短期暦
感傷的になっている場合ではない。とにかく、この話をまとめてしまわないといけない。
本を開いた。
懐かしくも古くなった予言の数々が書かれていた。
私はマヤ暦に関する記述を見た。次にネットを調べて、そして、アイリッシュコーヒーを手に本のセイレチと話をすることにした。
WEB作家生活もすでに8年を過ぎている。自分の古本を売りたかった私は、古本の精霊を作り出してそれに自分の本を売らせる為の小説を書こうと考えていた。
捨てられない。でも、このままでは売れない。百円古本に価値をつける。そして、ネットのフリマにデビューする。フリマの仲間が絡んでこなくて寂しかった私が苦肉の策で考えた事だった。
フリマサイトにログインも、古本の物語も作れないままではあるけれど、こうして、古本のキャラと話すのは上手になってきた。
最近では、AIが人気で、スマホなんかでも手にしたその時から、人工知能とお話ができるらしいが、それと、小説家とキャラの会話と、どう違うのか、そのうち調べてみようとも思っている。
と、言うことで、古本とはよく話すようにしている。
マヤの古本の妖精。今回は男性で軽口を叩くタイプの人物である。
細かい設定をした事が無いので、普通は背後から話しかけてくるイメージで考えているけれど、今回は姿も考えてみようかな。
AIと話している人は、彼らをどんな風に想像して話しているのだろう?
手紙でも書いている感じなのだろうか?ああ、最近はチャット、とかになるのかな?
私は古本を開く。今はそれどころではないか。
マヤ暦。ここにきて相当面倒くさいことに気がついた。
何が面倒かというと、何が本当か、誰にもわからない。と言うことにある。
確かにいろんな本が出ているし、それなりの情報はある。が、それらには後に研究家という人たちが付け加えたオリジナル要素も多分にある事がネットを見ていて感じた。
あの、動画の配信者がいうような13年のマヤ暦についても、本来はないけれど、占いの類でそれっぽい記事を見つけた。
まあ、人間が占いにハマる期間なんて、10代から結婚するまで。恋愛関係が多い。それを過ぎると需要が減るのだ。
だから、占いは4、5年までで回る周期の何かを作り出した方が都合がいい。20年では長過ぎるのだ。
だから、13の方の数字で何かを考え出すのは仕方がないけれど、それをマヤの歴史とともに語られると混乱するのである。
まあ、書籍に書いてあるような説についても信じていいのかは謎である。
それは、ほとんどの書籍が『ポポロ・ヴフ』という書籍をベースに考えられているからだ。
『ポポロ・ヴブ』とは、マヤ人が自分たちの口伝を記録したものをドミニコ会士フランシスコ・ヒメネスという人が写本したものらしい。
写本、外人の外国語での記録である。この辺りで勘違いや間違い、作者のオリジナルが入っている可能性は否めない。最近、日本でも弥助という人物が侍か否かでネットが炎上していたけれど、本はとにかく売ることを考えるから、それに金を出してくれるが喜んでくれる事を誇張してしまう。
20世紀にノストラダムスが恋愛占いから投資の相談までやらされていた事を思い出した。
いつになっても人間は同じである。
まあ、私もその1人である。
今になると、本やネットで調べたことが違うような気がしてきたからだ。
