三丁目 ヒートアップ!VS猫娘!
やりたい放題です。ええそれはもう
「…大丈夫?穂村さん」
「う、うん…」
俺と穂村さんは今、近衛高校一階は、化学準備室に隠れている。
「…ちっくしょ、俺の方は弾切れみたいだ……」
「私もそうみたい…」
支給された銃のトリガーを引く、カチカチと音が鳴り、弾切れであることを確認させた
ハーッハッハッハッ!!
「くそっ!もう嗅ぎつけやがった!!」
校舎に反響する不気味な笑い声とともに、化学準備室の扉が勢い良く開かれた
「きゃぁぁぁぁ!!!」
「う、わぁぁぁ!!」
――――――
―――
そう、事の発端は我が担任、このクラスの生徒を統べる女将軍間山裕子の発言だった。
「えー知ってのとおり今日はサバイバルゲームだ、その前にお前らに伝達事項がある。」
間山先生は脇で束ねられた黒髪を優美にかきあげると、にんまりといやらしく笑った
「ここにクジがある。順番にひけ、おっと、引いてもまわりに見せるなよ」
意を解せ無いまま、俺達2―6は、順にクジを引いてった。と…俺は…
うま 100
わけわかんねぇ…
「よし…全員引いたな…、今回のサバゲーはペアでやることになった。今引いてもらったクジがその組合せだ。自分の文字と同じやつ同士組め」
ペア自体今日はじめて聞いたのだが…。うま…うま…と。
「あ、穂村さん?」
「うん、よろしくね」
呼びかけながら探すと、俺の相手は穂村歩さんだった。
「だれかー吸血鬼いませんかー?」
「ロードローラーって誰ー?」
書いてある言葉に妙な意図が感じられるのは俺の気のせいだろうか
「せんせー、この数字はー?」
「ふふふ…それはだな…得点だよ、得点。最終審査で奪い取ったカードに書いてある数字の合計点が高かったやつが優勝だ」
なるほど、だから見せるなって言ったのか。戦いはもうはじまっているらしい。俺の点数は高いのか低いのか
「ああちなみにこのクラスの最高得点は浅岡の100点だ」
うぉーい!
クラス全員が一斉に俺を見る。おいお前ら、そのらんらんと光る目をどうにかしろ
「先生、俺ペアいないんですが…」
「あたしも…」
一宮と神海だ。他にもペアのいない生徒が数人いた
「ああ安心しろ、お前らは一般の人間と組んでもらうことになる。参加届けを出した親にはもう配ってあるからな、なんとかして見つけ出せ」
いや、無理だろ
ブーブー不満を漏らすクラスは、間山先生の一言で静まり返る
「文句、あるか?」
『ありません間山先生』
にっこりと笑う先生の前に、生徒たちは口を揃えて言葉を発する。統率力がズバ抜けて高いのだ
「浅岡ー、お前のとこに集中するかもしれんが、死ぬなよー」
「……はい」
いろいろとツッコミたいところはあるが、俺にも敵わないものは、いる
……
とりあえずサバイバルゲームは午後からなので、ここからは作戦タイムだ。うなだれる俺に穂村さんが一生懸命フォローをいれていると、背の高い女子が俺の前にぬっと立っていた
「三丁目」
「な、なんだ天草」
「がんばれ」
「お、おう…?」
それだけ言うと、天草華子は、すたすたと教室から出ていった
「天草さんって何を考えてるんだろう…?」
「さぁ…、嫌われてはないみたいだけど…」
二人は先行きの不安に、仲良くため息を漏らした
――――――
―――
『はーい!みなさーん!準備はいいですかぁ!!』
スピーカーから陽気な声が全校に鳴り響く。青山さんだ……
『実況はこの私、紫雲寺家美人家政婦長こと、青山緑がつとめさせていただきま〜っす!!!』
『解説は同じく紫雲寺家家政婦、中目黒桃江がお送りします』
桃江さんは青山さんとは対照的で、冷静な口調で淡々と言葉を発するクールメイドだ
そうそう、言い忘れていたが、紫雲寺家とこの近衛高校は、昔からつながりがあるらしい。それが何なのかは知らないのだが…
『一年二年の部が終わりを告げ…、ややつかれの色が見える校舎……ご安心を!!次に繰り広げられるのは本日のメインイベント!三年生による血で血を洗うバトルロワイヤル!!!』
物騒なこと言うなポンコツメイド、それ以前にまだ三年生じゃねぇ。二年だ
『姉さま、時間過ぎてます』
『え?マジで?じゃあスタートォ!!!』
《う、うぉぉぉ!!!》
青山さんのペースに完全に飲まれた二年生は、おたけびの出すタイミングを完全に見失い、一瞬呆けた。その隙を俺は見逃さない
「穂村さん!」
「え?」
青山さんの滑りをある程度予期していた俺は、すかさず穂村さんの手を引き、教室から飛び出した
『はっ!』
クラスが我に返る
『待てコラァ!浅岡三丁目ぇ!!!』
うぉぉぉぉ!!待ってたまるかァ!!!
