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四丁目 父の威厳

「う〜ん25点か…」


かつては一宮だった残骸から何の躊躇いも無くカードを拝借すると、ネコと書かれた文字の隣に25という数字があった


「ああ…それでこの演出か…」


化学準備室の角でネコミミモードのまま膝を抱えてうずくまる妹と、カードのネコを見比べながら哀れみのため息を漏らす、大丈夫だ、俺達は何も見ていない


「浅岡く〜ん、こっちは2点ですぅ」


兄貴点数低ッ!おのれ討ち死んでなお弟にいやがらせをするのか……


「……」


兄貴の気絶したままにやけるツラが気に入らなかったので、ペンさしからマジックをとって顔にこれでもかというくらい落書きした。油性なのは言うまでもない


『ぴんぽんぱんぽーん!』


それくらいチャイムでやれ


『はいは〜い、現在の状況を報告しま〜っす!』


『どうやら浅岡幹人殿、一宮金次郎殿ペアが敗北をきっしたようですね、敗れた相手は浅岡三丁目殿、穂村歩殿ペア』


なぜわかる!?てか倒したのは妹なんだが…


『あ、カードには発信機がついてますから、あなたたちの行動は手に取るようにわかるのですよ〜』


金かかってんなぁ…


『ところで姉さま。優勝したら何かいいことあるんですか?』


『ん?ああ、次の期末テストの答えがもらえるんだって〜』


何だってぇぇぇ!!!

本当に大丈夫なのかうちの学校!


切れたと思ったら、放送はまだ続いていた



『はっ!一般の人間がそんなのもらっても嬉しくねっつの!だいたいなんであたしら紫雲寺メイドがかりだされなきゃいけないのよ!!!あの孝太郎ならぬプー太郎がッ!ペッ!』


『…姉さま』


『え、ウソ!まだ切ってなかったの!?』



『………』



……




『ち、違いますから!決して孝太郎様の悪口など!!そうだ!こいつです!こいつが言いました!中目黒桃江です!!!』


無理だよ青山さん…



『姉さま、ちょっとよろしいですか?』


『え?ちょっ、桃江!何を……』


『ギュィィィン!!!』


『ひぎゃぁぁぁぁ!!!』


『ピンポンパンポーン』


今度は無機質な電子音だった。後半下降気味なメロディー、放送終了の合図である


「………」


「………行こうか」


「…はい」


俺と穂村さんが準備室から出ようとすると、なにやら雨がゴソゴソやっている。動きにあわせて仕様の尻尾がふにふにと揺れる


「なにやってんだ?」


「!」


後ろから声をかけると、雨の体がビクッと痙攣した。尻尾もそれに合わせてぴんと伸びている。手が込んでるな…


「ちちち違うの!」


「は?」


どうやら兄貴の体から何か物色していたらしい。形状からすると、それは写真のようだ


「あはは…」


雨は引き釣った笑いを浮かべながらくしゃくしゃに丸めたそれをポケットにしまおうとした。ところがどっこい、今の雨の服装からしてポケットなどという気の利いたものはない。煮えきった頭ではそこまで考えが及ばなかった。ひらひらとそれが床に落ちる