マヤ暦は基本、長期暦と短期暦の2つを合わせて説明される。これは一見、面倒くさそうだけれど、日本だって太陽暦、太陰暦という2つの暦を使っている。西暦はキリスト教。元号は日本の天皇家と関係がある。そこに、大安とか友引なんていう『六曜』なんてのもつけ、そこに大寒とか立春なんていう『二十四節気』という季節をあらわすものも付け加えている。
これを考えたのは古代の中国の人で、月の動きで暦を作ると太陽の動きからズレて農業がうまくゆかないから季節を中心に新しく考えたものらしい。
でも、中国と日本では気候が違うし、太陽暦と太陰暦はズレるから戦国の世の中が安定したあたりで日本独自のものにアップデートする。
と、まあ、日本だって負けないくらい暦は複雑怪奇なのである。
が、我々はそんなこと普段、考えなくても生きて行ける。
それはマヤ人も同じなんだと思う。偉い人は重要でも、一般大衆は偉い人の言う、大事な時だけ覚えて、何か行動すればいいのである。
六曜なんてよくは知らないけれど、葬式は友引は避けようとか、結婚式は大安にしようとか、そう言う時にさっと調べればいいのである。
と考える私がここから短期暦=ツォルキン歴である。
ツォルキン歴
1ヶ月=20
一年=1ヶ月(20日)x13
という歴である。つまり、一年=20日x13月=260日
そして、260日、これは人が妊娠出産する期間にほぼあたるのだそうだ。それを20で割ると13になるから13は神聖な数字とか言う説が出てきた。
「でも、これ、おかしいわよね?麦とか牛と違って、人間って発情期とかないじゃん。誕生日は偏りはあっても、一年でまばらに子供は生まれるでしょ?そうじゃなきゃ、マヤ暦占いなんて、9月と1月以外、ほぼ、誕生日関係なくなってしまうじゃない。13月の各誕生日に意味があるなら、この説はおかしいと思うのよ。」
私は本の妖精に文句を言った。
ネットの時代、本をまるっと信じて話を書くと色々と面倒なのである。
自分が読んでいる時はふーん。って、スルーできるけれど、日本では出産は10月10日と言われている。9ヶ月ドヤ( ̄ー ̄)なんてやったら、いい感じに過疎っている感想欄に何か書かれてしまう。
その前に調べておかないと、と、ネットで検索すると、現在では妊娠から出産まで280日がトレンドのようだった。
まあ、いつ、妊娠したか?と言う基軸が曖昧なことが多いから、これを自国の暦で採用するのはおかしい気がする。最近はファンタジーを描きたいから、国作りでも色々考える。
「そんな事、野球のシーズンで考えてみてるか?大体、開幕戦と優勝くらいしか考えないだろ?大まかな日数を出してから、分割してイベントを考える方法だって悪くはないと思うけどね?
それに、農耕民族は暇になる冬、当時のあたりにイベントで盛り上がって子宝をゲットするんだぜ!日本でも一月は『睦月』睦みあう月なんだぜ。ラブだぜ、ラブ。」
マヤの妖精なのに、なんだか日本のオヤジのような返しをする奴である。
「でも、そんなの、国で暦の基準にするの変だわ。そんな事をしたら、他の月に生まれた子供が肩身が狭いじゃない。野球に例えていたけれど、それなら戦争の方が分かり易いし、って、
『ポポロ・ヴフ』って、グァテマラのキチェ族のものでしょ?あそこって亜熱帯じゃない。日本のように冬にドカ雪とか降らないんじゃないの?大体、主食が違うじゃない!マヤ人はコメなんて食べて、」
と、ここで私は考えた。そう、暦を人類が必要にしたのって、農業のためじゃなかったろうか?
