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解決編

「大丈夫?」



「はぁはぁ……はい、すみません、なんでしたっけ……」



「もしかしたらって?」



「あぁ、もしかしたら。もしかしたら、みゆきさんは、二人をずっと尾けていたんじゃないんですか」



「ずっと? そうね……そうかもしれない」



言われてみれば、その可能性はかなり高い。

麗香は付けられていた様子を想像する。



しかし

麗香は思う。

美幸の言うとおりだとしても、たいして事実は変わらない。



「つまりは、一瞬じゃなくて、ずっと見られていた。余計に印象悪いわね。言い訳なんてできない」



「いえ、逆です」



「逆?」



「はい」



「それは……どういう」



麗香の心臓の鼓動は若干速くなる。

ずっと自問自答してきた、その十字架に、響く。



仕事中は

他人といる時は

できるだけ考えないようにしてきたはずなのに。

十字架をただじっと受け止めて決して動揺しないと。



「たぶん、二人が自分のプレゼントを選んでいるんだって気づいていたんじゃないんですか?」



「そ……それは何故?」



「え、だって、プレゼント選びであちこちまわってたんですよね。ただのデートだとは普通思わないじゃ?」



「ショッピングデートだとは思わない?」



「うーん。だったら行ったり来たりはしないですよね。しかもわざわざ親友さんお気に入りのショップを、だったんですよね。そこを何も買わずにぐるぐると」



美幸は指をぐるぐるまわす動作をして、ピタリと止める。



「しかも、デートだったら二人で仲良く、きゃっきゃっとします、したいです。でも麗香さんの話だと、その幼なじみさんがずっと優柔不断に悩んでいたんですよね。なら、二人の態度を見てて普通気づくんじゃ」



「そう言われれば……そうね」



「つまりは、自分へのサプライズプレゼントを知らない振りをしてたんだと思います」



「でも、結局は最後にハグを見られているわけで……」



「ずっと尾けていて二人の様子を見ていたのなら、それが幼なじみさんからの唐突のハグだってわかってますよ。麗香さんの裏切りだなんて思ってないはずです。二人の仲を近くでずっと見ていた親友だったらなおさら」



美幸は笑顔で言う。

それは、どことなく勝ち誇ったようにも見えた。



まさか、長年抱えていた悩みを、あの時と同じような年頃の少女に解決してもらえるなんて。



しかも同じ名前なのにも、なんだか不思議な縁を感じてしまう。



「ありがとう、美幸ちゃん。悩みを解決させるはずが、解決してもらっちゃったわね」



「あ、そうですよ。わたしの悩みは何ひとつ解決してなーい」



「じゃあ、おわびにスイーツをもう一個サービスね」



「えー、嬉しいけど、これ以上太ったら、嫌われちゃう」



「まぁまぁ」



麗香の高鳴った鼓動はやっと平常に戻り、いつもの笑顔になる。

そして、頭の片隅で美幸の言葉を整理する。



美幸の推理は確かに合理的だった。

きっと、第三者ならではの推理。



自分では決して思いつかない。

自分で考えてしまったら、きっとそれは利己的になると、あえて避けていた推理だ。



深雪が誤解せずにわかってくれていただなんて。

あくまで可能性の一つにすぎない。

そんな自分とって都合のよすぎる推理、それに甘えるわけにはいかない。



だから

麗香は落としかけた十字架をふたたび持ち直す。



美幸には相談できない、あの一言があるのだから。

あの一言が、どうしても麗香を縛り続ける。



だから……



「……しんでほしいですか?」



「え?」



それは、麗香が自分の妄想の言葉かと思ったくらいに唐突に美幸から投げ掛けられた。



「な、な、な、なんて言ったの、み、み、美幸ちゃん?」



「どうしたんですか? 麗香さん」



今までは、なんとか平静を保って話を続けてきたけど、とうとう麗香のキャラは崩壊してしまった。



いつもは、気品溢れる佇まいの麗香が、不審なぐらいに慌てふためいている。



きっとそれは、今まで一度も見たことがなかった。

いや、これからも見られるはずもない。



そんな貴重な姿に美幸は驚くしかなかった。



「れ、麗香さん? 話、聞いてました?」



「今なんて!?」



「だから、○○○のサイン会に行ってきて、ツーショットを撮ってきたんですよ。麗香さんも大ファンって言ってたじゃないですか」



「そうじゃなくて、さっき……し……死んでほしいって」



「えっ?」



美幸の顔は一瞬曇る。

が、すぐに元に戻った。



「あぁ、だから、写真でほしいですか? たくさん焼き増ししちゃったんですよ」



「も、も、もう一度言って、今なんて」



「たくさん焼き増ししたんで?……」



「その前っ」



「え、写真でほしいですか?」



「しゃしんで?」



「はい、写真で」



「しゃしんで、しゃしんで……」



「麗香さん? ほんとに大丈夫ですか? ちょっと休んだほうが」



「しゃしんで、しんで、しんで……」



その言葉が頭の中で、連呼され、こだまする。



しんでもらっていい?



しんで

しんで

しんで

しんで……



麗香の中で、バラバラになった単語が集まってくる。



「写真でっ、もらっていいか、だっ!?」



「は、はいっ!」



鬼気迫る顔の麗香に美幸は即答した。



「しゃ(写)が、電話で……聞き取れなかったんだ……!? だから……!!」



そんな美幸の動揺を無視して

麗香は閉ざされた記憶があふれ出るのに、ただただひたっていた。



あの時の会話を思いだす。



「……こないだ二人で行けたディスニー、本当に楽しかったね」



「うん」



「ねぇ……真でもらっていい?」



「え」



「聞いてる、麗香? 撮ったでしょ? 二人で。だから写……真でほしいの」



「……しんで?」



「うん。あ、ごめん、今ちょっと忙しくて、また明日ね……」









……写真でほしい



持病が悪化した深雪はあのあと入院する予定だった



態度がおかしかったのは、二人が抱き合っているのを見てしまって、誤解したからでも、サプライズのプレゼントを知らない振りをしようとしたわけでもない



病気のことを、親友である麗香に、告白しようか迷っていたからだった



結局、あの電話でも言えなかった



だから、写真でほしい



入院する時に、ベッドに飾っておきたかったから



それは、二人で撮った写真



結局、紙の写真では残っていない

今は使われていない麗香の古いガラケーの中にだけ残っている写真

バッテリーが切れてしまって、それはもう二度と見ることができない写真



写真の中の二人は、満面の笑顔だった……







麗香は、その夜、久しぶりに泣いた

そして、夢をみた



それは、出会った頃の深雪



「はじめまして、私、陰山深雪……よろしくね、麗香ちゃん」







物置の奥にしまった箱を取り出そうと思った

あの時、渡せなかった誕生日プレゼントを



「この、鞄。深雪は気に入ってくれるかな?」







(おわり)

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