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第3話 黒鉄レオン

 誰もいない夜の街に、テールランプの赤い光を残しながら快走する。4月の風は冷たかった。

 センサーが反応する様子はない。


「それでレオンさん、どこに向かってるんですか?」


 ゴオオオと耳の中をかき回す風の中に、よく通るリリアの声。機械なのに、まるで生命を宿しているように背中をあっためる。

 

 今から向かうのは泊るための場所。


「地下コロニーだ」


「地下コロニー……なんですかそれ?」


「知らないのか?」


 これは常識なんだが……。記憶がないのか、ただ単に知らないのか……どちらにせよ変わらないな。


 俺は地下コロニーについて色々説明した。

 約7年前に起きたサイバーテロにより電子機械がハッキングされた。セキュリティが強固の一部の都市はその影響がなく、ハッキングから生き延びたのだ。当然、人々は必死になって次々と都市に逃げ込むことになる。だが、そんな膨大な人数を制御できるわけもなく、政府はある決断を下した。不必要な人材はすべて追放。都市の中にいた高齢者、障害者、無能、そして子供を全て追放したのだ。無論、その中に俺も、妹も含まれている。そして、生き残った都市は主要都市と呼ばれるようになった。

 俺がいた場所では、子供は入れるべきという考えは出たものの、大人で都市を守るのに精一杯だったため、その意見は否定された。結果、残ったのは生きる術がない人々のみ。ただ人工知能の支配を恐れて、隠れることしか出来ない生活を送るしかなかった。そんな中、幸いなことに機械について知識と経験がある老人が率先して、地下に文明を発展させ、コロニーを築き上げた。そして世界には、別の地下コロニーがいくつかあるらしい。


 全く……都市部の奴らが気に入らない。

 

「なるほどです」


 リリアは同情でもしたのか、悲しそうな声が脳内で復唱される。

 ヒューマノイドなのに人間っぽい。本当に感情があるんじゃないかと思ったりするが、それは科学的に無理だ。これもプログラムなんだろうな……。そう思うと孤独に感じる。なにせ、後ろにいる少女は機械なのだから。


「あの、レオンさんはなんで旅にをしてたんですか?」


「…………妹を、助けるため」


 そう口にした自分に驚いた。もう誰にもその話しをすることはないと思っていたからだ。


 すると、急に風向きが変わったのか、風の音が聞こえない。


「うん?妹さんはコロニーに……」


 ”妹”、”コロニー”

 その単語を拒絶するように、ノイズがかかる。


「襲われたよ」


「どうしてです?”コロニー”に居たのに」


「侵入してきたんだ……奴らが……」


 途端に、思い出したくない記憶がフラッシュバックした。時間が止まったような感覚に、吐き気がする。


「妹は、その……生きてるんですか?」


「……あぁ、生きてる。逃げた方向は違っただけだ」


 やめろ……それ以上話すな。


「うん?どうして生きてるってわかるんですか?」



「……そう、信じてるから」



 その声は震えていた。

 


「”死んでる”かもしれ____」


 リリアの言葉に不快な”ノイズ”がかかる。


 っ!?……呼吸が、苦しい。


 はぁっ、はぁ、はぁ…………なんだ?さっきから汗が止まらないし、体が熱い。


 雑音が止まらない。


 そうだっ、”妹”は”””ロニー”にいた……はずだった。……なのになぜ?どうして……っ!!


 ”リリ”””の言う通り、”コロ”””””にいた。いたのに……。



 何も出来なか”””””、”””””””””””””””__



 ノイズが、うるさい……。



 その瞬間、俺の中の何かが途切れた。抑えていたはずの感情が。心の底から憎しみが湧き上がってくるの感じた。


 グリップを握る力が次第に強くなる。


 何も出来なかった自分に腹が立つ。唯一の”家族”が、”妹”が、今も、隣にいるはずだった……っ!

 サイバーテロを引き起こした奴も憎い……人工知能も憎い……見放した都市部の奴らも憎い…………そしてなにより、それを見ることしか出来なかった自分が………どうしよもなく憎い……っ!!


「___レオンさんっ!!」


 その言葉にハッとする。

 気づけばメーターは200㎞を超えていた。バイクが世界を拒絶するかのように、唸り声を上げている。

 リリアは手は、なぜか震えていた。


「ごめんっ、考え過ぎた」


 どうしたんだ?俺らしくないぞ……。


「すみません、私……余計なこと言いましたよね」


 どうして謝る?リリアは何も悪いことはしてない。悪いのは、俺だ。自暴自棄になってしまった俺だ。何も出来なかった……俺なんだ。


 振り向くと、そこには心苦しい表情をした”少女”がいた。悲しそうに俯いている。……目が合いそうになって、慌てて視線を戻す。


 その表情は、俺の脳にこびりついて消えようとしない。罪悪感と申し訳なさで、また自分が嫌いになる。


 だけど、満月の夜に照らされているリリアが、驚くほど綺麗に見えた。


「…………らしくないな。俺も、お前も」


 ……「俺がいる限り、誰も死なせねぇよ」突然、いないはずの声が聞こえた。俺が一番頼りにしてる、あいつの声…………。


 どうして忘れてたたんだろうか……妹には、俺に全てを教えてくれた、「最強」がいるのに。

 今なら言える、妹は死んでない。妹のそばには、あいつがいるから。


「………」


 しばらく沈黙は続いた。

 リリアが今、何を思っているかわからない。呆れたのか、失望したのか、それとも……怖いって、思われたのか。それは嫌だな……って、ヒューマノイド相手にバカだな、俺は。こいつに感情なんてものはない。ただのプログラムなんだ。



「レオンさんのバカっ!バカバカバカバカ……っ!!!」


 重苦しい沈黙を、リリアの罵声で突き破る。


 一瞬、心を読まれたかと思った。


「っえ、なんだよ!?」


 ダメだ、動揺しすぎて声が裏返った。気がする。

 突然のことに、思考が追いついていない。


「声かけても無視して加速するし、呼吸は荒くなるしっ、今度は黙るしっっ!!」


 ……


「その、あんまり怖い顔しないで欲しい……です」


 ……っ!


