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(9)芳賀高照の運命


 法要当日、芳賀高照は、五人の従者を引き連れて真岡御前城へやって来た。宇都宮城から馬を疾駆させてきたという。

 高定はまず、高照を広綱へ拝謁(はいえつ)させた。

「これまでの主家に対する不義不忠の数々、お詫びのしようもございません」

 高照は下座で平伏した。広綱は無言だった。高定は事前に、高照へは一切声掛けせず、無言のままでいるようにと広綱へ伝えてあった。

 御前を退出後、高定は高照を伴って仏間へ向かった。

 仏間にはすでに、芳賀家の重鎮たちが左右両側に着座していた。みな、入室してきた高照を見る目が一様に険しく、高照はそんな視線を感じたのか、終始顔を伏せたままだった。

 正面に仏壇があり、芳賀家歴代当主の位牌が安置されている。

 読経、焼香と進み、次第が終わって皆が仏間を出ようとしたとき、

「高照、おまえは恥という言葉を知らぬのか?」

 と、重鎮の一人が言った。

「高経のことは措くとして、おまえは那須と組んで宇都宮領へ侵攻し、先代尚綱公を敗死させ、しかも壬生綱房と組んで宇都宮城まで奪った。かと思えば、壬生との間がこじれて食い詰めそうになったのか、今度は広綱公へ詫びを入れて真岡へ鞍替えしようという魂胆なのだろう。おまえはそれを恥だと思わないのか? そんなことがまかり通るとでも思っているのか?」

「よくも真岡へ顔出しできたものだ」

「誇り高き清党の面汚しめ!」

「まさか、芳賀家の当主になる気ではあるまいな?」

「我らがおまえを快く迎え入れるとでも思っているのか?」

「もしそうなら、おまえは頭が狂っている」

「馬鹿、気違いめ!」

「死ね。恥を知るなら、この場で腹を掻っ切って死ね!」

 重鎮たちは高照を取り囲み、罵詈(ばり)雑言(ぞうごん)を浴びせかけた。

「わしは、望んで宇都宮家へ刃向かったわけではない。部屋住みだったわしは、父に従って行動したまでだ。父の死後、白河へ逃れ、那須家を頼った。宇都宮領へ侵攻したのは、那須高資がやったことであって、わしが望んだわけではない。宇都宮城を奪ったのも、あれは壬生綱房がやったことだ。そもそもわしには手足となって働く手兵などはなく、なに一つわしの意志でやれることなどないのだ」

 高照はそう言った。

「それを恥だと言っているのだ。自分の意志を持たずに、流されるままに行動し、大不忠を働いた。にもかかわらず、自分は悪くないと言い張る。それでもおまえは武人なのか?」

「生き長らえたとて、生き恥を(さら)すだけだ」

「死ね、この場ですぐに死ね!」

「わしが介錯(かいしゃく)してやる。腹を切れ!」

「さあ、早く!」

 すると、高照は腰刀を抜き、重鎮の一人に切りかかろうとした。が、すぐに取り押さえられた。

 成り行きを見守っていた高定は、静かに言った。

「高照殿、これ以上、醜態を晒すべきではない。お分かりの通り、お歴々の皆様の総意である。潔く身を処されよ」

「嫌だ。わしは死にたくない」

「芳賀家のお歴々がみな、高照殿に武人として礼を与え、斬首をせぬ代わりに、自害を勧めておるのだ。大人しくそれに従いなされ」

「高定、おぬしはわしへの手紙に、芳賀家の重鎮たちはみな、わしの帰還を待ち望んでいると書いて寄越したではないか? さては貴様、(たばか)ったな!」

「嘘ではござらぬ。実際、お歴々はみな、高照殿の帰還を待ち望んでいた。そして、もし帰還した暁には、貴殿に自害を迫る心積もりであった」

「今後の相談に乗るとも書いてあったではないか?」

「今後の相談とは、つまり、先祖の仏前で、高照殿みずから身を処されるがよかろう、ということである」

 高定がそう言うと、高照は観念したのか、瞑目(めいもく)した。

 改めて座が設けられ、高照はそこへ座り、帯をくつろげて切腹した。

 高定は、別室で待機していた高照の従者たちへ向かって、言った。

「高照殿は、みずから犯した数々の過ちを恥じ入り、先刻、自害して果てた。その旨、宇都宮城の壬生綱房へ伝えよ」

 従者たちへ危害は加えず、そのまま解き放った。

 綱房との関係悪化によって、宇都宮城にいたたまれなくなったため、高照は法要を機に生まれ故郷である真岡への帰還を選択したのだろうが、詰め腹を切らされる事態になることは重々予測していたはずである。真岡の面々が温かく迎え入れてくれる可能性は極めて低いことも分かっていたはずだ。それでもあえて真岡へ戻ってきたのはなぜだろうか。

 宇都宮城を脱して、以前のように那須家を頼るなど、ほかにも身の処し方の選択肢があったはずである。あえて真岡行きを選んだのは、宇都宮家への復帰が叶えばという一縷(いちる)の望みに賭けたい気持ちが勝り、もしそれが不首尾に終われば死ぬまでだと覚悟していたからなのだろうか。これ以上、逃亡したり、流れに身を任せる生き方は選びたくなかったのだろうか。

 綱房は、すでに高照の存在価値など認めていないのであろう。高照が真岡へ行こうが那須へ逃亡しようが、そんなことはまるで意に介していないに違いない。もし高照がこのまま宇都宮城に居続けて、面倒な口出しでもしようものなら消すつもりだったかもしれない。高照が真岡へ行き、自害したことを、綱房はむしろ清々したと思っているはずだ。

 高定は、そんなことを思った。理非曲直を正す以上、高照が真岡へやって来た場合、高照には自死を迫る以外の処遇はあり得なかった。

「これで仇敵の二人目も屠った」

 残るは、壬生綱房のみであった。


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