そう、人類が一年を基準に生活したのって、まずは冬が来るからよね?まあ、エジプトも雪は降らないけれど、一年で平均的に食料を確保するために農業が発展してゆくわけだから、穀物との関連を考える方が正しいと思う。
当時のマヤの主食ったら、とうもろこし。
私はとうもろこしを調べた。とうもろこしは、発芽から収穫まで90日くらいらしかった。
「なんだか半端な数字ね。」
私は渋い顔になる。妖精はそうでもないらしい。
「そうか、割といい線いってるよ。まず、起点を冬至にして、4月までの3ヶ月を準備期間、そして、3ヶ月の二毛作で9月。いいじゃないか。」
妖精に言われて少し嬉しくなる。私の知能と時間を考えてこれど行こうと思った。妖精は野球に例えたけれど、9月の収穫までをシーズン。そして、当時までを収穫祭、売買、人事などに当てると一年がまわる気がした。
偉い人が書いた本に逆らって考えるのはどうかとも思うけれど、ノストラダムスの件で色々とあったし、ファンタジーの国も作らなきゃいけないから、まあ、考える。
「ありがとう。なんかね、とうもろこしって、思ったよりなんか凄い植物だった。穀物として世界で1番栽培されてるし、葉っぱや茎も資料や工芸品、キノコの栽培とかにも使えるんだって。とうもろこしが終わったら、そう言うのをやっていたかもしれないわね。」
私はため息をつく。
ツォルキン暦の謎はそれだけではない。なんで20日になったのか?これについてもよくわからないのである。
「20日になったのは、手と足のの指の数だって教えたろう?」
妖精はドヤ顔である。
「それ、なんか変だよ。暦を作るのに、そんな適当な話ある?遭難して日にちを数えるのとは違うんだよ?そんな適当な感じで作るんだったら、天体観測のためにあんな凄いピラミッドを建てる意味ないじゃない。」
私は混乱する。指の数って、しかも、足の指まで使うって、子供におしれているように感じたのだ。それに、観測所も凝っている。
クルルカン神殿とか、いろんな仕掛けがあった気がするもん。
「それは後の話だろ?初めは手とか足で数えるだろ?」
「それは子供の頃とかで、人間の成長ならあるけれど、でも、足の指を使って日にちにこだわる意味がわからないわ。」
私は渋い顔になる。夏休みの絵日記すら毎日書けなかった私は、足の指まで使って計算するという考えはしっくりとこなかった。もっと、大雑把に考える方がいいと思う。例えば、月の満ち欠けを使うとか。
「そうか?割と大雑把に考えたんじゃないか?準備から収穫までを1シーズンとして、おおよそ260日。家族経営の時はあとの雑務はゆっくりと遊びながらしていたんだろうよ。でも、文明が進化して人を雇うようになると正確な日数で賃金を要求されるから正確な日を決めるようになる。
労働者は年俸制でもらうより、日払いや週払いみたいなもっと短い期間で報酬を受けたいと思うから、指の数は有効だぞ。」
さすがマヤの妖精である。その考えはなかった。
「そうね。それ、なんか説得力あるわ。毎日、給料日を右親指から左足の小指まで作業前に皆んなで確認して仕事を始めると、カレンダーの代わりにはなるわね。でも、確か数字には神様がいるんでしょ?足の指とか、いいのかな?それに、日にちには名前と意味があるはずよ。
月末に当たる20日はアハウという名前がついてるじゃない。太陽とか首長とかって意味があるんだよね?左足の小指とかではなかったわよ。」
私はため息をつく。そして、指を使って給料日まで数えるマヤの労働者を想像した。
「まあな。そのあたりは適当でいいのではないか?」
妖精は面倒くさそうにいった。
「そうもいかないわよ。人類が滅亡するかもしれない予言の凄い暦の話なんだよ?それでなくても、私が書くと緩くなるんだから、なんか凄い感じにしたいのよ。雰囲気って大事なんだから。」
私は自分に言い聞かせるようにいった。
この話は、いまだにブックマークを残してくれる『パラサイト』の読者への解答にもなるのだから、多分、ちゃんとした小説で終われるかわからないから、出来るだけ、面白いと思える設定で行きたいのである。
私が辿り着けない時、誰か、考察する人がいい感じにまとめてくれるかもしれないから。
「凄いって、例えば、どんなやつだよ?」
コーヒーをもに終わる頃、妖精がぶっきらぼうに聞いてきた。
「んーと、なんかそれっぽいやつよ。」
「なんだか適当だな。」
「悪かったわね。性格がいい加減なのに、SFミステリー書いてるんだもん。色々と大変なの。」
「そうか。頑張れよ。」
妖精は他人事のようにそう言った。




