ミグリンの戦い
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──ミグリンの戦い
「畜生。腹が減ったな」
ミグリンに駐留する帝国植民地軍の兵士が愚痴る。
「仕方ないだろう。物資は全て前線で戦う連中のために送られた。俺たちのような後方警備には最低限の食事だけ、だ」
「貴族様を除いてな」
共和国植民地軍が決戦を求めて、ミグリンに迫るのに、帝国植民地軍のクリメント・クロパトキン大将も応じた。
いや、応じざるを得なかったというべきか。ここで撤退すると帝国植民地軍は共和国植民地軍に敗れたと報道されてしまう。そうなると帝国植民地軍が勝つものだと思っている皇帝アレクサンドル4世や貴族たちはどう思うだろうか?
彼らはクリメントを無能だと思うだろう。無能だとして更迭するか、最悪の場合はツンドラ地帯に送られる。
クリメントはそんな帝国の宮廷政治を知っているために敗北の報道がなされぬよう、共和国植民地軍の攻撃に応じた。彼らは守りを固め、共和国植民地軍の攻撃に備えている。
だが、ここは砂漠の大地。
守りを固めようにも塹壕は掘れず、部隊を広く展開させようとすれば水から何までの物資を何の目印もない砂漠を駆け抜けて供給しなければならない。守る分には非常に困難な場所なのだ、サウードという場所は。
そんな決戦の指揮は後方のこのミグリンで行われている。ミグリンには帝国植民地軍サウード派遣軍団の司令部が設置され、大出力のエーテル通信機が設営され、刑務所からクリメントが前線部隊の指揮を執っている。
「貴族様はいいもの食ってるんだろうな。俺たちが食ってるような味のしない缶詰とかじゃなくて」
「だろうな。新鮮な食材を運ばせて、専任の料理人に調理させてるのさ」
兵卒たちは平民であるために、この飢えた状態で、貴族たちを憎む。だが、貴族である将校たちとて十分な食事がとれているわけではない。彼らも兵卒たちと同じように、物資不足に苦しみ、飢えを兵卒たちと同じ缶詰──それもごく少量だけ──で誤魔化していた。
そんな貴族たちも不満が貯まり、その矛先は自分たちをこんな不毛の大地に送り込んだ帝国本国政府に向けている。彼らは何故、自分たちがこんな何の意味のない場所で飢えと渇きに悩まされるのかと理不尽を覚えている。
飢えと渇きを要因とする士気の低下。
砂漠からは食料は取れない。ここが列強たちが犇めく大陸だったならば、村落を制圧すれば小麦などが取れただろう。だが、砂漠にはなにもない。水すらもないのだ。
慢性的な飢えが帝国植民地軍サウード派遣軍団を覆っている。
「こんな状態で共和国と戦って勝てるのか?」
「前線に行く連中にはちゃんと食わせただろう。流石に前線部隊が飯抜きで戦って負けたら、最高に間抜けだからな」
兵士たちはそのように言葉を交わす。
帝国植民地軍は兵站基地を設営することに結局失敗していた。兵站基地に収まるはずだった物資は、港で灰と化し、車列で灰となっている。
それでも帝国植民地軍はあらんかぎりの物資を投じ、共和国との決戦に臨んだ。砲弾も不足し、エーテリウムも不足し、食料も不足し、士気は最悪で、数では負けている状態で共和国との決戦に挑んだ。
「どうだかな、俺はどうにも勝てる気がしないね。あのヴェアヴォルフ戦闘団って連中が来てから、俺たちは負け続けだ。俺たちは人狼に呪われてやがるよ」
兵士はそう溜息を吐き、ミグリンの外に広がる砂漠に視線を向ける。
「確かに連中は曲芸みたいな作戦を使ってくるよな。ジャザーイルじゃ戦艦を魔装騎士で撃沈して、このサウードじゃどうやっているのか、俺たちの後方に回り込んで、港やら車列やらを襲う。俺たちはそのおかげで酷い目に遭ってる」
もうひとりの兵士も溜息を吐き、何故自分たちがこのような苦難に晒されなければならないのかと愚痴る。
「おい。あれは……」
