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視察

……………………


 ──視察



「紳士淑女諸君。これから帝国の第3皇女であるエカチェリーナ殿下が我々ヴェアヴォルフ戦闘団を視察しに訪れる」


 ヴェアヴォルフ戦闘団の司令部でそう告げるのはクラウスだ。


「ニーズヘッグ型の隠匿は終わっているな?」

「終わったッス。機体は全部、格納庫にシートで二重に包んで入れておいたッスよ。これなら見つけられっこないッス!」


 エカチェリーナがヴェアヴォルフ戦闘団を視察する上で問題になるのは、ヴェアヴォルフ戦闘団が既に第3世代型魔装騎士であるニーズヘッグ型で武装しているという点だ。


 まだクラウスは帝国に自分たちが第3世代型で武装していることを知られたくはなかった。ここで知られてしまうと、後の作戦行動に支障が生じる──何かしらの対策を取られる──可能性があるからだ。


 よって、現在ヴェアヴォルフ戦闘団が保有しているニーズヘッグ型は隠蔽しておくこととした。エカチェリーナがここを訪れる前にヘルマたちがシートで包み、予備機を収容している格納庫にしまった。


 代わりに出してあるのは、不要になり、他の部隊に譲渡する予定のスレイプニル型魔装騎士だ。追加装甲が付けられた大運河強襲仕様のそれが、ヴェアヴォルフ戦闘団の魔装騎士として表に並べられている。


「よろしい。では、粗相がないようにな。相手は帝国の要人であり、これから共和国が帝国との関係改善を目指すうえで必要となる人物だ。いつものようなチンピラの物言いをして、相手の気分を害することがないように」


 クラウスは部下たちに向けてそう告げる。


 だが、既に部下たちは面倒くさそうな顔をしている。自分たちがお偉いさんの接待をしなければならないというのがよほど嫌なのだろう。


 まあ、彼らは今でこそ共和国植民地軍最強の魔装騎士部隊の隊員だが、元を辿ればローゼ以外のほとんどが街のならず者だったのだから、仕方がないと言えば仕方がないのだが。


「これが平穏無事に終わったら俺から特別ボーナスを支給してやる。それから全員に休暇を与える。平穏無事に終われば、だぞ」

「おおっ!」


 クラウスの方も彼らがならず者であることはよく理解しているので、名誉や義務で強制するのではなく、金と休暇を目の前にぶら下げておくことにした。今はクラウスも何かしらの作戦を起こす予定はないので、彼らに幾分かの休暇を与えても問題はない。


 そう、ジャザーイルに帝国海軍の軍艦が訪れるまでは。


「では、改めて注意点を告げる」


 クラウスはひとつ咳払いし、ボーナスと休暇に沸き立つ部下たちを鎮めさせると、今回の視察での注意点の再確認に入った。


「まず下手に皇女殿下と会話するな。お前たちはいらんことを喋る傾向があるし、口の利き方がなってない。特にヘルマ。お前は絶対に皇女殿下と喋るなよ。お前の喋り方は最悪だし、うっかり第3世代型のことを喋りそうだからな」

「ええっー! そんなことないッスよ! あたしはそんなにうっかりしてないッス! ちゃんとしてるッス!」


 クラウスがヘルマに視線を向けて告げるのに、ヘルマがキャンキャンと文句を言う。彼女としては自分の喋り方はちゃんとしているつもりらしい。


「そんなにお前は皇女殿下と喋りたいのか? ローゼを煮詰めて、堅苦しさを足したような相手だぞ。喋っても胃が痛くなるだけで、ボーナスも何もないぞ」

「なら、いいッス」


 クラウスの言葉に、ヘルマがススッと引いた。


「私を煮詰めたってどういう意味、クラウス」

「貴族っぽさの塊みたいな相手ってことだ、ローゼ」


 と、横からローゼが告げるのに、クラウスが肩を竦めた。


「次に演習を行うかと思うが、全力でやっても構わない。わざとらしく芝居をするよりもそっちの方が疑問を抱かれ難い。既に俺たちの戦功は相手に知れているのだから、それにふさわしい動きをしろ」


