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一話 夜明けに残酷な決断を

思えば、私は異常なほどに穏やかな中で生きてきたように思う。毎日、白亜の王宮の中でエリック兄様と女官や女王である母親と優しい父親に囲まれて…


「ソーリス・オルトス帝国の軍です! すでに国境を囲んでおります!」


王宮付きのスパイによりもたらされた知らせを聞いた時、私はヴェスペル王国の心配よりもユリウスと名乗った少年皇太子のことを思い出していた。

帝国を背負って立つ次の皇帝らしく見える金髪の少年を…


「敵の狙いは何ですか!? どうして我が国を!?」


「敵の総大将は誰だ!? 国境警備隊からの知らせはなかったのか!?」


「旗の紋章より、ユリウス・ソーリス・オルトス皇太子の軍勢と判明しました!」


10年前の式典へ招待されていたソーリス・オルトス帝国の皇帝の代理で現れた少年… その場の空気をも支配してしまうほどに美しい少年で、私をダンスへ誘い、初めて会ったとは思えないほど親しく話をした後、もう一度会いたいと言ってくれた。


「オルトス軍より使者です。停戦協定の席を設けているとのことですが、いかがいたしましょう」


「まともな条件であればいいのだが… そもそも我が国に攻め込まれる目的などなかったはずだぞ!」


「開戦の目的はなんだ!? スパイは何かつかんでいないか!?」


混乱を極める女王や貴族達とは真逆に、この国もこうして終わっていくんだろうと私は他人事のように考えていた。


「目的なんて、ないのかもしれませんね」


不意にぽつりと呟く。そんな私の言葉がどれほどの人間に届いただろう。母親である女王が歩み寄り、


「あなただけでも逃がしてやりたいのですが、国境を取り囲まれており、それさえ不可能のようです。力のない母親でごめんなさいね」


苦笑いをしながら告げた。私はそんな母親を見つめて首を横に振り、


「お父様、お母様、ソーリス・オルトス軍の使者には私が会います。お二人はどうぞ逃げる準備をなさってください。あなた方さえ無事なら、この国はいくらでも立て直すことが可能ですから」


と告げた。青ざめる貴族達の中からエリック兄様が歩み寄り、


「それなら、私が護衛を務めよう。こう見えて剣には覚えがあるのだから」


と心強いことを言ってくれた。幼い頃からずっと一緒だったエリック兄様。直系と傍系ということで多少の身分違いはあったけれど、そんなのを超えて仲良くしてくれていた。


いつかは結婚して、二人で国を守っていくんだろうと思っていた。そう信じて疑わなかった。この穏やかな国を守っていくんだと……


「いいえ、エリック兄様は何があっても逃げてもらわなければいけません。…もしも私の身に何かあった時、あなたが次の王になるのですから」


と断る。エリック兄様は私の肩に手を置いて、


「しかし! 王女がみずから敵の只中に踏み込んでいくなどと…! 危険すぎる!」


至極当然のことを告げた。この命も危ういかもしれない。敵の軍勢の中に使者としていくのだから。けれど、それでも……


「私にしか務まらないでしょう。そうでなければ、民の命さえ危ういのですから。次の女王である私だからこそ、できることがあります」


そう告げて、震えて青ざめる女官達に正装の準備を命令した。怖くないといえば嘘になる。


「きっと、この日のための私だったのかもしれない。そう思います。大丈夫、私はユリウス殿下に会いに行くだけですので」


そう告げて、言葉を失っているエリック兄様とお父様やお母様に構わず、宮殿の執務室を出ていく。外には馴染みの女官達が待っていてくれた。


「お母様達と一緒に逃げなさい。わざわざオルトス軍の犠牲になることはありませんから。宮殿中の者達にも伝えるように」


「姫様がわざわざ行かれなくてもよろしいのではありませんか?」


「そうです。私達と一緒に逃げましょう! 私達が隠して差し上げますから」


泣きながら告げる女官達の肩に触れながら、


「ユリウス殿下は私の顔を覚えておいでです。メイドに紛れても意味はないかもしれない。それならば、いっそ昔のよしみで私が会いに行った方が民の安全も約束してくれるでしょう」


自分を奮い立たせるように、あるいは追い詰めるように告げた。


10年前、どうして気付かなかったのだろう。物腰柔らかで紳士的に見えた少年の目は猛禽類のように鋭く煌めいていたというのに… 全てを飲み込み、支配する者の目をしていたのに。


「さあ、最後の仕事になりますね。よろしく頼みますよ」


普段のように穏やかに笑みを浮かべて命令すると、女官達は涙を拭いて礼をした。そして、普段と同じく支度をしてくれる。髪を梳かし、メイクをして、夜着からドレスへ着替えて…


支度が終わった時にはすでに表門へ馬車が用意されており、私は普段通りに御者へ礼を言いながら乗りこむ。これが最期かもしれないと考えつつ。



セシリア姫(-ω-;) この方をどう動かすかでめちゃくちゃ悩みました。私はバッドエンド書けないので。

でも、なんとか頑張ってくれてよかったです。ユリウスに頑張ってもらいましょう(`・ω・´) 次回もお付き合いくだされば幸いです。

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