第二話 もう一度、君に会えた
第二話です!!主人公の名前は『なぎさ』という風に読みます!!
目を覚ました瞬間、違和感があった。
見慣れた天井。
見慣れたカーテン。
窓から差し込む朝日。
いつもと変わらないはずの景色なのに、なぜか胸がざわつく。
俺はゆっくりと体を起こした。
昨夜の記憶が頭の中で蘇る。
墓地。
白いワンピースの少女。
そして――美咲。
『やっと見つけた』
確かにそう聞こえた。
夢だったのだろうか。
そう考えながら机の上に置かれたスマホへ手を伸ばす。
画面を見た瞬間、呼吸が止まった。
表示されていた日付は、美咲が死ぬ三週間前の日付だった。
「……は?」
思わず声が漏れる。
何度見ても変わらない。
ロックを解除し、カレンダーを見る。
テレビをつける。
ニュースの日付を確認する。
けれど結果は同じだった。
俺は確かに三週間前にいる。
ありえない。
そんなことがあるはずがない。
だが、それ以上に気になることがあった。
震える指で連絡先を開く。
一番上に表示される名前。
美咲。
喉が乾く。
心臓の音がやけに大きく聞こえる。
もし繋がらなかったら。
もしまた失っていたら。
そんな考えが頭をよぎる。
それでも確認せずにはいられなかった。
発信ボタンを押す。
数回の呼び出し音。
そして。
『もしもし?』
聞き慣れた声が耳に届いた瞬間、世界が止まったような気がした。
「……美咲」
『うん?』
「本当に美咲か?」
『なにそれ』
少し笑った声が返ってくる。
『朝から変なこと言わないでよ』
その何気ない言葉に胸が熱くなる。
死んでいない。
消えていない。
美咲は生きている。
それだけで涙が出そうだった。
『もしかして寝ぼけてる?』
「いや……」
言葉が続かない。
『じゃあ学校でね』
通話が切れる。
俺はしばらくスマホを握りしめたまま動けなかった。
美咲が生きている。
その事実だけが何度も頭の中を巡っていた。
◇
家を飛び出した俺は、いつもより早足で駅へ向かっていた。
冷たい冬の空気が頬を刺す。
吐く息は白い。
けれど不思議と寒さは感じなかった。
三週間前。
まだ何も起きていない時間。
美咲が死んでいない世界。
その事実だけで胸がいっぱいだった。
駅前の横断歩道へ差しかかった時だった。
向こう側から歩いてくる一人の少女が目に入る。
長い黒髪。
白いマフラー。
冬の朝日に照らされた横顔。
見間違えるはずがなかった。
「美咲……」
思わず名前が漏れる。
美咲はこちらに気付くと、いつも通りの笑顔を浮かべた。
「おはよ、凪朔」
その笑顔を見た瞬間。
胸の奥で押し込めていた感情が一気に溢れ出した。
気付けば走り出していた。
「え?」
驚く美咲の声。
けれど止まれなかった。
俺はそのまま彼女を強く抱きしめた。
「ちょ、ちょっと!?」
周囲からざわめきが上がる。
通学中の生徒たちが足を止め、何事かとこちらを見ていた。
そんなことはどうでもよかった。
腕の中に温もりがある。
確かな体温がある。
生きている。
あの日、失ったはずの存在がここにいる。
「よかった……」
掠れた声が漏れる。
「本当に……よかった……」
抱きしめる腕に少し力が入る。
離したくなかった。
もう二度と会えないと思っていたから。
もう二度と声を聞けないと思っていたから。
「凪朔……?」
美咲の戸惑った声が耳元で聞こえる。
それでも今だけは離せなかった。
この温もりが夢ではないと確かめたかった。
しばらくして我に返った俺は慌てて体を離す。
「ご、ごめん!」
「ごめんじゃないでしょ!」
顔を真っ赤にした美咲が睨んでくる。
けれど本気で怒っているわけではないらしい。
むしろ心配そうな表情をしていた。
「本当にどうしたの?」
「いや……」
言えるはずがない。
君が死んだ世界から来たなんて。
そんなこと。
「なんでもない」
そう答えるしかなかった。
美咲は納得していない様子だったが、それ以上は聞いてこなかった。
そしてその時だった。
ふと視線が美咲の肩越しへ向く。
交差点の向こう側。
人混みの中に、一人の少女が立っていた。
白いワンピース。
風に揺れる長い黒髪。
墓地で見た少女だった。
俺は息を呑む。
信号を挟んだ向こう側。
声なんて届く距離じゃない。
それなのに。
『頑張ってね』
少女の声が、すぐ耳元で囁かれたようにはっきりと聞こえた。
優しく。
どこか寂しそうに。
少女は小さく微笑む。
まるで何かを託すような笑顔だった。
次の瞬間、人混みが横切る。
ほんの一瞬だけ視界が遮られた。
そして再び目を向けた時には、少女の姿はどこにもなかった。
「凪朔?」
不思議そうな美咲の声で我に返る。
俺は何も答えられなかった。
ただ交差点の向こうを見つめる。
冬の風が静かに吹き抜けていく。
少女の言葉だけが、いつまでも耳に残っていた。
『頑張ってね』
その言葉の意味を。
俺はまだ知らない。
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