
分厚いやつ。」
「領主殿、なんとかならないでしょうか?」
互いに財政的に厳しい事はわかっているが、魔災の影響による生物の災害や、過去幾度となく起きた人的災害がこの町を脅かす・・・いや、滅ぼす可能性が少なからず有るのだ、金を惜しんで命を棄てては意味が無い。
三人ともそのことはわかっているはずだった。
たとえそのうちの一人がのほほんとした顔でいたとしても。
「エビルハンド卿、本当に状況を理解出来ているのかね?」
「は? あ、え~ たぶん。」
困った子供を見るような、やるせない空気が満ちる。
「わかってる、わかってるって、きちんと理解してることにしないとうちのに怒られるんだからわかっているに決まっている。」
なんとなく、もうどうしようもないような、そんな気分で話を打ち切るしかないのではないかと思い始める、何しろこの話が出るのは何度目か分からない程なのだ。
「解決策だってあるんだぞ。」
「ああ、なるほどそれはすごいな。」
ボルケノバース卿がほとんど条件反射で答える。
「ええっとな、ほら、家のモンとか、あと狩りする連中とか、山とか森とかに行く事があるだろ、そん時に石を拾って来れば・・・・・・あれ、なんだったかな・・・・・・そうそう塵が山になるとかなんとか。」
「あちこちから石を集めてくれば、いずれ壁になるって事か?
なるほど、あの蟹はおまえが原因だったのか?」
「ちょっとまて、何でそうなる?!」
「うんうん、エビルハンド卿がまともな事言うだけでも大変なのに、頭を使うなんて天変地異が起きても・・・
ああ、我らが祖先よ、我らの未来が明るいものとならんことを。」
「安心しろこれを考えたのは俺ではない。」
「なるほど、奥方殿か、なるほど。」
「いんや、昨日貴殿も会っただろう。」
「なるほど、あれは貴殿の身内か?」
エビルハンド卿は首を振って応える。
細めた眼を光らせるボルケノバース卿。
「よろしいかな。」
二人のじゃれあいに口を挟めなかったが、そろそろそういう訳にもいかないだろうと、ファントムレイス卿である。
「さて、貴殿等の素早い対応と奮戦により撃退がなった、さらにエビルハンド卿には防護壁の作成に道筋をつけてもらった、この功に報いねばならないが何か望むものはあるか?」
「ではひとつ、ゼロア様にお会いさせていただけますか?
いずれ我らの領主となられる御方、早めに御挨拶したいと思います。」
エビルハンド卿は、ふう~っと息を吐く。
「それも奥方殿に仕込まれたのか?」
「おう、おかげで昨夜は寝て無い。
徹夜なぞどうということはないが、一晩中同じセリフを繰り返させられるのは疲れる。
サボると叩かれるし・・・ 痛いんだあいつのは・・・」
「相変わらずエビルハンド一族の脳味噌は筋肉で出来ているようだな。」
「おうよ、我が一族自慢の脳味噌だ。」
この世界、この時代では脳が筋肉で出来ていないことは知られていたが、エビルハンド一族では脳味噌も鍛えると硬くなると信じられていた。
「それでなぜゼロア様なのだ?」
今回の褒美は要らないと言うに等しい。
「ん~ まあ懐事情はお互い様ってことで。」
ファントムレイス家として、すぐに報償金など用意出来ないのは家臣として理解している。
直接報償では無く、一度帝都に御伺いをたてて年貢の軽減によって褒美とするしかないのが主家の懐事情だと知っている。
逆に家臣のほうが農地を持っている分余裕があるのだ。
ファントムレイス家としてゼロアは諸事情から表に出したくなかったが、今回のように褒美を待つ口実に使われると、会わせない訳にもいかない。
「こちらへ。」
どうせ事情は知っているだろうと、隠す気もなく土蔵へと案内する。
薄暗い土蔵の中にはもうすぐ生まれて六年目になる少年が板の上に座っていた。
容貌は父親そっくりだが、どこか虚ろな眼をしている。
ボルケノバース卿は、ゼロアを見て一瞬だけ眼を細めて、膝を付く。
「初めてお目にかかります。ラメガ・タラノ・ガルゼ・ボルケノバースと申します。」
「同じくゲラノス・プロケラ・ジャア・エビルハンドと申します。」
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「ゼロア・カー・ゴスト・ファントムレイスです。
宜しく。」
挨拶だけして、出ることになった。
そのまま帰ることとなった。
「どういうことだ?」
「ゼロア殿か?」
「ほかにあるか?」
「俺にわかるとおもうか?」
「気付いたか? あの蔵の地面細かい字がみっちりと書かれていた。
お互いの家の事とか、二次関数とか、過去の魔災の魔獣についてとか・・・」
「じゃ、こっちも一つ。」
ひょいと、振り返って指差す。
「いるよな。」
誰にも見えないはずの私を・・・




