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靴の勇者令嬢~ハズレスキル『靴』を持つ侯爵令嬢は、勇者として魔王に嫁ぎ、最強の旦那様と共に真の悪を倒します~  作者: 赤林檎


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12.驚異の魔王フェルディナンは婚約破棄されました(前編)

 ヴァランタンはフェルディナンを自分の城へと招待し、風呂を使わせ、フリルのついた白絹のシャツと青いパンツを貸していた。

 フェルディナンの服はゴブリンたちがドラスの町に持っていった。どうやら町の女性たちが洗ってくれるようだった。


「なぜだ……! 俺様は大魔王と戦いに来たのに、なぜあんな幼子と婚約などさせたのだ……! ううっ、頭が痛い……! あの幼子が『わんわん』と呼ぶ声が……! なにをしたのだ、ヴァランタン……!」

 ヴァランタンは心配そうにしながらフェルディナンを支えて、ドラスの町にいるペトラのところまで連れて行った。

 フェルディナンはペトラを見ると、大股で寄って行った。


「ご令嬢、俺様は高貴なるフェンリルであって、『わんわん』などでは……、クッ、やめろ、なにをする……! なぜ、『わんわん!』という声が、俺の頭の中で……!?」

 フェルディナンはペトラの前で、頭を抱えてうずくまった。

 ヴァランタンが慌ててフェルディナンに駆け寄った。


「まさかとは思うが、ペトラに『テイム』されたのではないか?」

「いくらなんでも、あのような幼子にそこまでの力はないだろう! 俺は驚異の魔王だ! 幼児に『テイム』されるなど……! ううっ、『わんわん』はやめろ……!」

 わたくしは二人が話し合っているのを聞きながら、ステータス画面を想像し、目の前に呼び出した。

 仲間のスキルを確認したいと念じると、ヴァランタンのスキルリストが表示されてきた。


 わたくしはヴァランタンの『最強』のスキルを一つ一つ見ていった。『最強』を最後まで見終えると、『大魔王』のスキルが現れた。


「『大魔王』?」

 どうやら大魔王というジョブには、ジョブの専用スキルがあったようだ。

 スキルリストを見ていくと、中二病のような文章が並んでいた。


『旅が終わったと気づかぬのか』

『永劫の闇に堕ちるがよい』

『死にゆく姿は麗しい』

『深き絶望の果てを見よ』

『完全なる暗黒の化身』


 なんだろう……。『大魔王』のスキルの意味がわからない……。五つ読んだところで、いろいろ諦めた。

 ここに並んでいる文章のどれかによって、せっかく出てきてくれたフェンリルの魔王が、子守りをしたくて苦しんでいるんだよね?


「私は戦っても良いのだが、このような有り様では、お前が負けるのは目に見えているぞ」

「誰のせいで……! ここに近づくに従って妙な気持ちになってきて、あの幼子を見た時、それは最高潮に達した! なんなのだ!? この俺様の心に唐突に生まれた、『俺の旅はここまでのようだ』という気持ちは……!」

 これって『旅が終わったと気づかぬのか』のスキルの効果なんだ……。


「素直に、ここに住みたいと言ったらどうだ?」

「ハッ、ばかな! 俺様は貴様のような『人の番犬』などとは違う! 気高き狼だ! この俺様こそが大魔王にふさわし……痛い痛い! おい、やめろ!」

「私はなにもしていない。大丈夫なのか? 配下に城まで送って行かせるか?」

「いや、もう、いい。これは無理だ……!」

 フェルディナンは肩で息をしていた。強張っていたフェルディナンの身体から力が抜けていった。

 フェルディナンの全身が、薄い紫色に光った。


「最強の大魔王ヴァランタン様に忠誠を誓います。……これでいいのだろう!」

「我が配下になるとは、どういう心境の変化なのだ……」

「こっちが訊きたいわ! 俺になにをした!?」

 ヴァランタンが素早く立ち上がった。その手には、矢が握られていた。


「ご領主、なにをするのだ!?」

「邪魔をするな、ヴァランタン! たった二歳のペトラと勝手に婚約した変態は、この私が命に代えても討ち果たしてくれる!」

 辺境伯は持っていた弓に新たな矢をつがえ、フェルディナンに狙いを定めた。

 ヴァランタンがまだうずくまっているフェルディナンをかばうように、一歩前に出た。


 辺境伯が怒るのも当然だろう。わたくしが転生前にいた日本ならば、ペトラちゃん二歳の婚約は『事案』と呼ばれるような出来事だ。


「待て……、ヴァランタン。婚約破棄でかまわない……」

「この変質者め、婚約破棄でかまわないだと!? ペトラが気に入らないとでも言うのか!」

 辺境伯がまた矢を放ち、ヴァランタンが片手でキャッチした。

 フェルディナンは崩れ落ちるように、その場でフェンリルの姿に戻った。


「魔物!? ペトラは魔物に気に入られたのか!? ヴァランタン、この頭が一つの犬の魔物はなんだ!?」

 普通の犬は頭が一つだけれど、辺境伯は頭が三つあるヴァランタンのケルベロス姿に慣れ過ぎているようだった。


「フェンリルという狼だ。驚異の魔王フェルディナン。さっき我が配下になったので、ここの守りを任せるつもりでいる」

「ここの守りを!? この変態にか!?」

「フェルディナンが言うには、男の身で令嬢のおしめの交換などしたら、娶る以外に道はないと思ったとのことだった」

「そんな理由での婚約など、こちらから破棄だ! 人里に下りてくるならば、もう少し人間社会のことを学んでからにしろ!」

 辺境伯は怒りで顔を真っ赤に染めたまま、ペトラの手を引いて魔王城の方へと歩いていった。


「なぜ俺様が次々と辱めを受けねばならないのだ……」

 人型に戻ったフェルディナンが、絞り出すように言った。


「フェルディナン、私は靴の勇者とレベル上げに行かねばならない。お前が私を倒しに来て、配下になってくれて助かった。お前はこの最強の大魔王から見ても、すごい魔王だ。お前ならば、安心してここの守りを任せられる」

「やはり貴様が俺様を呼び寄せたのではないか……。なんのつもりだ……」


「そんなつもりはなかったが、たしかにお前が来て、ここの守りについてくれたらとは思った。ペトラは犬が大好きだしな。あの時、なにかのスキルが発動してしまったのだろうか……」

「そうに決まっているだろう……。町の守りでも、子守りでも、もういい……。配下にされてしまった以上、命令には従う」

 ヴァランタンが大魔王にランクアップした今、魔王としてはこの驚異の魔王フェルディナンが、かなりの強さなのだろう。

 こうしてドラスの町は、すごい守り手を得た。

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