10.電氣燈と瓦斯燈と
花火が終わってみると。
知らず、息を詰めていたり。
隣では娘が、同じやうに息を吐き出すのが聞こえた。
娘が此方を見た。
視線が合つた。
娘と競ふやうにむきに成つて走つた事がふと、氣恥づかしくなつた。
娘も下を向ひた。恥ぢらうかのやうに、今の今迄天を仰いでゐた目を微かに伏せる。
花火は、と私から問ひ掛けた。
「花火はお好きですか」
えゝ、と娘は頷いた。そして、
「花火は好き。十二階も好き。でも、十二階から見る花火がこんなに綺麗だとは知らなかつたわ」
さうして左の手で亂れた黒髪を梳つた。
「良い花火でしたね」
「さうですね」
夜風が心地良かつた。十二階から見下ろすと、道筋に並ぶ瓦斯燈と電氣燈とが入り混じり、鹿の子のやうにも網目のやうにも見えた。
「或の瓦斯燈も、やがて皆電氣燈に成るのでせう。電氣燈も、何年かしたらもつと澤山燈るのでせう。さうしたら、花火は色褪せてしまふのではないかしら」
「さうですね。もつともつと増えて、夜の闇さへ追ひ拂つてしまふ日が、何時か來るのかも知れません」
答へた私は、次の一瞬、幻を見た。
或の電氣燈ではなく、まして瓦斯燈では在り得ない、もつと明るい、もつと激しい光の洪水。
幻だ。
夢だ。
多分。—―けれど。
いずれ来るべき世界。
其の妄想を頭から追ひ遣るべく、私は頭を振つた。
と、娘が問ふやうな貌を此方に向けた。何か? と尋ねると娘は首を振り、然しひとつ問うて來た。
「何時が一番眺め良い時期でせうね」
やはり冬では、ここまでのんびり喋ってはいられません。
なにより、小生の暮らす付近では、冬はあまり晴れないというか、晩秋以降は数週間日の目を見ないこともざらなので、物理的に無理というか…




