空気読めない奴
今のワイアットは全盛期の肉体に人生2周分の経験と現代知識が入ってるので今が真の全盛期です
煌びやかなギャンブリア王国を背に、陽光きらめく大地を駆け抜ける四騎と一つの箒。
馬上の風は心地よく、喧噪を抜けた旅路は再び静かで広大な世界へと誘っていた。
カレンはワイアットの背にぴったりとしがみつき、名残惜しそうに振り返る。
「ギャンブリア王国、楽しかった♡」
ワイアットは振り向かずに笑い声をあげる。
「旅だからって辛い思いはさせねぇよ! 一度は死ぬまで添い遂げた女達だ。楽しい冒険にしてやるよ!」
それは、人生二周目を歩む彼らのモットー。
ただ目的地に向かうだけの旅ではない。
笑い合い、驚き、時に寄り道すら楽しむ――
その積み重ねこそが、彼らにとっての「冒険」だった。
アイネスはそんな言葉に静かに頷き、風を受けながら微笑む。
「……この旅が何よりの楽しみです」
エトラは箒の上から皆を見下ろし、思わずくすりと笑う。
「本当に……このワクワク、二度目の人生とは思えませんね」
ミレイナは手綱を握る横顔に凛とした笑みを浮かべた。
「ええ。我が君の方針に異論はありません」
――こうして、ワイアット一行は再び大地を駆ける。
その先に待つのは、魔法の都・エルムパレス。
旅の醍醐味を胸に抱き、今日も彼らは走り出した。
夕暮れの光が赤く差し込む頃、一行は次の国の手前にある街に到着した。
そこで目にしたのは、ひときわ存在感を放つ豪奢な建物──五つ星の高級ホテルだった。
ワイアットが手綱を引き、声を弾ませる。
「よし!今日はここで楽しむぞ!」
煌びやかなシャンデリアの輝き、香水と料理が混じり合った甘い空気。
旅の埃を洗い流すように、ヒロインたちは思わず微笑んだ。
カレンはワイアットの腕に絡みつき、無邪気に笑う。
「やった♡ やっぱりにはこういうのいいよね!」
エトラは控えめに笑いながらも、頬に安堵の色を浮かべる。
「……正直、こうして落ち着ける場所があるのは助かります」
ミレイナは姿勢を崩さず、凛とした表情でホテルを見上げた。
「ここまで来られたのも、我が君が導いてくださったおかげです」
アイネスはそっと手を胸に当て、瞳を伏せる。
「私……こうして皆さんと笑って過ごせる時間が、本当に愛しいです」
それぞれの胸に旅の記憶がよみがえる。
ギャンブリア王国の喧騒、砂塵舞う荒野、夜空にきらめいた星々。
危険と笑いが交錯する旅路の果てに、今ここで得られた安らぎ。
ワイアットは椅子に腰を落ち着け、グラスを掲げた。
「いいか、これが“人生二周目の旅”だ。苦労も笑いも、全部まとめて楽しむ! それが俺たちのやり方だ!」
笑い声と拍手が、豪華なスイートルームに響いた。
外の夜景は瞬き、明日はまた新しい冒険が待っている。
夜のホテルのバルコニー。
遠くに街の灯りが瞬き、静かな風がカーテンを揺らしていた。
その中で、アイネスは窓辺に腰を下ろし、手すりにそっと触れながらぽつりと零す。
「皆さん、元はと言えば私のわがままのせいで、人魚をやめて人間として共に生きたいだなんて……」
その声音には、切なさと願いの狭間で揺れる女の心がにじんでいた。
沈黙を破ったのは、銀髪の騎士だった。
「そんなことありません、私たちも貴女と共に歩みたいのです、戦場でも旅路でもどこでも」
赤髪の少女は両手を腰に当て、明るく笑った。
「そうそう、それにのんきに高校生活やってるより冒険だよね、アタシたちの血はそういうの求めてるんだって♡」
その無邪気さに、張り詰めた空気が少しだけ和らぐ。
そしてワイアットが、仲間たちを見渡してからアイネスに近づく。
手を取り、真剣に目を合わせた。
「必ず見つける、人魚を人間にする方法を、だから一緒に生きて年を取ってくれよ、アイネス」
アイネスの瞳が潤む。
その言葉はまるで未来を約束する指輪のように、心へ深く刻まれた。
遠くで花火の音が上がり、街がざわめきに包まれる。
けれど、この瞬間だけは、彼らだけの世界だった。
夜風が運ぶ甘やかな空気。
バルコニーで手を取り合った仲間たち、そして夫婦としての確かな時間。
その静寂を、まるで爆弾のような怒声がぶち壊した。
「────聞こえたぞ!今、“人魚を人間にする魔法”を探すと言ったなぁぁぁッ!!」
突如、ホテルの庭に響き渡るナルシストボイス。
下を見下ろせば、月光を浴びて胸をはだけたド派手な男が仁王立ちしていた。
もちろん後ろには、お決まりの三人娘──リィナ、エルミナ、ミュラを引き連れて。
観客(ホテル客)「……え、誰?」「うるさ……」「え、外に立って叫んでんの?」
庭にカツーン、カツーンと長靴の音が響く。
月光を浴びて現れたのは、金糸で無駄に装飾された軍服、そして羽根飾りまでついたキザな長靴。
「お前のような放浪者がこんな所に泊まっているなんてねぇ~、やはり“成り上がり者”は、背伸びしたがるものだ。だが所詮は、僕のような真の勇者には及ばない──」
……と、講釈は止まらない。
バルコニーの上、ワイアットは眉ひとつ動かさず、手元の酒瓶を持ち上げた。
そして次の瞬間、無言でバルコニーから投擲。
ガシャァァァン!!
