第001話 幕間 ダールトン、魂の叫び
ダールトンはシャルロッテ達と別れてからカントラス王国へ向かい、精霊神社で巫女のリビエラにアイリスの事を相談していた。そこから更に飛空挺でリアースレイ精霊王国に戻り、本国の商工ギルド総本部に足を運んでいた。
「おう、ダールトンじゃねえか。お前やっちまったらしいなあ?」
「……アデール王国の事ですか?」
「他に何があるんだよ。ウチに手を出されて撤退したんだろ?」
「いや、――それを貴方が言いますか?」
「かなりの失態だよなぁ? どうすんのよダールトン」
「分かって言ってますよねヤークスハルトさん」
ニヤニヤして話し掛けて来たのはアデール王国でダールトンの前に商工ギルドでギルド長をしていたヤークスハルトだ。――だがダールトンに敬意は無い。
シャルロッテ案件を全て押し付けられた上に、戦争の気配を感じて数年前にさっさとギルド長の地位まで押し付けて去って行ったのだ。そんな相手に敬意などある筈が無いのだ。
「何だよ。お前だってさっさと逃げちまえば良かっただろうが。ん? 何だコレ?」
うざ絡みするヤークスハルトに巫女のリビエラ様からの手紙を見せる。ヤークスハルトはその手紙を一読し、……一読し、……一読して、……目を見開いてダールトンに怒鳴り付けた。
「お、おおお、お、(リアースレイ精霊王国の)王族案件の可能性有りって何だよおぉおおお!??」
「私としては直接精霊神社の本島へ向かっても構わないのですがね。一応筋を通す為に、此処(商工ギルド)にも話しを通しておく事にしたのですよ」
ふん、と鼻を鳴らして答えるダールトンにぐぬぬっと唸ってヤークスハルトは魔導通話機を使い、幾度かのやり取りの後でギルド長の部屋へダールトンを行かせた。
「全く、俺を利用するなんて可愛げが無くなっちまったな」
「貴方の所為で散々揉まれましたから。替わってくれるのであれば態度を改めますよ?」
「いやいや、改めんで良いぞ! 弟子の成長を喜べん程狭量ではないからな! はっはっはっ」
ダールトンの背中をバンバンと叩いて足早に去って行くヤークスハルト。
「貴方の弟子になった覚えは無いが、貴方は全く成長しない様だ。まあそれも幸せな生き方か」
その背を呆れた視線を投げつけて呟いた。
「ああ、へりくだる必要は無い。本国の商工ギルド長と言っても、私は貴族と言う訳ではないからね」
初めて会う事になる本国の商工ギルド長との会談で、ダールトンは礼を尽くした挨拶をしようとしたのだが手で制されて止められた。
本国の商工ギルド総本部、中央商工ギルドではダールトンの地位はそれ程高くない。ギルド長はおろか普段は幹部クラスとも会える事は無いくらいなのだ。
だが基本的にリアースレイ精霊王国においては王侯貴族以外で立場上の身分の差は存在しないので、そういった挨拶は過剰になってしまうのだ。
「申し訳ない。だいぶ向こうに毒されてしまっていた様で」
「で? 手紙はコレだけか?」
「――見せられるのはコレだけですね」
「ふうむ、この後精霊神社に行ってから王城へ向かうのだったな」
「はい」
「となると我々も一筆入れておきたいが、どうするかな」
結局ダールトンを重役会議に参加させ、聞き出せるだけ情報を得て手紙を書き上げる事になった。
「精霊王国では私もしがない一庶民でしかないと言うのに、こんな会議に参加させられるとは、どう思います?」
「馬鹿野郎。それは寧ろ俺のセリフだ。引退した人間を巻き込みやがって」
ダールトンは本来呼ぶ必要も無かったが、ヤークスハルトを前任のギルド長であり事情通だと説明して強制参加させていた。――ちょっとした意趣返しである。
「それはアデール王国での立場でしょうヤークスハルトさん? 商工ギルド員を辞めた訳ではないのですから」
