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第2話「赤ちゃんのくつ」

赤ちゃんのくつが

ネットに出品されていた。

これって……

「ねぇねぇ、見てこれ」



「ん、なになに……赤ちゃんの靴、売り、ます?」



「ね」



「ねって、何が?」



「何がって、わからないの?」



「ただ、靴がフリマアプリで売りに出されているだけだろ」



「ここっ、ここ見てよ」



「新品? 未使用? だから?」



「もう、キミって、本当鈍いよね」



「あん? んだよ」



「未使用……ってことはさ」



「って、ことは?」



「使われることがなかったってことなんだよ……つまりね、赤ちゃんは亡くなってるんだよ……グスッ」



「は? なに泣いてんだよ。考えすぎ。ただサイズを間違えだけだろ?」



「はー? サイズ間違いならすぐ返品するでしょ? それにすぐ成長するから大きいのならとっとけるし、そもそもお店できちんと測ってくれるからサイズ間違いじゃないよ」



「じゃー、あれだ、出産祝いでもらったけど被ったとか」



「いやいや、靴は消耗品だから被ったっていいでしょ」



「うーん。でも、本当に赤ちゃんが亡くなっていたとして、それを売る? 思い出のモノだろ?」



「きっと見るのも辛いんだよ」



「見るのも辛い人が、フリマアプリに売りに出すかな。わざわざ写真まで撮って」



「出すでしょ。捨てるに捨てられないんだから」



「いやー、どうかな。ちょっと待って、他にもいないかな? ほらほらっ、あった。赤ちゃんの靴、新品って。こっちの人はコメントついてる……いただきものですが趣味があわなかったのでお譲りします……だって。ほらっ、言ったとおりだろ」



