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収束の交錯世界へ  作者: Unknown
終わりと始まり
15/43

少年は無力をやめた


人生で1度は"これは詰みだ。"と感じたことのない人間がこの世界にいるのだろうか。少なくとも俺は幾度も感じたことがある。

そんな詰み的状況にさっき、志穏は差し掛かった。もはや、BADEND必須な状況だった。


だが、そんな危機的状況をなんとかクリアした。

志穏の左手に触れた刹那、志穏を終わらせることが可能なはずの力が一瞬で蹴散らされたからだ。



「なっなんでだよ……!?」


ゼロアは志穏に対して吠えるような声を出す。

だが、表情には明らかな恐れに近いものが刻まれていた。

ゼロアの動きが一瞬止まり、その隙にセシルの攻撃でゼロアを弾き飛ばす、"地面操作"による攻撃だ。


「志穏…!?それ、一体どういう能力なの?」


セシルがゼロアの迎撃を横目に尋ねてきた。


……俺が1番わかんねえよ。事実、志穏自身が一番脳内でクエッションマークを大量生産していた。


ついさっき、戦いが始まる前にアイリからほかの第8能力の概要について説明してもらったことがある。

その時、ゼロア・ルフェインゲールという人物の能力名は

"力量操作"――与える力を自在に操作する能力。そう聞き預かっていた。

つまり、パンチすら与える力を何百倍にでも倍増できる。詳しくいえば1500倍まで増幅が可能だそうだ。デコピン1個でも"力量操作"で家1つ倒すことも可能という、触れられたら即死のシェイル。


それ故、今、志穏自身体がバラバラに吹き飛んでもおかしくないはずだったのだ。

それを、志穏の左手はなんのことも無くかき消した。それがどういう意味なのか、解を探す程の時間は無かった。


「うぐ…!」


どうやら、今の攻撃は防いだが、着地の際、足を挫いたらしい右足に鈍い痛みを感じ取る。

この力だって、いつ切れるか分からない…一旦下がるしか―


後方はアイリとニナが敵本隊と互角のせめぎあいを通していた。

今後ろへ戻っても邪魔になるだけ…。俺がいったら守るものが増えて、むしろ戦闘しずらくなるだろう。

前方は…後方の戦闘と比にならない程の苛烈なもの、下手に入れば、一瞬で蹴散らされて終わる。だが、こちらは敵が1人。


―どうするべきか。


志穏はしばし逡巡した。

この能力は多数と戦うには向いてない。それに大将を先に討ち取れば下の奴らはきっと撤退する。ならば、攻めるべきは後者だ。

そう方針が定まった瞬間、志穏は駆け出した。

志穏の中の選択肢にもはや逃げるというものはない。この左手の謎能力なら、奴を屠れる。そう確信に近い何かを持ってゼロアの元へ駆け込んだ。



セシルは上半身をギリギリで捻り、ゼロアの右拳を回避する。

ゼロアの拳は壁にぶつかった瞬間、後ろに続く建物3棟を吹き飛ばした。

轟音、建物の柱が穿たれて破砕する音は絶大な威力をもった波となり、耳を殴られたような気分だ。

一瞬動きが止まった今を計らい、セシルは一気に"地面操作"で反撃に出る。


「甘いんだよぉ!」


ゼロアは自身に伸びる突飛を無視し、その間隙を縫うように虚空から赫い榴弾を射出する。

セシルは突飛を数本こちらへ戻し防御に回す。


足りない…!


防御力が足りないため、一旦、距離を取り地面操作で大きな盾を練り直す。そして、幾重にも補強された頑強な壁を創り、榴弾がそれにぶつかる。

赫い点が三点透視図法みたいに遠くから手前へ視界を駆け巡る。

セシルは反動に耐えながらなんとか凌ごうとする。

「そんなぼろ細工じゃ弾は止めれても、俺の(たま)は止めれねえぜ!」


右拳のパンチで壁はなんのことも無く、破壊される。


「しっ、しまった!」


この能力、私には分が悪い…!


