造られた空
16歳になったら旅に出るか、この都市で永遠に生きるか。
それを選ばなければいけない。
僕はもうすぐ16だ。
選ばなければ……自分の幸せを。
僕は本物の空を知らない。
生まれた時からドーム状の都市で生きてきたから。
この都市は人工的に造られた空で覆われている。
だから空は機械的な明かりで朝昼夜を作り出す。
ただたまに雨も降る。
雨はドームの外で降ったものを濾過し内部に降らせている。
だから飲んでもいい。
まぁ、飲まないけど。
「おーい、ウィザーク」
少し先の丘から僕に声を掛けてきたのは幼馴染で
親友のイスタルだった。
僕は少し駆け足で彼に駆け寄った。
「ごめん、遅れた」
「いいよ。まだ始まってないし」
夜だというのに、僕らの他にも数十名この場所に集まっているようだった。
その理由は──。
『ヒュウウゥゥ、ドンっ!!」
花火だ。
「おっ、始まったな」
大きな音を立て空にオレンジの花が咲く。
『ヒュウウゥゥ、ドンっ!!」
一発また一発と空に花が咲いていく。
「クンクン。今年は柑橘なんだな。いい匂いだ」
「うん。僕この匂い好きだな」
空に咲いた花は地上に匂いを降らせ、僕らの鼻腔をくすぐる。
僕はイスタルの子供っぽくはしゃぐ声を聞きながら服の裾を掴む。
少し匂いに慣れてきた頃、今度は赤い花が空に咲く。
「お、今度は甘い匂いだ」
「でもなんか、そんなに鼻につかないね」
「そうだな。俺はもっと甘い方が好きだな」
「また虫歯になるよ?」
「匂いでなってたまるか」
「ハハハッ」
それからもいろいろな花火が空に咲いては散っていった。
「明後日から学校だな。始まったらまた勉強か、だり〜」
花火の帰り道。
イスタルの言葉が僕の胸に刺さった。
この都市では学校は生まれた月によって入学と卒業時期が決まる。
八月に生まれた僕らは九月から入学。
今度の学校は三年式だから、卒業は三年後の七月になる。
誕生月は次の環境への準備として、休みになることが普通だ。
「もう一月休ませてくれてもいいよなー。俺ら三年間皆勤だったんだから」
「ふふふ。そうだね。でももう一月休んだ後も同じこと言うんでしょ?」
「ああ。ずっと休みてぇ〜」
「そんなことしたら……彼女が可哀想だよ」
「ハハハ、そうだなぁ。リサも彼氏が学校来なかったら悲しむか」
「泣かせちゃダメだよ」
「はいはい行きますよ、学校」
「よろしい」
「あいつも今日来れたらよかったのにな」
「バイトだからしょうがないよ。それに……僕気まずくない?」
「今更何言ってんだよっ、ほれほれ」
「うわぁっ、やめてよおぉ」
彼に頭をぐりぐりされた僕は笑顔になった。
そんな風に二人で他愛もないやり取りをしていると、あっという間に彼の家の前に着いてしまった。
「じゃ」
「うん、じゃ」
「あ、そうだ。明日プレゼント昼頃持ってくわ」
「えっ」
「えって、明日誕生日だろ?休み最後の日、た、の、し、も、う、ぜ」
僕は肩を組んでニコッとしてくる彼に、顔が熱くなった。
そして同時に申し訳なさで、心がいっぱいになった。
「……うん。ありがと。楽しみにしてる」
「おう、任せとけ。じゃあっ、おやすみ」
「おやすみ」
彼の背中が家の中に入っていくのを見送った僕は、一人静かな住宅街を歩く。
八月の最後の日。
それが僕の誕生日。
よりにもよって入学式の前日。
もう少し早く生まれたかった。
一日でも早ければ、イスタルに時間をあげられたから。
いや、そうじゃない。
早く打ち明けておけばよかったんだ。
そうすれば……。
僕。ウィザークは明日旅に出る。




