第一話 君がいない世界
一作目と同時進行で進めて行きます!こちらもよろしくお願いします!!
冬の風は冷たい。
吐いた息は白く溶けて、空へ消えていく。
けれど俺の心は、もう何も感じなくなっていた。
「……美咲」
名前を呼んでも返事はない。
当たり前だ。
もう、この世界のどこにもいないのだから。
数日前まで隣にいた。
笑っていた。
くだらない話で喧嘩もした。
なのに今は、全部が嘘だったみたいに消えてしまった。
スマホの画面を開く。
一番上にある連絡先。
『美咲』
指が震える。
かけても意味なんてない。
そんなことは分かっている。
それでも発信ボタンを押しそうになる。
結局、今日も押せなかった。
画面を閉じる。
耳の奥で、誰かの声が聞こえた気がした。
――凪朔。
振り返る。
誰もいない。
ただ冷たい風だけが吹いていた。
「……疲れてるな」
独り言が虚しく響く。
あの日からずっとだ。
眠れない。
食べられない。
学校にもほとんど行っていない。
気づけば部屋の天井を眺めて一日が終わる。
世界だけが前へ進んでいた。
俺を置き去りにして。
◇
気づけば足は墓地へ向かっていた。
美咲が眠る場所。
何度来たか分からない。
花を供えて、少し話して、帰る。
それだけだ。
今日もそのつもりだった。
だが。
「……え?」
視界の端に人影が映った。
白いワンピース。
長い黒髪。
風に揺れる後ろ姿。
夕暮れの墓地には不釣り合いなほど綺麗だった。
その姿を見た瞬間。
心臓が跳ねた。
「み……さき……?」
ありえない。
そんなはずがない。
それなのに。
その後ろ姿は、あまりにも彼女によく似ていた。
少女はこちらを振り返らない。
ただ静かに歩いていく。
墓石の間を抜けて。
森の奥へ。
「待ってくれ!」
気づけば走り出していた。
呼び止めても止まらない。
少女は一定の速度で歩き続ける。
まるで俺を誘うように。
森の中へ。
さらに奥へ。
息が切れる。
足がもつれる。
それでも追い続けた。
そして。
少女が立ち止まった。
木々の隙間から月明かりが差し込む。
少女はゆっくりと振り返る。
その顔を見た瞬間。
俺は息を呑んだ。
「……美咲」
間違えるはずがなかった。
忘れられるはずがなかった。
そこにいたのは。
死んだはずの美咲だった。
彼女は悲しそうに微笑む。
そして静かに口を開いた。
『やっと見つけた』
次の瞬間。
世界が大きく揺れた。
足元が崩れる。
視界が白く染まる。
耳鳴り。
激しい頭痛。
そして――。
俺の意識は闇へ沈んだ。
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