二年生
春風が体育館に吹き込む。魔法学園アジュガの体育館には全校生徒と全先生たちが集結していた。在校生たちはざわざわと騒がしく、体育館の前方にいた生徒たちはわずかに緊張していた。この温度差も、壇上にフォース校長が現れると、みんな等しく均一に静まり返った。
始業式が始まった。
新一年生にとっては、入学式になる。
そして、私、リリャ・アルカンジュは今年から二年生になった。そう、二年生だ。私たちの前にいる生徒たちは、みんなピカピカの新一年生だった。初々しいその姿に私たちもあんな感じだったのかなと思うと、去年のことを懐かしく思った。
校長先生のお話は、毎年あまり変わらないらしかった。この学園の三つの校訓、魔導、貢献、友愛を示し、これから学園で過ごすうえで、先生たちや友達、人との助けあいの精神を説いた。
けれど、去年と違うところは、黄金という言葉がスピーチ中、一度もフォース校長の口から出てこなかったことだった。
黄金探索。それは私が終わらせてしまった一つの行事で、当事者でもあった私は新一年生の期待や興奮をさっそくひとつ奪ってしまっていた。私が心動かされたあのワクワクを新一年生たちが味わえないと思うと、少し悪いことをしたとも思っていた。
始業式が無事に終わり、生徒たちはそれぞれ自分たちのクラスに戻りホームルームをした。
ハンナ先生が二年生になった私たちに向けて、今年の抱負を発表するように言った。クラスメイトたちがみんな各々今年の目標を発表していった。
「黄金翼杯で優勝します」
私はそれだけ言うとすぐに席に着いた。その目標はクラスの中では一番現実から程遠いもので、ざわざわとクラス中が私の掲げた目標に対して何か言いたそうにしていたが、すぐに後ろの席にいたオルキナが立ち上がると、わけのわからないことを言い始めたのでみんなはそっちに気を取られた。
「わたくしは、リリャの目標が叶うことを目標にいたしますわ」
私は驚いて後ろを向いた。オルキナはどうかしら?と言わんばかりの誇らしげな顔をしていた。
「オルキナさん、自分の目標をもたないとだめよ?」
「あら?この学園の校訓に貢献と掲げられている以上、わたくしの目標は決してズレた目標ではないと思うのですが?先生はそのことに関してはどう考えていらっしゃるのかしら?わたくし、何も間違っていないと思っているのですが?」
「それはそうだけど、あの貢献という校訓は、自分の成長あっての社会に与える影響であって、オルキナさんのそれは、支援や援助じゃないかな?だから、オルキナさんも何か自分の成長に繋がる目標を…」
ハンナ先生もなんとかオルキナという我の強い生徒を制御しようとするが、彼女の傲慢さを舐めない方がいい。彼女は本当はここにいるすべての人間を見下しているため、他人のために意見を曲げることはない。
「オルキナ、いいから、自分の目標をいいなよ」
私が口出しすると、彼女はジッと私のことを見つめると、やれやれといった様子で改めて自分の目標を口にした。
「なら、友との友情を深めるよ、それがわたくしの今年の目標よ」
オルキナは私を見ながら自信満々な顔をしていた。その笑みにどんな意味が込められているのか、私が深く洞察することはなかった。
その後、アガットも剣闘部の大会で優勝すると宣言してみんなの注目を集めていた。
ルコは医療部の勉強を頑張ると発表して、私は手が痛くなるほど大きな拍手で賞賛した。
ジョアは、テスト勉強を頑張ると宣言していた。
そして、ブルトは、オルキナにならったのか、人付き合いを良好に保つだった。
すべての生徒たちが今年の目標を述べると、ハンナ先生は最後に、来年はクラス替えがあるから、今年はみんな一日一日をクラスメイトたちと大切な時間を過ごすようにとアドバイスをしてホームルームは終わった。
そこから午前の授業が始まり、一日は今日もあっという間に過ぎていった。
そして、私は今日何よりも楽しみにしていたことがあった。
それは彼女が帰ってきているという吉報を受け取っていた。
私はその日の午前中だけで終わった授業を終えると、すぐに図書館トロンへと駆け飛んだ。
図書館トロンにはまばらに人が入っていた。その人たちを追い越して、図書館のカウンターに顔を出す。カウンターで受付をしていたのは図書館トロンの別の司書さんで、私はその人に彼女がどこにいるか尋ねた。すると、その司書さんは、彼女が奥で本の整頓をしていると教えてくれた。
私は走らずそれでも可能な限り早歩きで図書館トロンの本棚の間を確認した。
足が止まった。
そこには高身長を生かして、高い棚に本を入れているエルフの姿があった。
『夢じゃない』
私はしばらく彼女が棚の隙間に古びた本を埋めていく姿を眺めるのだった。




