一つの戦闘ーーダスト③
「ただちょっと光っただけじゃねぇか。舐めやがって、5秒で殺してやるよ!」
カリノが地面に触れると、ボコッと音を立てて地面が波打ち、隆起する。『再』は『触れたものをある一定の時まで遡らせる』という力。それを利用し、元々そこにあった"山"を一部顕現させていた。
ダストは波を利用してカリノの方に一直線に飛んでいく。だが、カリノもそれに反応して、剣を振り、ジリジリと鍔迫り合いが続いていた。
「そろそろ5秒経ったかな? 約束は果たせそうかい?」
「チッ、まぁいいさ。標的を捕らえることが最優先なんだ。テメェなんて殺さなくてもいいんだよ!」
そう言うと、カリノは地面を蹴り、砂煙をあげる。ダストが目を覆うと、そこにはカリノの姿は無かった。
「逃すと思ったのかい?」
瞬間、カリノの背後からそんな言葉が聞こえる。カリノは慌てて剣を振り下ろし、ダストに一撃を与えようとしたが、ダストは軽々と避けていく。
「テメェ、なんなんだよ。完全に見失ってただろ。」
「私のラピス•リトラータを舐めてもらっては困る。たった500m先の君を見つけることくらい造作もないことだよ。」
「バケモンが。」
「化け物で結構。君を殺せるからね。」
カリノは改めて決心をする。『こいつは確実にここで殺す』と。
ダストも同じように決心する。『ここで彼を殺す』と。
カリノはゆらゆらと体を揺らす。それは決して揺らそうとしていたわけではない。"脱力"それが彼の速さの要因だ。ボクシングなど、様々な競技でも脱力は速さという観点で重要視されている。それを彼は極めた。声は荒げていても染みついたものは中々剥がれ落ちない。
それに対してダストはどこまで行っても我を貫く。剣を改めて握り直し、自分の前に持つ。そして静かに構える。
"静と動"その境地に彼らは立っていた。
先手を仕掛けたのはカリノだった。剣を折り曲げて投げる。弧を描いて飛んでくるそれを、ダストは軽く弾いた。
ーー武器は落とした。彼がなぜ武器をこんなにも軽く捨てたのか理解できないが、まぁいいだろう。今が好機!
そう考えた瞬間だった。突如としてダストの右手から、確かに固く握っていたはずの剣の感触が無くなる。実際には、剣の感触というより手が無くなる。と言った方が正しい。
「ハッ、侮るからだよバーカ!」
今、分かった。彼の剣はブーメラン状になっていたんだ。私はまんまと騙された。というわけだな。
……面白い。その罠に存分に乗ってやろう。
「いいのか? 私はまだ何かを隠し持っているのかもしれないのだぞ?」
「時間稼ぎかよ。ダセェなお前。だが、念には念をとか言うしな。塩ありがとなぁ!」
そう言うと、カリノは地面に触れる。そしてダストの周囲にのみ山を顕現させた。ダストの右手と剣は山の上に行ってしまった。
「……楽しい時間もそろそろ終わりだな。遺言を聞こう。元首、ダスト•アスカルトよ。」
「遺言、か。その言葉、そっくりそのまま返させていただこう。」
「……いいのか? 今際の際だぞ。」
「まぁ真面目に答えさせていただこう。私は遺言は決めてあるんだ。100年も付き添ってくれてありがとう。とな。」
そう言うと、ダストは懐から鉱石を出してそれを包囲の外に投げた。カリノはそれを確認していたが、壊さずにいた。
あれはきっと前の技の布石だ。死んだら数十秒はインターバルが生まれてしまう。それなら壊さないのが得策だな。
「君はアスラートを警戒しているのだろう? 打たないよ。だが、打開のための一手はすでに打たせてもらったがね。」
「あ? ふざけてんのか。今のテメェは死を待つのみなんだよ! そろそろ殺してやるよ。」
カリノはそう言うと、自ら包囲の中に入っていった。
ーーこの戦いも終わりだ。
カリノはそう思った。
だが、ダストは一切動じずに、この時を待っていた。と言わんばかりの表情をして右腕を掲げる。
「私の右手なんだ。そろそろ私の手に戻ってくれなきゃ困るだろう?」