だが、もうひとりの兵士は戦友の言葉を聞いてはいなかった。彼は砂漠の向こうに視線が釘付けとなり、顔からは血の気が引いていた。
「どうした。そんな世界が終わったような顔をして」
「ヴェアヴォルフ戦闘団だ。奴らが来た」
兵士の言葉に、もうひとりの兵士が答える。
そう、砂漠の向こう側からはもうもうと砂煙を巻き上げながら、魔装騎士が迫っていた。肩に狼のエンブレムを刻んだ魔装騎士が、このミグリンに向けて、突進してきていた。
「畜生! 、警報を出せ! 警報を出せ! 敵の魔装騎士が南東部より接近中! ヴェアヴォルフ戦闘団だぞ!」
兵士はエーテル通信機に向かって叫び、サイレンの音が鳴り響く。
共和国植民地軍が帝国植民地軍との決戦に挑む中、ヴェアヴォルフ戦闘団は帝国植民地軍の頭脳であるミグリンを襲撃したのだった。
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「全機、警戒しながら前進しろ。相手は2個師団をミグリンに張り付けているはずだ。それなりの歓迎が来るはずだぞ」
クラウスは眼前に見える目標──ミグリンの都市を眺めつつ、油断なく周囲に視線を走らせる。
クラウスが警戒しているのは敵の対装甲砲と魔装騎士だ。自分たちを撃破できる可能性があるものに、クラウスは警戒していた。
「見えた。前方に対装甲砲だ。叩き潰せ」
そして、クラウスはこのミグリンを守ろうとする帝国植民地軍の最初の抵抗を発見した。約12門の対装甲砲が砂漠の中に据え付けられ、狙いをクラウスたちに向けようとしている。
クラウスたちは対装甲砲が狙いを定め切れていない間に、突撃砲から榴弾を放って、対装甲砲を屠った。
対装甲砲の射手は魔装騎士は停止してから砲撃するものだと考えていたために、走行状態──それも第3世代型としてかなりの速度で走行している魔装騎士から砲弾が飛んでくるとは思ってもみなかった。
そして、彼らはその思い込みの犠牲となり、撃破された。
『兄貴。前方の対装甲砲は叩き潰したッスよ! 次は何を狙うッスか?』
「そろそろ魔装騎士がお出でになるはずだ。それに警戒しろ」
ヘルマがニコニコした笑みで報告するのに、クラウスがそう返す。
「ほら、言った傍から来たぞ」
クラウスの視線が右の方に向けられる。そこからは1個連隊規模の魔装騎士部隊が戦場になだれ込もうとしていた。帝国の第2世代型であるトリグラフ型魔装騎士は大隊ごとに分かれ、3つの球を作るような形で進んできている。
だが、彼らは球を作っているだけだ。
クラウスたちのように火力投射において優位な楔形の陣形を組むわけでもなく、魔装騎士は速度だけをなんとか合わせて、そうやってクラウスたちに突き進んできている。あれでは後方の魔装騎士は砲撃に苦労することだろう。
何せ、彼らにトリグラフ型が与えられたのはつい最近のことであり、これまでの第1世代型での操縦に慣れていた彼らはその速度に付いていけず、速度を合わせるだけで精一杯というところなのだ。
いや、そもそも帝国植民地軍は第1世代型の時から陣形を組むなど彼らには不可能であったのだから、トリグラフ型を与えられたことで、更に状況は悪化したというべきであろうか。
「ローゼ。可能な限り数を減らせ。こっちでも削る」
『了解。ここからな何とか狙える』
クラウスがエーテル通信機に向けて告げるのに、ローゼがいつものぶっきらぼうで不愛想な声で応じた。
そして、ローゼが応じてから数秒後に前方を進んでいた魔装騎士の秘封機関が弾け飛び、トリグラフ型魔装騎士は轟々と炎を上げながら地面に崩れ落ちた。ローゼの砲撃だ。
ローゼはミグリンを辛うじて見渡せる小高い丘の上に待機している。距離にして3000メートルは離れており、走行中の第2世代型魔装騎士を狙うにはギリギリというところだ。