 ……そんな顔してたのか。妹と同じくらいの少女を怖がらせてしまった自分が情けない。


 ひょっとしたら、このヒューマノイドには感情があるんじゃないか。少なくとも、このヒューマノイドからはそう感じさせる何かがあった。理由はないけど……。

 それにしても、いきなりバカを連発するとか……


「ぷふっ……」


 俺は思いがけず笑ってしまった。


「な、なに笑ってるんですかっ!!」


「だってっ、あの重い空気を払うとか、本当に雰囲気を壊す天才だなっ(笑)」


 さっきまでの憎しみはどこにいったのやら……。なんだか吹っ切れたきがする。


 曲がりくねった道を通るタイミングで、リリアが頭突きしてきた。


「痛っ……!!」


 慌てて車体を傾ける。

 あっぶね……


「酷いです!レオンさんは酷いです!!そんな言い方はないです!!私、勇気出して言いましたっ!!」


 主張が激しい少女は、そのまま顔を俺の背中に埋まらせる。


「ごめんって……まぁ、ありがとな……元気出た」


 やっぱりおかしい。この少女といると、なぜか素直になれる自分がいる。ヒューマノイドだからだろうか?いや、違うな……リリアが本音で相手してくれるから、俺も本音を言うことにためらいがなくなったのかもしれない。


「ムー!ずるいです!ありがとうって言われたら反論できないですっ!!」


「なんだよそれっ(笑)」


 こうして笑うのはいつぶりだろうか。


 心に空いた穴が、少しずつ、温かいなにかに埋まっていくの感じた。これは、紛れもなく彼女のおかげだろう。

 リリアという少女に出会えて、正解だったのかもしれない。


 その後もリリアのいちゃもんは続いた。



 __時刻を確認すると17時半に差し掛かっていた。


「あ、見てください!あの星凄い光ってます!」


 夜空を見上げると、そこにはいっぱいの星で埋め尽くされていた。

 そんな中に光り輝く星が並んでいる。

 あれは、確か……おとめ座か。その中でも一番輝いてる星があった。名前なんだっけ。


 正面を向くと、すぐそこに障害物があってすぐに方向転換した。


 あぶね……


 後ろか「わっ」とかなんとか聞こえてくる。


 敵ユニットがいないか確認するため、バイクのセンサーに目を向ける。

 全然いないな……さっきの騒ぎでほとんどの敵ユニットが移動したのだろうか。


 ふと、さっきの出来事を思い出す。

 リリアが的確な指示をしたことだ。バイクのセンサーは1㎞以内の敵ユニットに反応し、敵ユニットに対し、半径20mの円で囲んである。さらに、2体以上は複数としか表示されない。それに対してリリアは、数も位置も正確に割り出していた。


「思い出したんだけど、リリアのセンサー高性能すぎないか?」

 

「……」


 しかし、後ろにいる少女は何の反応も示さない。

 思ってた反応と違う。さっきみたいに元気で返してくれるか、褒めて貰ったことに調子に乗るかの2択だと思ってたんだが……。


「リリア……?」


「あっ、えっと、ぼーっとしてました」


 さっきと同じ声だけど、なんか違う。なにがだろう。

 ……ヒューマノイドにもぼーっとすることあるんだな。


「それで、リリアのセンサーってどこまで分かるんだ?」


「えーっと、頑張れば半径2キロ以内の敵ユニットの位置と数もわかります。あと、高さもわかります」


 なんだそれ、凄すぎだろ。バイクのセンサーとのスペックが違いする。これからはリリアに敬意を示さないとな。エリア11に進むにつれて、厳しい状況が続くことになるだろうから、凄く頼もしい。

 にしても、そこまでの技術が、この少女にはあるのか。だとすると、一体何のためにこのヒューマノイドが作られたんだろうか?誰が何の目的で……いつからいるのかも気になるな。何歳設定なんだろうか。聞いてみようと思ったが、女の子にそれは不謹慎か?まぁ、ヒューマノイドだし問題ないか。


「いきなりで悪いが、何歳だ?」


「16です」


 16……そっか、16か…………んっ!?

 そうは見えなかったけど……童顔のせいか、体も幼く見える。これで妹よりも一つ上なのか……。


「それで、レオンさんは?」


「……ん?」


「レオンさんは何歳なんですかっ!!」


 お、おう。そんなに怒んなくても良くないか?ちょっとびっくりした。

 あれ、でも何歳だっけ?13歳で、あれだから……19か。


「……19だ」


 19。その数字に素直に驚いた。自分が成人してた自覚なんて全くない。


「19、大人ですね!」


 もう、大人か……。だからといって、何か変わったことはないけど。

 ってか、こいつと3歳しか離れてないのか、俺。


 リリアはすっかり元気になっていた。これからのために元気でいてもらわないと、俺としてもやりずらい。


 しばらく走っていると、目的地にたどり着いた。

 そこには巨大なショッピングモールが俺たちを出迎えてくれた。


「着いたぞ。地下コロニーだ」

もっといい表現方法とかあったら教えてくれると助かります!

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