右手を掲げて呟いた瞬間に、ダストの右手と剣は主人の元に帰還した。そしてダストが思考するまでもなく、役目を果たす。
その剣は、すでにカリノの首と胴体を離れ離れにしていた。
「なっっっ……で? こんなんで俺が死ぬとでも思ったのか?」
「いや、君の再生能力のことだ。きっと後数十秒すれば全快するのだろう。なら、私はその時間で対処するだけだ。」
そう言うと、アイツは俺の傷口に鉱石を埋め込んだ。傷口に塩を塗りたくられるよりは痛く無いんだな。意外だ。まだまだ次に活かせることは大量にある。
「君に次はないよ。やはり、私の仮説は正しかった。君の『再』の能力は、触れたものをある一定の時まで遡らせる。と言ったところだろうか。そしてきっと、それには制限もある。私の仮説だと、それは何かしら前の状態と違う物があると遡らせることができなくなる。違うかな?」
「………チッ。そうだよ。で? それがなんかあんのか?」
「そういえば、私のラピスリトラータの真の能力を言ってなかったね。視力が良くなるだけの陳腐な能力だと地獄で広められてしまったら私が困る。ラピス•リトラータの真の能力は"身体の鉱石化"だ。」
「それがどうしたんだよ。それが分かったところで、俺の再生は止められない。」
そうは言ったが、何か妙だ。いつもなら今話してる頭が胴にジリジリと近づいていくはず。それなのに今は動きすら感じられない。なぜだ。
「何か妙だと感じるのなら君の胴と首の接着面を見てみるといい。」
確認すると、埋め込まれた鉱石がなくなっていた。アイツの言葉を反芻する。
……まさか、そんなはずは。イカれてやがる。
「お前……まさか、石を肉片にして俺の体に貼り付けて俺の肉体を二度と元の体に戻せないようにしたってのか!?」
「あぁ、その通りだよ。君は頭が良いね。」
「テメェ! 馬鹿か! そんなことしたら、いつかお前はお前じゃなくなる時が来る。分かってんのか!」
「あぁ、承知の上さ。今回は肉片だけで良かった。いつか脳みそや心臓まで鉱石にするかもしれないしね。」
このバカ、なんにも分かっちゃいねえ。自分の体が自分の肉体じゃなくなる恐怖を、生を受けた時の肉体の割合がどんどん減っていく絶望を。
「お前は何も分かっちゃいない。いいか、俺は元々セル•ガフだった。あぁそうだ。お前の知ってるセル•ガフだ。」
「セル•ガフと言ったら……孤児を戦争用に仕立て上げる組織だったね。君がその一員だったとは。」
「そこで俺は何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も肉体を作り替えさせられた。ある時は脚力をつけるために足の筋肉を引きちぎられて馬のに代替された。またある時は腕の筋肉を引きちぎられてゴリラのに代替された。
……お前はそれでもその道を選ぶのか? いずれ、その体の全てが鉱石になったとしても後悔はないのか?」
「あぁ、無い。体が鉱石になった私と言うのは友を守れる私だからな。後悔なぞあるはずもない。」
アイツははっきりと、なんの澱みもない瞳でそう答えた。……眩しいな。
「では、遺言を聞こう。生の七欠片、カリノ。」
「はっ、いいんだよそんなもん。やっぱ俺が受けた生に意味なんてなかった。それだけの話だ。」
「ならそこは深掘りしない。だが、一つ聞かせてもらおう。」
「君が言っていた"陛下"とはなんなのか教えてくれないかい? 返答次第では君を生かそう。」
「教えるわけねぇだろ。アホか。」
「そうか……分かった。その忠義に誇りあれ。」
カリノは目を閉じた。穏やかな笑みだった。死に際に彼が何を想像したのかは今や知る由もない。だが、その笑みは救われた人間がする笑みだったことは確かだ。
キャラ紹介
カリノ
年齢22歳
身長168cm
好きなもの 肉、義理堅い人間
嫌いな物 奴隷
能力名 『再』
所持品 黒曜石のナイフ、爆薬
カリノはセル•ガフの孤児なので苗字がありません。爆薬を持っているのは能力を使う上で邪魔なものを全て取り除くためです