見事、ジグの頭に直撃。
割れたガラスと酒が飛び散り、ジグは卒倒する
「ぎゃあああああああ!?!?」
取り巻き美女たちの悲鳴が上がる
「きゃあ!?」「ジグ様がッ!?」「香水とアルコールが混ざって変な匂いに……!」
バルコニーから酒瓶を投げられ、顔面に直撃して転げたジグだったが──執念深く立ち上がる。
その目は、奇妙な正義感と劣等感で燃えていた。
「で、何?」
「……フ、フフ……あれから貴様らのことは調べさせてもらった!」
酒に濡れた前髪を振り乱し、ジグはわざとらしく高らかに宣言する。
その一言に、ジグは勝ち誇ったように指を突きつけた。
「貴様は──姫君から金を貢がせ!ただの町民に武器を横流し!一国の王子を暗殺!これが“勇者”のやることか!? 断じて違う!!」
庭に響く声に、ミレイナやカレン、エトラたちは思わず顔を見合わせる。
ミレイナは小さくため息をつき、カレンは堪えきれず笑い出し、エトラは「……まぁ、間違ってはいない……ですけど……」と困惑。
アイネスだけが、どこか達観したように「……勇者譚というより、悪党列伝ですね」と微笑んだ。
ジグはさらに拳を突き上げる。
「貴様らは世界を穢す外道!この俺、真の勇者ジグ・バルカローネが裁きを下すッ!!」
ジグは芝居がかった仕草でマントを翻し、わざとらしくヒロインたちへと歩み寄った。
その目は、自分の言葉に酔いきった「自称・救世主」のもの。
「そして──君たち!」
「勇者である俺についてくれば、君たちの罪はすべて帳消しにしてあげよう。王家の権限でな!」
広間に響く声は、どこまでも自己陶酔に満ちていた。
「特に……アイネス・メランコリ!
君が“人魚”だと知った時は心底驚いたよ!だが運命だろう? この俺と共に来い!美しき人魚よ!俺が君を女王として迎えようじゃないか!」
彼はまるで求婚する王子のように片手を差し伸べ、ニヤリと笑った。
だが──返ってくるのは、予想外の沈黙。
カレンは目を吊り上げて「はぁぁ!?」と声を荒げ、
ミレイナは冷え切った瞳で剣に手を掛ける
「……我が君を侮辱するおつもりですか」
当のアイネスは──淡々と、それでいて静かな怒りを込めた視線をジグに返す。
「……私の居場所は、もう決まっています。ワイアットさんと、皆さんの傍です。それ以上でも、それ以下でもありません」
その一言で、ジグの芝居がかった求愛は完全に空気を失った。
返ってきたのは冷え切った言葉
「──シンプルにキショいな」
「……気色悪いです」
「うっわ〜、キショッ」
「正直、鳥肌が……」
「……不愉快です」
ジグの顔が一気に真っ赤になり、唇をわななかせながら叫ぶ。
「くっそぉぉぉぉ!! この俺を笑い者にするとは……いいだろう!!ならば見ていろ!数日後には貴様らは牢獄行きだ!!」
ドカドカと乱暴に地面を蹴りつけ、まるで自分の言葉に酔ったように走り去っていく。
その姿は滑稽であるはずなのに、どこか“何か企んでいる”気配も漂っていた。
取り巻きの3人も慌てて追いかける。
「おいジグ! どこに行くつもりだよ!」
「……またろくでもないことを考えてる」
「待ってくださぁい♡ 愛しいジグ様ぁ♡」
夜の路地に、彼らのドタバタとした足音だけが遠ざかっていった。
翌朝。
ジグは胸を張り、まるで勝利の凱旋に向かう英雄のような足取りで宿を飛び出した。
「フフフ……今日こそ、俺が真の勇者として名を轟かせる日だ!」
朝日を浴び、金の刺繍がやけにギラギラ光るマントを翻す。
その背後で、リィナがげんなりした顔で腕を組んだ。