後ろから銃(紫雲寺廉介作、非常に安全な作り)が業火をふく
「きゃぁ!」
「うぉ!」
頭を抱え、走る走る。廊下を曲がり、やたらめったら後ろに銃をぶっぱなした
「穂村さん入って!」
「え?は、はい!」
穂村さんの背を押し、化学準備室に逃げ込んだ。よもや間山先生の私部屋と化したこの場にいるとは思うまい
バタン…
『おい、やつらどこ消えた?』
『見失った!くそ、さすがは浅岡家、一筋縄ではいかんな』
『ああ、伊達に変な名前しちゃいねーぜ』
(んだとコラァ!!!)
(だ、だめです、浅岡くん、出たら見つかっちゃいますよぅ!)
穂村さんが握り拳を固める俺に必死でしがみつき、出せるかぎりの声で俺をいさめる
「…はぁ」
「…ふぃ」
扉を背にし、肩をおとす、なんでうちの学校はこんなに熱いんだ…
「ちっくしょ、俺の方は弾切れみたいだ…」
「わ、私もみたいです…」
逃げるのに必死で残弾数など気にしている暇はなかった、確か弾の補給ができるのは三階のセーフティーエリアだけだ
ハーハッハッハッ!!!
「な、何これ?」
「くそッ、もう嗅ぎつけやがったか…!」
「なんなんですかコレ!」
「今回の優勝候補ナンバー2だ!」
扉が勢い良く開く
「きゃぁぁぁ!!!」
「う、わぁぁぁぁ!!!」
ま、眩しい!
「なんなんだよコレは!」
『なんなんだよコレはと聞かれたら』
『答えてやるのが世の情け』
目を細めて光源の方を見ると、二つのシルエットが向き合って腕を組み、交互に某有名ゼリフを言い放つ
(このつづきなんでしたっけ?)
(愛と正義の悪を貫くじゃなかった?)
(それだ!)
台なしである
『コホン、愛と正義の悪を貫く』
『ラブリーチャーミーな仇役』
その瞬間ライトが消され、二人の顔があらわれた
『一宮金次郎』
『浅岡幹人』
いちいち顔をこちらに向けて不敵に微笑むのがまたウザい
『銀河をかける(ビーー)団の二人には』
『ホワイトホール、白い明日が待ってるぜ』
(……)
(……)
(…ほら早く)
(……次君のセリフよ?)
(や、やっぱり無理です)
(コレなんだ)
(…!…やればいいんでしょ!やれば!)
(さ、どうぞ)
『にゃ…』
「にゃ?」
俺と穂村さんが首を傾げる。扉の外で今にも消え入りそうな高い声がした
『にゃあんてにゃあ…』
雨ーーーーー!?
出て来たのは、ネコミミバンドをつけ、要所要所を覆うだけの、かなりキワドイ服装の妹だった
「か、勘違いしないでサンお兄ちゃん!これは……幹人お兄ちゃんが…!」
顔を真っ赤にしながら慌てて弁解する妹の声は、兄の耳には入ってこなかった。穂村さんは口をあんぐりとあけてただただ雨を見つめている
「はっはっは!妹が兄を誘惑する方法は無いかと僕に尋ねてきてね!」
「似合ってるヨ!雨チャン!」
何かが切れる音がした
それでも構わないと…思ったんだ…
「うふふふふふふふ…」
雨が頭をうなだれ、突然笑い出した。非常に怖い
「あのぅ…雨ちゃん…?」
一宮が雨に近づき、顔を覗き込もうとする。
バカッ!やめろッ!
「ガッ!ぶへあばたッ!」
奇怪な声を出し、一宮の体が激しく飛び跳ねる。いや、飛んでいた。対空時間が長いと思ったら雨が一宮の下に潜り込み、しきりに腹部を連打しているのだ。その妹の表情に一瞬母を垣間見た
「オゴホッ!」
あわれ一宮、ぼろ雑巾のようにリングアウトである
「…一宮」
「ふ…我が…生涯に…一片の悔い…無…し…」
ガクリ
ああそうだな、次に生まれ変わるときには苗字に一本棒を増やせ、180度違う性格の勤勉家が生まれることだろう
「ふしゅぅぅぅ…」
雨の口から湯気が満ち満ちてくる。今度は我が兄貴、浅岡幹人を睨んだ
「はっはっは!やっぱり雨は可愛いなぁ!」
どこが!?いや、可愛い妹だけど今のを見て抱く感想か!?
「はっはっはっ、ちょっ、今日、は、なかなか、つよ、いな」
マウントポジションをとられ、
文節ごとに顔面を殴られているというのに、まだまだ余裕のバカ兄貴
「ハハ、ちょっ、きつ、やめ、」
おぉ珍しい。兄貴の笑顔が少しばかり引き釣っている。眼福眼福
ドシャア
さらば兄貴、願わくばそのまま永久に眠ってくれ
化学準備室は静けさを取り戻し、あとには肩で息をする擬人化ニ◯ースと床に転がる二つの元人間、それを見て震える一般人二人が残された
「…この人たちはなんだったんでしょうか……」
穂村さんがやっとのことで声を搾り出した
この物語はフィクションです