「なに、そのドヤ顔。ムカつく」



「考えすぎなんだよ。お前は」



「でも、こっちの人はなんか、そんなかんじじゃないんだよね。ほらっ、さっきわざわざ写真なんか撮らないって言ったでしょ。これ、なんか売るかんじじゃなくない?」



「何を、負け惜しみか?」



「だって、こっちの人は、そうと決まったわけじゃないでしょ?」



「そうだって」



「じゃあ確かめてみる」



「確かめてみるって?」



「質問欄にコメントしてみる」



「おまっ、待てって」



「なに?」



「万が一、そうだったらどうすんだよ」



「なに? 万が一って? そう言うってことは認めてるの? 私の考え」



「いやいやそうじゃなくて。てか、お前だって、赤ちゃん亡くなっていると思っているのに聞くって失礼だろ? 聞くってことは本当は違うと思ってるんだろ」



「ぐっ、痛いところを」



「な。質問した時点でお前の負けだって」



「なに負けって。ム、カ、つ、くっ。でも、こういうの気になるんだよね。負けでいいから聞いてみるっ」



「おいおいっ」



「な、ん、で、赤ちゃんの靴を売るんですか? いただきものですか、っと」



「どうすんだよ、そうだったら」



「大丈夫だよっ、はっきりさせたいだけだから」





 ◇ ◇ ◇





「あ、返信きてる。え……嘘でしょ……」



「なんだって?」



「見て……」



「なになに……違います、これは、自分で買ったものですが、もう必要なくなったので……って、おい」



「……ごめん」



「だから言っただろっ」





 ◇ ◇ ◇





「ってな結末になってしまったんです」



私は、自分の失敗談を麗香さんに説明する。



「へぇー。そんなことが」



「もう、自分が嫌になります」



「まぁまぁ、コーヒーおかわりする?」



「あ、ありがとうございます」



私は、この話を誰かにしたくて、行きつけの喫茶店で、店主の麗香さんに懺悔のようなつもりで話した。



この喫茶店は私が小さい頃から母親に連れられてきた馴染みのお店で、店主の麗香さんは年齢不詳の美魔女だ。



小さい頃からなんでも相談してきた。

いわば私のオアシスだった。



「本当に赤ちゃんは亡くなっているのかしら?」



「そんな返信でしたから。自分の答えが当たったのになんだか後味が悪くて」



「うーん」



「どうしたんですか?」



「私も、彼氏さんの説に賛成かな?」



「彼氏なんかじゃないですって。って麗香さんまで」



「本当に亡くなっているのなら、やっぱり売らないと思うのね。だって大切な形見なのだから」



麗香さんは目を瞑り、思いを巡らすように語る。



思わず見とれてしまう。

麗香さんにもいろいろあったのではないか。

そんなことを思わせるような感じだった。



「でも、そばにおいとくと、辛くなりませんか? 麗香さんだったらどうします?」



「私だったら? 私なら箱にしまって、目に見えない物置きの奥にしまっておく……かな? ふたたび開けられるようになる日まで」



「なるほど。でも、じゃあ、あの返信は……」



「もしも、そうだとして、そう返信するかしら?」



「え?」



「だって、当たり障りのないように、そうです、いただきものですよって返信すると思うのよね、普通。売りたいのならなおさら」



「うーん。確かに」



麗香さんに言われると、そんな気がするから不思議だ。



「じゃあ、一体どういうことなんですか?」



「うん、もう一度見せてくれない? 写真」



「あ、どうぞ」



私は、スマホを麗香さんに渡す。



麗香さんは画像を見ながら考え込む。



「もう一度、聞いてみたらどうかしら? なんで必要なくなったんですかって」



「え」



スマホを返しながら言う麗香さんの驚きの提案に言葉を失う。



「そんなことできないですよ」



常識がない麗香さんではない。

なのに、何故?



「大丈夫。赤ちゃん亡くなっていないわよ」



「どうして?」



「写真を見ればわかる」



「写真?」



私はもう一度画像を見る。



この画像から何がわかるというのだろう。



画像は

おそらくは売り主さんの手なのだろう。

両手に靴をのせている。

それは、あきらかに他の画像とは違った。



他の人は、無地の壁を背景にしたりしてシンプルに撮るのが普通なのに。



「たしかに、この画像は売るつもりがないなって。フリマアプリに慣れていないなって感じがして。でも、だからこそ赤ちゃんが亡くなっているじゃ……」



「ここ、よく見て」



「え……」



「タグ、付いてるわよね」



「はい、確かに。でも新品だから当然」



「でも、普通タグは取らないかしら? いただきものならともかく、自分で買ったものなら」



「取る前に、赤ちゃんが亡くなったのでは? 私もどちらかというと使う直前までとらないですよ」



「それは何故?」



「うーん、ただ面倒くさいのと、もしかしたら返品するかもしれないので」



「そうよね。返品するつもりだったら取らないわよね」



「え、はい」



……返品?



「あと、この写真、おかしくないかしら」



「おかしい? 手にのせてる以外はとくには」



「これ、誰が撮ってるのかしら? 写っているのは女性の手よね」



確かに。

両手にのせているのだから本人には無理だ……



「旦那さんでは?」



「アングルは? どこから撮ってる?」



「ん? あれ? そういえば、これっておかしい」



「ね」



画像は靴を両手にのせているのだが、アングルが女性の正面からではなく、女性の内側から、まるで女性の目線から見たようなアングルになっている。



「どうやって撮ったのかしら?」



「うーん、こうやって?」



麗香さんが両手ですくうようなポーズをとっているところを私が無理やり割り込む。



けっこう難しい。



「ね、大変でしょ? なんでそんな撮り方を?」



「確かに、大変ですけど、亡くなった赤ちゃんへ捧げる思いがあったのではないでしょうか」



「そうかもしれない。でも、だったらよけいにタグは取らないかしら? それに、捧げる気持ちがあったのにフリマアプリに?」



「そういわれれば、そうですね。捧げるのなら……燃やす、とか? あ、棺の中に入れたりとか?」



「……そうね。でも、靴も断られると思う。棺には入れられないはず」



「あ、そうなんですか?」



「うん。素材によっては有毒ガスを発生させたり、お骨に付着してしまうからね」



「へぇ、さすが麗香さん。じゃあ、やっぱりどういうことなんだろう」



「でね、この写真、すごくキレイに撮れてるわよね。影もまったくない。ちょっと不自然なくらい」



「あ、たしかにキレイ」



「キレイすぎる写 真だよね。たぶん、何十回も撮りなおしているはず」



「え、撮りなおし?」



私は、夫婦が赤ちゃんの靴を何度も体勢を変えながら撮っている姿を想像する。

よりキレイな写真を撮りたい。

そこには赤ちゃんを亡くした夫婦の姿としては少し違和感があった。



「おそらくだけど、この写真、女性一人で撮ったんじゃないかな?」



「え、どうやって?」



一人で撮る姿はもっと異様だった。

何か器具を使って?



「そこまでして写真を撮った。つまり、靴そのものより、写真自体に意味があったんじゃないかな?」



「えぇー、どういうことですか? 写真自体に意味があった?」



「そう」



「はぁ? まったくわかりません。もう、麗香さんはわかってるんでしょ。もったいぶらないで教えてくださいよ」



「ふふっ。自分で答えを出したいんじゃなかったの? 考えてみて、女性がこうしてまで一生懸命写真を撮る理由」



「わからないですよ。もう、いじわるなんですから」



「まぁまぁ。コーヒー冷めてしまったわね。淹れなおすから、ゆっくり飲んで考えてみて」



「あ、ありがとうございます」







女性が一人で写真を撮る理由……?

果たしてそんなのあるのだろうか

次のページは解決編です。

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