「……なぁジグ。アンタ昨日は“牢獄行きだ”ってイキってたけどさ……実際アイツらって犯罪組織潰しまくってるし、各国の王族からも信頼厚いんだろ?どうやって潰すつもりなんだよ」
ジグは鼻で笑い、誇らしげに胸を張った。
「フッ、それが凡人の浅い考えだ! この国で俺が功績を上げれば、司法は俺に味方する!そして正義の名のもと、あの連中を突き出してやるのさ!」
リィナは無言で額を押さえた。
「……それ、要するに“この国の偉い人にチクる”ってだけじゃねーか」
エルミナも呆れ顔で付け加える。
「しかも、あの4人プラスあの男を司法が敵に回すとか……国家が持たないと思うけど」
だがジグは気付かない。
「とにかく!今日から俺は“功績稼ぎモード”だ!魔物でも盗賊でも、片っ端から倒して国王に献上する!そうすれば俺が真の勇者として認められる!……完璧だ!」
ミュラはうっとりと手を合わせ、夢見るように言った。
「まぁ、ジグ様がそう仰るなら……♡」
リィナとエルミナは同時にため息をつき、心の中で思った。
(……やっぱ浅はかだな、こいつ)
ジグは胸を張り、手を天へ突き上げた。
「アテはあるぞ!この国の山間に、大きめの規模で魔族の残党が巣食っているのは知ってるよな? 実際、付近の村では被害も出ている!それの討伐だ!これで国からの株を一気に上げる!」
声はやけに堂々としており、まるで既に喝采を浴びているかのよう。
だが、リィナは眉をひそめて肩をすくめる。
「……あー、知ってるけど。あそこって“ただの魔族の残党”ってより、ほとんど軍勢並みだぞ? 普通の冒険者じゃ近づかねぇし、今まで国軍ですら放置してきたのに……」
ジグはにやりと笑い、髪をかき上げた。
「フッ、だからこそ俺が行くのだ! 真の勇者とは、誰も成し遂げぬ偉業をやり遂げてこそ輝く!」
エルミナが冷めた目でため息を吐く。
「……無謀って言うのよ、それ」
ミュラだけが、相変わらず甘ったるい声で身を寄せる。
「まぁ♡ジグ様がそうおっしゃるなら……きっと勝てますわぁ♡」
リィナとエルミナは目を合わせ、同時に心の中で思った。
(……また浅はかな突撃だな、これ)
山間部の荒れた谷。鬱蒼とした森の奥から、魔族の残党たちがじわじわと現れる。
リィナが火球を放ち、エルミナが無駄なく剣を振るい、ミュラはねっとりとした毒の霧で敵を翻弄する。
そして──ジグ。
「はぁぁぁっ! 勇者の剣は無敵なりッ!」
気合いを込めて繰り出された剣閃は、突進してきた獣型の魔族を一刀両断にした。
その様子にリィナが眉を上げる。
「……おぉ、やるじゃん。あんたにしては」
ジグは得意げに髪をかき上げ、鼻で笑う。
「当然だ! 俺は勇者ジグ・バルカローネ! この程度の魔物ごとき、朝飯前だ!」
さらに飛びかかってきたオーク系の魔物も、仲間の援護を受けつつ斬り倒す。
派手に見栄を切り、見事に中ボス級の魔物を討ち取った。
エルミナは肩をすくめ、冷めた口調で呟く。
「……まぁ、中ボス程度なら本当に戦えるんだな」
ミュラはうっとりと手を叩き、
「さすがジグ様ぁ♡やっぱり頼りになりますぅ♡」
リィナは火球を消しながら、ジグの背に冷ややかな視線を送る。
「調子に乗んなよ……こっからが本番なんだからな」
巨大な魔法陣の中心に立つのは、かつて魔王軍を束ねていた幹部の一人。
その圧倒的な威圧感に、普通なら誰もが震えあがる──が。
「20年前……あのノーザン・クレインは敵ながら、武に優れ、奴の剣は認めざるを得ぬ。貴様も勇気ある戦士か、よくここまで来た」
