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番外編 防災の日SS

だそく~

 馴染みの古道具屋の戸を潜ると、カウンターに見知った姿を見つけた。背中を向けたロウが、小太りの店長と何か話をしている。

 と、あちらも入店した彩夏(さいか)に気づいたようで、半身を捻って片手を挙げた。

「よお。今日はどっちに用なんだい?」

 中年の店長がにこやかに声を掛けてくる。

 この『リサイクルショップ大貫』は、元々大貫堂という名の古道具屋で、一部レンタルショップで一部リサイクルショップ、残りは質屋と言ったところだ。お洒落に改装してそれぞれのコーナーを何とかショップと呼び分けているが、やっぱりまとめて古道具屋と認識されている。

 こちらの懐具合もバレバレで、たまに処分品を安く分けてくれたり、単発バイトに雇ってくれる。貧乏学生の身としてはあれこれお世話になりっぱなしだ。

 しかし店長の容姿と、オオヌキという名称で、ついついうっかり『タヌキ堂』なんて思いついてしまい、うっかりタヌキ堂と呼びそうで、恐い。

「や、今日は面白い古本でもないかなと思って」

 古書店を巡って見たが、今日はピンとこなかった。大貫堂は古書は門外漢だが、たまにどこから仕入れたのか日焼けした本など置いてあることもあり、ダメもとで聞いてみる。

「面白いって…ああ、そういやこの間の」

 ゴン

 何やら言いかけた店長の言葉が止まる。ついでに威勢の良い打撃音もした気がするが。

 暫しの沈黙。

「ええと。本はいまちょっとね。そうだ、防災グッズの期限切れギリギリのとかあるけど」

「ギリギリ期限切れじゃないか」

 ロウが小さく眉を顰めるが、大貫氏はてへへと笑った。

「安全上期限を切ってるけど、結構実用には影響ないからさ。ちなみに今日のウチの昼飯もコレ」

「おまいさん、一応客商売なんだから、自重しろよな」

 呆れた様な溜息交じりで一言加えるが、一応だの自重だのと言っているあたり、とやかくいう心算も無いらしい。

「防災グッズか。そう言えば防災の日だった」

 関東大震災を教訓に、九月一日は防災の日とされている。併せて、台風襲来の多い二百十日もこの日頃にあたり、随分と災害に縁の深い日なのだなと改めて思う。

「あれから、もう百年なんだねえ」

 店長も何か感慨深げに頷き。


「あの時、どこに居たんだい?」


 一瞬の沈黙の後。


「居るわけないだろ」

 馬鹿だな、という風にロウが笑った。


「そうか、そうだよね」

 あははー、と店長も釣られたように笑う。


 それはそうだ。

 帝都の地震から、もう百年も経つのだから。

 その場に居た者など、最早百歳越えのスーパー高齢者だけだ。


 なのになぜだかほっとして、彩夏も釣られて笑っていた。

 ロウは小さく肩を竦めている。

 笑っている彩夏に彼の呟きは届かない。



 逃げたに決まってるだろ。



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