続けざまに砲撃が叩き込まれ、また1体のトリグラフ型魔装騎士が砲弾を受けて吹き飛ぶ。帝国植民地軍の兵士はどうなっているのか分からず、混乱したままに砲撃で部隊は削られていく。
『あそこだ! あの丘の上だ! 狙え!』
と、不意にエーテル通信に平文でメッセージが入った。
「どうやらこっちの切り札は見つかったらしい。ローゼ、用心しろよ。相手の射撃能力がどの程度かは分からんが、砲弾が飛んでくるころになるぞ」
『大丈夫よ。こっちを狙う機体は砲弾を放つ前に沈めるから』
クラウスがローゼに警報を発するのに、エーテル通信機のクリスタルの向こうでローゼは肩を竦めてそう返した。
「お前なら大丈夫か」
『私は守ってもらう必要のない可愛くない女だから、ね』
クラウスが安堵したようにそう告げ、ローゼはそうとだけ告げて通信を切った。
「兄貴! 敵の魔装騎士がドンドン来るッスよ! どうするッスか!」
『俺に続いて砲撃を行え。俺についてくれば勝利を与えてやる』
ヘルマは焦っているようで、慌てた様子でクラウスに告げるのに、クラウスは悠然とした様子で応じる。
「全機。斜行陣を組め。第1中隊が先頭、第3中隊が後方だ」
『了解!』
敵の魔装騎士が迫る中で、クラウスたちは走行状態を維持したままに、陣形を楔型から斜行陣に入れ替える。クラウスと第1中隊が先頭に立ち、第2中隊が真ん中に、第3中隊が後方を進み、斜めの陣形を維持する。
「よろしい。全機、陣形を維持したまま俺に続け。ちゃんと付いてこいよ」
クラウスは部下たちを引き連れて、帝国植民地軍の魔装騎士部隊に応じる。
クラウスは斜めの陣形のままに、帝国植民地軍との距離を縮めながらも、僅かに離れるような軌道を描く。その軌道は帝国植民地軍の魔装騎士部隊を正面から捉えるのではなく、側面から捉えるものだ。
「距離1000。撃ち方始め!」
そして、彼我の距離が1000メートルに迫ると、クラウスが攻撃を命じる。
普通、走行中の魔装騎士からの砲撃は命中しない。まして相手が動いているのであれば、まず命中しない。
だが、クラウスたちは命中させた。ニーズヘッグ型魔装騎士の口径75ミリ突撃砲から放たれた徹甲弾は、敵のトリグラフ型魔装騎士の装甲を貫き、敵は操縦席を貫かれるか、秘封機関を貫かれるかして、炎上しながら地面に倒れ込む。
『畜生! 連中、当ててきやがったぞ! どうなってる!?』
『気を付けろ! あれは新型だ! 新型の魔装騎士だ! スレイプニル型じゃない!』
エーテル通信に暗号化されていない混乱した通信が混じり始める。
この帝国植民地軍の将兵たちにはちゃんとした実戦経験があった。中央アジアで王国の東方植民地であるバーラトを巡って、長年戦ってきた経験があった。オンボロのチェルノボグ型魔装騎士で、王国植民地軍のエリス型魔装騎士と戦ってきた経験があった。
だが、その経験の中に走行しながら砲弾を命中させてきた相手との戦闘は含まれていない。そんな敵と戦ったことはなかったし、そんなことをしたこともなかった。魔装騎士は停止してから射撃するのが基本だった。
だが、ヴェアヴォルフ戦闘団は走行しながら砲弾を命中させてきている。停止しながらでもやっと当たるような距離で。
「行進間射撃でも問題なし。いい部下たちだ」
クラウスは敵の混乱した様子を見て、小さく笑う。
クラウスがここまで部下たちと自分の練度を引き上げたのは、ひとえに何度も繰り返された訓練だ。
実戦に則した訓練をエーテリウムの消費量や予備のパーツの損耗を考えずに繰り返す。行進間射撃も、陣形のスムーズな切り替えも、そして戦場において冷静であるということも、全ては訓練の積み重ねがなしえるものだ。
簡単な話のように思えるが、植民地軍では訓練は軽視されている。各国の植民地軍は訓練にかかるコストのことばかり考えて、兵士たちには簡素な的に向けて射撃を行う訓練や、障害物の設置されたコースを移動するという訓練ばかりが単調に、それも僅かな頻度で繰り返されるだけだ。
