岩蟹戦記
思ったより小さな音で岩蟹十匹が潰れる。
町の入り口から街道沿いに四列並んだ杭打ち機が圧し潰した。
戦闘開始の合図となった。
蟹の脚がまだ動いている、倒しきれなかったのではないかという声が起こる。
再度の攻撃を行うために綱を引いて岩を持ち上げる。
「きっちり上まで持ち上げろっ!
じゃねーと倒せねーぞ! 」
死骸を餌として集まって来る岩蟹。
町の中に入ろうとする蟹を防ぎ、杭打ち機の下に蟹を留めているのはエビルハンド家の猛者が支えている大盾である。
蟹達は既に左右に分かれている。
この町には防護壁がない、町を囲む堀があるだけで、その堀も二~三メートルの幅があるだけだ。その内側にわずかな盛り土がある、その堀で蟹から町を守らなければならない。
堀からは湯気があがっている。
先ほどまで盛り土の上に焚き火が並んでいて、その中で石を焼いていた。
それを焚き火ごと堀に突っ込んだのだ。
あらかじめ堀の取水側と排水側は土で埋めてある。
盛り土の後ろにも焚き火があり、その中でも石が焼かれている。
盛り土の手前では家の戸板を三~四枚縄で括った物を盾代わりに、男衆が蟹の侵入を防いでいる。
焼いている石の大半はどこかの家の土台だったか、屋根の上で木の板が反らないように乗せてあった物だ。
焚き火の中身もその辺の家から剥ぎ取った物だろう。
さらにボルケノバース家の精鋭が堀に火炎弾の魔法を放つ。
火炎弾は水に触れると一瞬で消えてしまう。
だがそれでいい。
その時発生する水蒸気が武器となる。
人間でも火事の現場などで大量の水蒸気を吸い込んで肺を火傷して死に至ることがある。
蟹を倒す武器は煮え立った堀と、そこから出る高温の水蒸気だ。
と入っても、堀の幅は狭く、水蒸気で鰓を焼いても蟹の体内に酸素がある間は、蟹は暴れ続ける。
可能な限り被害が少ない策を選んだつもりだか、被害の出ない策では無い。
蟹に頭を割られる者、堀に引きずり込まれる者、喰われる者。
町を守る、家族を守る、そう言いあって結束を固める。
戦線が崩壊しつつある場所がある。
ボルケノバース家の精鋭の一人、武士団 魔導部隊の中でも二位か三位の腕利きがいた場所だった。
堀の水では無く、直接蟹を狙って火炎弾を撃っている。
蟹の分厚い甲羅に阻まれて何の役にもたっていない。
同じ箇所に何度も当てるか、腹側の装甲の薄い場所か、せめて関節を狙うか・・・
それでも水蒸気のほうが効果的だ。
遂にそこが破れる。
しかし、それに気付いていた者もいた。
誰よりも早く動いていたのはルルアだった。
彼女は火種として焚き火に火を点けていたのだが、高すぎる魔力のせいで出力調整が出来ず、また効果範囲が狭いので扱いが難しいようだった。
その為疲れて座り込んでいたのだが、いつの間にか来ていた。
「鋏の間を狙って!」
少女の頭を狙って伸ばされた鋏の関節部分に、人の魔力で可能とは信じられない熱量の炎がそして鋼棒が続く。
エビルハンド家当主の一撃だ。
蟹の甲羅は火に炙られると硬くなる、が、それ以上に脆くなる。
大鋏を粉砕されて、今度はもう片方の鋏を伸ばそうとしたが、エビルハンド家当主の前では無駄だった。
ひっくり返すと、後ろから火炎弾が五発連続で堀の中に落ちる。
ボルケノバース家当主だ。
あの威力で五連続・・・
「今回狙うのは水だと言ったはずだ。」
「しかし・・・ 」
「愚か者が!」
戦線の穴を埋めるよう、予備戦力が投入される。門の杭打ち機は三十四匹を倒して、蟹が挟まって動かなくなった。
堀には茹だった蟹が溢れている。
敵残存数三、さすがに逃げようとするが、今度は綱をかける蟹も鋏で切ろうとするが、それより早く多く綱がかけられる。
こういうのも飽和攻撃と言うのだろうか?
さらにその上から桶や盥で堀の湯がかけられる。
湯から、煮えた蟹の匂いが広がる。
最後の一匹が動かなくなって、安堵の息と、続いて勝ち鬨の声があがる。
既に実体化が解けた私は、本体の元へ。
と、その前に、周囲のソーマを探る。
探知出来る範囲では異常なし。