ジグは鼻を鳴らし、髪をかき上げながら胸を張った。
「はっ、当然だ!もっと俺を讃えろ!ノーザ?知らんな!今この時代に讃えられるべきは、勇者ジグ・バルカローネ、この俺だぁ!!!」
仲間たち「…………」
魔族幹部「…………」
その場の空気が一瞬で冷める。
だが魔族幹部は気を取り直し、重々しく告げた。
「……我らは近き未来、魔王を復活させる。千年に一度の大儀が迫っているのだ」
ジグは待ってましたとばかりに、一歩前へ出る。
「その企み、俺が阻止する! 聞け、魔族ども!俺はただ剣を振るうだけの勇者ではない!愛と勇気を胸に抱き、民に希望を与える象徴だ!夜の闇を切り裂く光となり、絶望を焼き払う炎となる!俺の存在こそ、この時代の奇跡!この俺が剣を振るう時、世界は歓喜し、女神は涙し、歴史は俺の名を刻むのだぁぁぁぁ!!」
リィナ「(長い……)」
エルミナ「(無駄口多すぎ……)」
ミュラ「(でもそこが愛しいのよね♡)」
魔族幹部は深いため息をつき、あきれ顔で呟く。
「……ふむ、なるほど。どうやら貴様は我らが想定した以上に……痛々しいな」
広間に残るのは、ジグの長ったらしい名乗りと、敵味方問わず漂う「こいつ大丈夫か?」という空気だけだった。
「……ならば貴様の力を見せてみよ、勇者ジグ」
「望むところだ!俺の剣に世界はひれ伏す──!」
その瞬間。
ゴオオオオォォォン!!!!
轟音と共に、大地が揺れ、視界が白に染まる。
魔族拠点の壁が吹き飛び、塔の一部が火柱と共に崩落していく!
慌てふためくジグ逹
「な、なにィ!? まだ何もしてないのに!!」
「……外から?」
「いやぁぁっ!? 化粧が崩れるぅぅ!!」
「な、なにが起こってるんだあああああ!!?」
---
◆10km彼方・砲撃陣地
スコープを覗く銀髪の騎士。
「着弾確認!」
ワイアットは片手に地図を広げ、ニヤリと笑う。
「よし!次弾急げ!更地にして俺逹が魔族倒した事にしようぜ!」
背後にはワイアット所有の鉱山国家、ガルドン・クラストの工場から供給された
――榴弾砲。
ガルドン・クラストの最新技術と現世から持ち込んだ知識の融合した結晶が轟音と共に火を吹いた。
次々と飛び交う榴弾は、魔族拠点に降り注ぎ、爆炎で大地を焼き尽くす。
ミレイナが呆れながらも笑う
「我が君……問答無用すぎます」
カレンは大笑い
「これ楽し過ぎ〜♡海賊船の大砲とはわけが違うわ♡」
エトラが関心する
「ネットの情報印刷して渡しただけでここまで作った貰えるなんて⋯」
アイネスは一応の心配
「お仲間の女性達はいいのですか?」
ワイアットは軽かった
「アイツらもなんか性格悪そうだし、別いいや」
轟音とともに、山肌を抉る榴弾が次々と着弾する。
爆炎が空を染め、魔族も兵も、味方も敵も区別なく吹き飛ばしていく。
ジグは膝をつき、耳をつんざく砲声の中で必死に叫んだ。
「ワイアットだよな!?魔族を倒すのは分かる!だが俺まで撃つ気かァァァッ!?」
その声に応えるかのように、遠くの丘から低く響く声。
「魔王復活なんて見過ごせないからな。あとムカつくからジグもろともぶっ殺してやる!」
空気が凍りついた。
狙い澄ました砲撃の光が再び点火し、砲口がこちらを向いたのが見える。
ジグは顔面蒼白になり、震える声を漏らした。
「あ、あいつ……人間じゃねぇ……!ただの……悪魔だ……!!!」
更に続く砲撃
轟音が山を揺らし、魔族の砦が一瞬で砕け散った。
次の瞬間、真紅の閃光と共に榴弾が直撃!