「くっ、本当に図太くなりやがったなダールトン」
会議の結果、王令が下る可能性もある為、必要があれば商工ギルドとしても積極的に『精霊の愛し子関連において』協力していく旨を認めた手紙を手渡される事になった。
ダールトンはその足で大巫女と面会する為に、リアースレイ精霊王国の誇る精霊神社の総本山がある場所に向かった。
湖の中にある1つの町が収まりそうな程の小島、そこに唯一建てられた大型木造建築物が大巫女の居る精霊神社である。
一般人は島に入る事も許されていない為、ダールトンも初めて行く事になる。そしてその島に入るとダールトンは強い神聖な魔力を感じとった。
(これは、――カントラス王国の、アイリス様の放った魔力に似ている)
カントラス王国の王城でアイリスがネネェの暴走を止め、邪精霊から精霊に浄化させた時の神聖な魔力と良く似ているとダールトンは感じていた。
(やはり、アイリス様は精霊の愛し子だ)
そう確信を持ち、覚悟を決めて精霊神社に入ってカントラス王国の巫女、リビエラの伝を使いアデール王国で巫女をしていたオリビアと再会をしていた。
「相変わらずあの子達は楽し気な事をしているわね」
「はて、あの子、達? ですか?」
「精霊の愛し子ちゃんとシャルロッテちゃんよ」
「………………ちゃん……」
確かにシャルロッテが初めてアデール王国に密入国した10歳くらいの時からの付き合いだが、それから21年経っている。今のシャルロッテにちゃん付けする者はオリビアだけだろう。
まあダールトンは10歳のシャルロッテにも恐れを抱いていた様だったが。
オリビアはその時から幾つかの精霊がシャルロッテに興味を示していたので気に掛けていたのだ。
「周囲の者達は楽し気では済みませんよ」
楽しそうに言うオリビアの言葉に思わず愚痴が出てしまった。次々起こる事件にアイリスは無自覚だし、純粋に楽しんでいるのはシャルロッテだけだろう。――自分は振り回されて楽しいどころではない。
ナージャは別ベクトル。アイリスが引き起こす騒動を楽しんでいる訳ではないし、ビアンカも最近は慣れて来た様だが同じく騒動を楽しんでいる訳ではないだろう。
その後オリビアにアデール王国の顛末を話し、今後の統治とリアースレイ精霊王国との国交についての助力を願い、大巫女からの親書をオリビアから受け取り王城へ向かった。
(流石に大巫女様と会う事は無かったか)
リアースレイ精霊王国において大巫女と言う存在は精霊神に力を与えられた国に3人しか居ない雲上人だ。ダールトンにとっては余りにも畏れ多い事で会わずに済んでホッとしていた。
(王族とも会わずに済めば良いのだけど、……どうなる事か)
他国の城など出来の悪い玩具に思える規格外の威容を誇る王城。
そこに大巫女の親書を持ちよると、ダールトンの望み叶わず王族と引き合わされる事になり更に神経を磨り減らす事になってしまった。
この国の貴族は一定の能力を持ち、更に精霊神に認められなければ成れない為に他国に比べて絶対数が非常に少ない。その分その能力は庶民の誰からも認められているのだ。
では王族は? となるとその全てが精霊神の眷属と言われている。――つまり庶民にとって王族とは精霊神よりは格が落ちるが全て神様の様なものなのだ。
(何故こんな事に、……シャルロッテ様!? 私はこの国では一介の商人に過ぎないのですよぉおおおおお!!!?)
ダールトン、魂の叫びであった。
今日から第2部第1章、ですが第2章に続く展開に苦慮していましてキリの良い所まで行ったら投稿頻度が下がると思います。
創作意欲はあるので今後とも続けてブックマークや何らかの評価を頂けると励みになるので大変嬉しいです。これからも宜しくお願い致します。