拳がこめかみへぶち込まれる瞬間――――――――セシルを防御したのは志穏の掌だった。






「!!!!」

「????」


ゼロアとセシルの相反する思いが並行した。

志穏はそのまま、ゼロアの拳を振り振らう。


「志穏!逃げて!あなたが勝てるような相手じゃない。」


志穏は説教に近い口調で諭される。実際、セシルにとって、自分の思い通りに動かない志穏への不快感は大きいだろう。


「確かに、俺はこいつに勝てない。けど、セシルの援護なら出来る。」

「援護って言ったって…あなたはシェイル持ちじゃないでしょ?」

「その通り、俺にあるのはこのおかしな左掌の能力だけだ。…けど、俺は弱くても無力じゃない!だから、戦える!!」


志穏は宣戦布告するような、世界への徹底抗戦を発表するような、そんな勢いと今までにない剣幕と覇気を放って言った。

志穏にとっての戦争は今開始されたように思える。

セシルは志穏を"正気か?"って顔をしたが同時に、やれるんだったらやってみろとも言ってる顔をした。



志穏は深く息を吸う。


こいつを俺がぶっ飛ばす。


そう志穏は深く息を吐き出して、決意した。



ゼロアは片目を押さえて、ただ、面白い漫才を見てツボにハマった時のように下品に笑い続ける。


「なるほどぉ!じゃあ、志穏君よう、抗ってみろよ。このせかいからよお!!」


感情を爆発させるように一気に榴弾が志穏目掛けて、音速とも思える速さで発射させる。

左掌で真正面に来た攻撃を全て消す。


「このレベルの攻撃では無意味ということか。」

「セシル向かってくる榴弾は俺が打ち消す。攻撃に専念してくれ!」

「わっ、分かったわ!」


セシルは安堵の表情とは程遠い、むしろやりにくそうな顔をする。

それを見て志穏自身、何故ここに飛び込んで来たのか分からなくなってしまった。どれだけ守備力が高くても、守備範囲が狭ければなんの意味もない、セシルの盾になるはずが、返ってセシルを危険に晒すのではないか。そんな現実味を帯びた不安が四肢の動きを愚鈍とさせる。


だけど、ここまで来たんだ、引き返せるわけねえだろ!!!


第2波が来る。

今度は1発1発に威力がこもっているからか、弾数は少ない。

セシルは志穏の後方で"地面操作"によりゼロアに攻撃を加える。鋼鉄のように硬そうな地面が生命体のようにぐにゃりと動きながら、ゼロアを穿こうと、伸びる。ゼロアはそれを凌ぐ事とセシルへの攻撃を交互に繰り出すことに手一杯になっている。

だが、ゼロアの攻撃は志穏の左掌により、完全にクリアされる。


なんかよくわかんねえけど、攻撃の方へ自然と左手が動く…!


それは自分の意志下によるものでは無い。

将棋の歩兵の駒の気持ちになった気分だ。自分の意志に関せず、勝手に動作させられるのだ。


「何なんだよ、その左手は!!」


ゼロアは地面からの攻撃を右腕で殴打し、粉砕して、左手を地面に叩きつける。

その途端。ゼロアの半径三十メートル程くらいまでの地面が禍々しい音を鳴らせながら亀裂をつくる。

そして志穏の下から、エネルギー砲のようなものが爆発する。


「志穏!!」


深呼吸しろ…落ち着けよ、こんなもん、潰せる!!


左拳で叩きつけた結果、エネルギ砲は塵芥のような残滓も残さず打ち消される。


「くっそたれが―!!」


ゼロアの集中は志穏へ向けられていた。その数秒の間でゼロアの真横までセシルは迫る。

セシルは胸の前で三角形をつくるように手を出し、その三角形の空間から、一瞬で魔法陣のようなものを形成する。

そして、爆裂させる。ゼロアに向けて、ダイナマイトなエネルギー砲を。ゼロアは吹き飛ぶ。


「ゲホッ、ゴホオ。くそったれがおぁぁ!!!」


ゼロアは爆煙に咽び、 右拳で虚空を殴って衝撃波を生み出す。

熱風が、志穏の元へとてつもないスピードで向かってくる。だが、志穏の左手は頭からの伝達指令より先に動いた。


「志穏、任せたよ!」


セシルが、俺を頼ってくれた!!!


胸の中が熱くなる。1番褒めてもらいたかった人に褒められた。その高揚感に志穏のやる気スイッチのようなものが押され、一気にゾーンへ入った。心が絶頂へ達する。

志穏は迫る熱風と衝撃波に体当たりするようにぶつかる。そして、甚だしい程の威力を持ったはずのそれらをのれんを押すように感触も無く打ち消す。


今の志穏には全てが見える。


セシルが志穏の横へ立つ。


「志穏、仕掛けるよ。あいつをやっつけよう。」

「おっおう。やるぞ!」


セシルは志穏を護衛対象としてでは無い、1人の仲間として見る瞳をしていた。

それが嬉しく、志穏はぎこちない答えで照れ隠しをする。


今の俺らは矛盾だ。最強の矛。最強の盾。図々しくて高慢な言い草かもしれないけど、今の俺はセシルと対等に肩を並べて歩いけているんだ。だってこんなに近くにいるように見えるんだから。


志穏とセシルは同時に走り出す。流石に運動不足気味高校生では、セシルの走行スピードには敵わないし、すぐに息が上がりそうになる。

だが、体力ゲージを根性で志穏は横にこじ開け、全速で走る。


ゼロアもこちらへ駆け出す。今までの何倍も多くの虚空から、大量の榴弾が放たれてた。

向かい来るものを全て、志穏は、尽く、潰す。

攻撃が飛来する瞬間、志穏の背後にセシルは隠れ、攻撃を回避する。左手以外に少しばかり、反動が伝わる。


熱い…だが、それ以上に…!


志穏は思わず、笑みを零す。

―――――戦うってのはこういうことなんだな。


「ぶちころしてやるよぉぉおぉお!!!!1500倍!!」


一気にゼロアは右腕を後ろへ引き、志穏を穿つ体制を取る。


「もとよりこの戦いは!てめえ1人殺せばおわりなんだよなぁあ!?志穏くぅん?

俺の最大出力なら、てめえの左手如き、簡単につぶせるぜぇ!」

「志穏、流石にあれは私が引き受け――――」

「大丈夫だ。俺が引き受ける。絶対に止める。」


志穏は止まる。武器を捨てて投降するような感じで、だか、それの裏腹にもちろん、余裕の笑みが浮かんでいる。


そして、志穏とゼロアがのシルエットが交錯した刹那―――――全ての音が鳴り止んだ。

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