「何だコレ?」


「わっ、可愛い!」


写真を覗き込んだ穂村さんが口に手を当て軽く吹き出す


「だ、だめぇ!」


一生懸命写真を取り返そうともがく雨だが、俺に頭を抑えられ、腕をじたばた振り回すだけだ。


「お前…」


「ぷぷぷ……」


「うぅ……」


三人三様の反応、俺は半ば呆れ、穂村さんは悶え、雨は辱められ、顔を真っ赤にしている


「い、いいじゃない……着てみたかったんだもん」


単刀直入に言おう、メイド服である。メイド服に身を包んだ雨が、スカートの端を持ち上げ小躍りしている。確かに恥ずかしい写真だ


「なるほど、これで兄貴にゆすられたと」




「うん…言うこと聞いたらばらまかないであげるって……」


「……」


実の兄にここまで腹がたったのは何年ぶりだろう…


とりあえず兄貴の顔面に落書きを増やした。キュキュキュッと…


『僕は女の子にメイドさんの恰好をさせてくるくる回すのが大好きです』


よし、これでしばらく外には出れんだろ


一宮はどちらかというと兄貴の被害者ぽかったから毛布をかけてやった。武士の情けである


「あたし帰るね…はぁ…」


「ああ、気をつけてな…」


活力を完全に失った雨に上着を貸してやり、どうかこの健気な妹に人並みの生活を、と神に祈る。困ったときの神頼みと言うが、これくらいは許されていいはずだ


『ピンポンパンポン』


ん?またか


『えー青山緑氏が事情により実況中継できなくなったため、代わって中目黒桃江が両役をつとめさせていただきます』


青山さん…


『ただいまの状況を簡単に説明します、グランドでは浅岡幹春殿、天草華子殿ペアが、間山裕子殿、営宮涼子殿ペアと交戦中』


すげェ組合せだ…


親父についてはもはやなにも驚かないが、天草とペア?しかも我が校誇る超人気教師、営宮涼子と、ある意味で人気な間山裕子のペアである。非常に気になる戦いだ


『敗れた人間がギャラリーとなり、声援を送っています。両者実力が拮抗していて、なかなか勝負がつきません』


ほとんど親父と間山先生の戦いだな…


『おっと、間山裕子、浅岡幹春!グロッキーか!?天草華子、営宮涼子、お互い一歩も譲りません!』


何ィ!!!


やばい。ちょっと窓から覗いてみよう…


――――――


―――


「やりますね、華子ちゃん」


営宮先生が柔和な笑みを浮かべながら、清らかな色合いの和服についた土ぼこりを上品に払う。ちなみにこの教師、担当科目は英語だ


「…先生こそ」


天草が出し抜けにぽつりと呟いた。右手には竹刀、左手には何故か知らんがなべつかみをはめている。剣術小町という言葉からアイドルの要素を差し引いた姿だ



「ふふ、お客さんも増えてきたことですし、決着をつけましょうか」


「…望むところです」


隣で倒れる戦国武将の姿をした浅岡家の大黒柱を尻目に、天草華子は竹刀…じゃなくてなべつかみを構えた。



「くッ…油断した。おのれあの親父…」


間山先生が片膝をついて息を切らしている。一体どんな戦いだったんだろうか


「ふふふ、安心してください間山先生、優勝したら焼肉一杯おごらせてあげますから」


「………」


「じゃあ行きますよ華子ちゃん!」


「はぁッ!」


ガキィン!


凄まじい金属音!なべつかみと営宮先生の手刀がぶつかりあい……ッておい!


思わず一階の窓からツッコミを入れてしまう。


「………」


「………」


ヒュォォ……


風がうなり、両者背を向け合ったまま微動だにしない…、勝負は一瞬だった。どっちだ!どっちが勝つんだ!!!


「ふ、不覚…」


ドシャリ


「ふふふ…、10年早かったわね…華子ちゃん…」


歓声が上がる。営宮教の男子生徒が営宮コールをしはじめた


それに答えるように、営宮先生は短く切り揃えられた漆黒の髪を色っぽくかきあげた。男子生徒の視線の大半は今彼女に向けられているはずだ


「…それじゃあカードをいただこうかしら」


そう言って、コワク的な笑みを浮かべ、袖をたくしあげると、天草の懐を探り始めた。そのときだった


「うっ…」


営宮先生がパタリと倒れる。観衆がどよめいた


「おい!どうしたえい…み…や……?」


次いで間山先生も倒れる。何が起こっている!?


「ふふふふふふ…」


野太い男の声がグランドにこだまする。まさか…そんなバカな……


「ふはははは!!!戦いの年季の違いというのがよぉーくわかっただろう『相手が勝ち誇ったとき、そいつはすでに敗北している』これが浅岡幹春のやり方、老いてますます健在というところかな?」


お、親父ィィィ!!!


言ってることはどっかの波紋使いみたいだけどカッコ悪いよ!死んだフリして、しかも麻酔銃?戦国武将がんなの持つかァァ!!!


「ふははははははははははははーッゲフンゲフン」



親父は倒れる三人の女性を前に、声を最大にして笑っていた。


そう…




クマさんプリントのエプロンをかけたロリータフェースの主婦がやってくるまでは…

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