「ぐぉあああああああッ!!」
分厚い鎧ごと吹き飛ばされ、漆黒の体は宙を舞い、炎に呑まれて消えた。
──魔王復活計画、その中心人物が一撃で消し飛んだのだ。
爆風と飛び散る瓦礫がジグ一行を襲った。
「ぎゃあああああッ!? 熱っ……熱いぃぃ!!」
炎に煽られ、赤髪が焦げかける。
「くっ……目が……煙で前が見えない……!」
無口な剣士も、必死に咳き込みながらよろける。
「ジ、ジグ様ぁぁぁ!! 死にたくないっ!死にたくなぁい!!」
泣き叫び、地に這いながら必死に腕を伸ばす。
「ぐっ……ま、待て!まだ死なん……俺が……勇者の……はずだぁぁぁ!!!」
顔も服も煤だらけになり、地を這いながら必死に逃げ惑う。
頭上ではなおも砲弾が雨のように降り注ぎ、爆発が次々と追いかけてくる。
「阿鼻叫喚」とはまさにこの光景だった。
やっとのことで森の影に飛び込み、煤にまみれた四人は転がり込むように隠れた。
全員ボロボロ──
だが、奇跡的に命だけは繋がった。
ジグは荒い息を吐きながら、虚ろな目で夜空の閃光を見上げる。
「……あ、あいつ……ワイアット・クレイン……絶対に……このままじゃ済まさん……」
一方的な砲撃戦は終わった。
魔族とジグ現代兵器の前に沈んだ
「あ〜スカッとした!よし皆帰るぞ!今日はクラブ行こうぜ!ハーッハッハッハッハッ!!」
ミレイナが凛とした声で応じる。
「我が君の采配は完璧でした。魔王復活の芽も、この地で摘み取られました」
カレンは陽気に手を叩く。
「スッキリだよね!あんな悪趣味な連中、まとめてドカーンだもん♡」
エトラは小さく安堵の息をつきながら、胸に抱いた魔導書を見つめた。
「……必ず、ここからアイネスさんを人にする答えに繋げます」
アイネスは目を細め、柔らかに笑う。
「ありがとう……皆さん。こんなに心強い旅はありません」
ワイアットと仲間達は戦場を後にする
その日の夜
湯煙立ちのぼる石造りの風呂、湯に浸かるワイアットの背後に──
「……ワイアットさん、ここにいたんですね」
振り向くと、
薄紅の湯浴み着を纏ったアイネスが立っていた。
柔らかな笑みを湛え、海のような瞳で見つめてくる。
「アイネス……どうした?」
「……昨日からの、ジグの件です。正直、ジグに狙われたのがいやで⋯貴方が怒ってくれて、私を守ってくれて、とても嬉しかったんです」
「当然だろ。お前は……大切な人だ」
「ふふ……」
静かに湯に入り、彼の背中に近づいて──
「……では感謝を込めて、お背中をお流ししますね♡」
手拭いを手に、
アイネスがそっとワイアットの背中に触れる。
「……ふふ、筋肉、前より少しだけ硬くなったような気がします。けれど……とてもあたたかい」
「300年ぶりだしな……」
沈黙が、優しく流れる。
やがて、
アイネスの手がそっと彼の頬に触れる。
彼が振り向くと、ふわりと微笑んで──
「……貴方の手も、瞳も、唇も……全部、優しいままなんですね」
「……昔みたいにガツガツしてないか?」
「はい。今の貴方は、欲じゃなくて……“愛”で、私たちを抱いてくれてる気がします」
「ああ。俺もようやく、そういう男になれたのかもな」
「……そんな貴方に、私は──惚れ直しました♡」
そっと唇を重ねる、
泡立つ湯けむりの中、
ただ静かに、ふたりの愛が深まっていく──
──“これは愛です”と、アイネスは心の底から確信していた。
アイネスの手に引かれ、
ふたりは湯から上がり、そのまま宿の離れの部屋へ。
暖かな灯りの下、
ワイアットは布団の上に寝転がっていた。
「今夜だけでいいんです……」
アイネスが彼の横にそっと身を預ける。
その声には、300年の孤独を越えてやっと出逢えた安らぎがあった。
「……アイネス」
「……英雄じゃなくていい。旅の仲間でも、誰かの夫でもなくていい…ただ……私の“あなた”でいてください」
彼は何も言わず、ただ彼女を抱き寄せた。
髪を撫で、唇を重ね、指を絡める。
月の光が窓辺から差し込むなか、
ふたりはまるで──最初で最後の恋人のように、
静かに、でも確かに愛を交わした。
そして朝、再び“仲間”として
陽が昇り、
旅立ちの準備をする仲間たちの声が廊下に響く。
「……昨夜のこと、忘れません」
「忘れられるわけがねぇよ。俺の全部をお前に預けたんだ」
彼女は微笑み、扉の向こうへ。
ワイアットも一拍置いて立ち上がり、
仲間たちのいる外へと向かう。
「よし、次の国だ!俺たちの旅はまだまだ続く!最後まで──俺たちが一番楽しむんだ!!」
笑い声と共に、馬と箒が旅路を走り出す
榴弾砲って明治時代には有ったらしいです