本国軍とていつも実戦に則した演習をやっているわけではなく、大部分は植民地軍と同じように、コストを抑えた単調な訓練が行われているだけだ。ただ、その頻度が植民地軍よりも多いというだけで。
だが、クラウスのヴェアヴォルフ戦闘団は違う。背後にロートシルト財閥という大物が付き、植民地軍軍司令官直轄という指揮系統にあるヴェアヴォルフ戦闘団は他の部隊よりも数十倍は訓練を行っている。
その訓練量は以前にも記したが、一般的な魔装騎士連隊が消費するエーテリウムの20倍のエーテリウムを消費しているのだから、その訓練の苛烈さが窺えるだろう。
そのような訓練に部下たちが応じるのは、クラウスが常に勝利してきたというカリスマに満ちた人物であることと、彼らが戦闘に勝利すれば、多大な報酬があるからだろう。これが他の植民地軍部隊と一線を画している。
『兄貴! 敵が止まり始めてるッスよ! 何考えてるんッスか!?』
「砲撃するつもりなんだよ。連中の教本には射撃時には停止せよ、って書いてあるからな」
ヘルマが信じられないという声で告げるのに、クラウスがそう返す。
クラウスはノーマンを通じて王国植民地軍と帝国植民地軍の教本を手に入れていた。王国植民地軍の教本には距離が800メートル以上離れ、敵が走行中の場合には停止して射撃せよと書かれ、帝国植民地軍の教本には如何なる場合でも停止して射撃せよと記されていた。
そして、目の前の帝国植民地軍の魔装騎士部隊はローゼたち装甲猟兵中隊から狙われ、クラウスたちから砲撃を浴びているにもかかわらず、教本通りに停止しての射撃を行おうとしている。
「全機、引き続き俺に続け。距離を取るぞ」
クラウスは敵の魔装騎士部隊の側面から砲撃を浴びせながらも、帝国植民地軍の魔装騎士部隊から距離を取り始めた。
帝国植民地軍のトリグラフ型魔装騎士は球状になっていた状態から散開し、互いの射界を確保すると、移動するクラウスたちに狙いを定め、一斉に砲撃を叩き込んだ。
流石は王国植民地軍と長年の間戦闘を行っていた部隊なだけあって、スレイプニル型と同等の機動力で移動するクラウスたちのニーズヘッグ型魔装騎士に、確実に砲弾を命中させてきた。
だが──。
『効果がないぞ!? 当たったはずだ!』
トリグラフ型魔装騎士の口径57ミリ突撃砲から放たれた徹甲弾は、甲高い金属音を響かせて、ニーズヘッグ型魔装騎士の生体装甲に弾かれた。
「アリアネの言っていたスペック通りだな。この距離なら弾くか」
アリアネはニーズヘッグ型魔装騎士は距離600メートルで確実に口径57ミリ突撃砲の砲弾を弾くと告げていた。そして、その情報通りに、ニーズヘッグ型魔装騎士は帝国植民地軍の砲弾を弾いた。
『畜生! 畜生! 魔女のばあさんの呪いか!』
帝国植民地軍の兵士たちは運命を呪いながら、必死にクラウスたちに砲弾を叩き込むも、全ては第3世代型魔装騎士の方針転換によって生まれた重厚な装甲によって弾かれて、虚しい金属音が響くのみ。
「全機、縦列。敵との距離を取りながらこのまま袋叩きにするぞ」
クラウスはそう告げ、斜行陣から縦列に陣形を転換すると、玉になったまま虚しい砲撃を繰り返すだけの帝国植民地軍の魔装騎士を嘲笑うように、グルリと周囲を回る。距離はきっかり1000メートルを維持したままに。
クラウスたちが周囲から次々に砲弾を浴びせかけて帝国植民地軍の魔装騎士が1体、1体と倒れていき、ローゼたちが立ち止まっていい的になった目標に砲弾を叩き込んで、確実に撃破していく。
『このままじゃ全滅するぞ! どうするんだ!』
『平文での通信はやめろ! 敵にダダ漏れだぞ!』
帝国植民地軍のエーテル通信は大混乱のまま、1個連隊はいた魔装騎士部隊は相次いで屍を晒し、もはや1個大隊と僅かだけになっていた。
そこで帝国植民地軍が大きく動いた。
彼らは周囲を翻弄するように周回するクラウスたちに向けて、対装甲刀剣を抜いて突撃してきたのだ。
もはや、砲撃で相手を仕留めることは不可能だと分かった。ならば、近接格闘戦に持ち込むより他ない。突撃砲でも至近距離ならば効果があるはずだという一縷の望みも託して、帝国植民地軍の魔装騎士部隊の生き残りは突撃した。
「紳士淑女諸君。相手さんもいよいよ覚悟を決めたようだ。やるぞ」
『了解!』
ニーズヘッグ型とトリグラフ型の機動力は同等。クラウスたちは距離を取り続けたまま砲撃することもできなくはないが、クラウスは近接格闘戦闘に応じる道を選んだ。これでケリを付けるのだという考えで。
帝国植民地軍の魔装騎士部隊は隊列の何もなく、我武者羅にクラウスたちに突撃してくる。
「そら! 行くぞっ!」
対するクラウスたちは2体1組のフォーメーションで互いの死角をカバーし合いながら、対装甲刀剣を引き抜き、突撃している帝国植民地軍の魔装騎士部隊に応じる。
衝突。
先手を打ったのは帝国植民地軍だ。彼らが振るった対装甲刀剣が先頭を進んでいたクラウスの機体に命中し、激しい金属音が鳴り響く。
だが、効果はない。出鱈目にふるった対装甲刀剣では分厚い装甲を有するニーズヘッグ型の装甲を貫くことは不可能だ。狙うならば人工感覚器か、関節、またはハッチを狙わなければならなかった。
「流石は第3世代。これぐらいは弾くか。さあて、こっちもやり返してやろう」
クラウスは己の対装甲刀剣で自分に向けられた対装甲刀剣を軽々と弾き飛ばすと、右腕に装着されていた対装甲ラムを思いっきり帝国植民地軍の魔装騎士の操縦席に叩き込んだ。
金属音と共に激しい衝撃が走り、タングステンの杭に操縦席を貫かれた機体がビクリと痙攣するように動き、それから完全に沈黙した。
『貴様っ!』
エーテル通信に平文の通話が漏れ、真っ先に帝国植民地軍の魔装騎士を屠ったクラウスに、殺意と憎悪が向けられる。対装甲刀剣を握った機体が押し寄せ、クラウスをバラバラにしてしまおうとする。
「ヘルマ。援護しろ。お客の相手だ」
『了解ッス! 胸躍るッスね!』
クラウスが告げるのに、ヘルマが生き生きとした表情で応じる。
「2匹目」
クラウスは襲い掛かってきた魔装騎士の中から手前の1体を選び、その関節部に対装甲刀剣を突き立て、敵の対装甲刀剣を無力化すると、トリグラフ型魔装騎士の操縦席のハッチに向けて対装甲刀剣を振り下ろす。
撃破。操縦席は貫かれ、対装甲刀剣は真っ赤な血を帯びて、機体から引き抜かれる。そして、そのまま魔装騎士は動かなくなる。
『くたばりやがれ!』
「3匹目」
帝国植民地軍の魔装騎士も実戦を潜り抜けて、訓練されている兵士たちだ。だが、彼らは第2世代以降の魔装騎士の扱いに関しては素人も同然。素早い機体をどのように動かせばいいのか分かっていない相手を屠るのは、クラウスにとっては容易なことであった。
「4匹目」
『どんどんいくッスよー!』
クラウスとヘルマは次々に襲い掛かる帝国植民地軍の魔装騎士を対装甲刀剣で、対装甲ラムで、そして至近距離での突撃砲の射撃で撃破しながら、周囲に屍の山を築き上げていった。
「13匹目。これで終わりか?」
クラウスが1個中隊ほどの敵の魔装騎士を屠ったとき、周囲で動くものは、クラウスたちヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士以外に存在しなくなっていた。
「ローゼ。そっちからは他に増援らしきものは見えるか?」
『見えない。あなたたちが全部撃破したみたいよ。おめでとう』
クラウスがローゼに確認するのに、ローゼが乾いた拍手と共にそう答えた。
「結構だ。では、獲物を仕留めにいこう」
クラウスはそう告げて小さく笑うと、ミグリンの市街地へと足を進めた。
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