 エカチェリーナは視察に訪れたら、演習が見たいと言うだろう。ただ、将兵たちと魔装騎士を眺めても分かることは少ないのだ。実際にそれが動いている様子を見なければ何の意味もない。


 よって、クラウスも演習を予定していた。ちょっとした模擬戦を想定し、そこで部下たちの動きを見せる予定だった。


「最後に全員士官らしい行動をとれ。いつものように地面に座って屯したり、服をだらしなく着たり、立ち話に夢中になったりするな。礼儀正しく振るまえ」


 最後にクラウスは溜息交じりにそう告げた。


 戦闘では頼りになる部下たちも、平時には実に頼りない。


 全員が士官だというのに演習場や格納庫前の地面に座ってカードゲームをやっていたり、軍服の着方が滅茶苦茶だったり、人の通る場所で立ち話をしたりと士官としてあるまじき行動を行うことが多々あるのだ。


 クラウスが街のならず者に最低限の学習を施し、植民地軍が魔装騎士の操縦方法と人の殺し方を教えただけだから仕方ないのかもしれないが、ちょっとばかりよそ様には見せられない有様である。


 クラウスの前世の日本情報軍の将兵たちはその点ではしっかりしていたな、とクラウスは僅かに前世のことを懐かしく思うのだった。


 普通は軍隊で、それも既に訓練を終えた部隊でこんな注意は行わないのだから、これではまるで小学生の修学旅行前の注意のようである。


「以上だ。では、全員自分の魔装騎士の点検に入れ。整備に問題があるようならフーゴ特務中尉に告げるように。整備不良で動かなかった、なんて無様な姿を晒したら、俺たちは舐められるから。では、かかれ!」

「応っ!」


 クラウスはそう告げて、隊員たちを解散させた。


「皇女殿下がうちの部隊に来るのね。私たちも随分と有名になったのかしら」

「だろうな。相手はちょっとばかり政治的な意図があって、ここに来たようではあるが、その政治的な意図に俺たちが組み込まれる程度には有名になってる」


 最後まで残っていたローゼが告げるのに、クラウスがそう返す。


「政治的な意図? ロートシルトとの件ではないわよね?」

「違う。来たるべき世界大戦において、俺たち共和国と同盟するか、それとも王国と同盟するかって件だ。この件はちとばかり面倒だぞ」


 ローゼが眉を歪め、クラウスは首を横に振る。


「世界大戦。植民地であれだけ戦争をしているのに、みんなそれを気にしているのね。共和国はまた全てを敵に回して戦争をするのかしら」

「共和国は帝国と手を組みたいらしい。だから、今回の視察が実現した。関係改善という名のご機嫌取りのためにな。無視していい相手なら、わざわざ俺だって手の内を見せるようなことはせん。パトリシアも一昨日は面倒な皇女殿下の接待で死にかかってたぞ」


 ローゼにはまだ世界大戦の実感がないようだが、クラウスもそうだった。


 世界大戦はいずれ起きるだろうが、それはまだ先の話だと思っている。クラウスはあの地球におけるアジアの戦争から国同士の戦争が呆気なく起きるということを知っているが、その彼でも列強が植民地を巡って何度も殺し合っているのに、本国が平和極まりないのを見ると、実感というものが湧かなかった。


「ふうん。また南方植民地総督の娘と楽しんでたのね」

「楽しむ? 爆弾で狙われて、銃で狙われて、街中でカーチェイスをするような羽目になったのにどこで楽しむっていうんだ」


 ローゼが目を細めてクラウスを見るのに、クラウスは大きく溜息を吐いてそう返した。


「そんなに大変だったの?」

「ああ。恐ろしく大変だった。お姫様がふたつに、碌な武器はなし。流石の俺も肝を冷やした」


 そんなクラウスを見てローゼが意外そうに尋ねるのに、クラウスはあの暗殺未遂の現場を思い出しながらそう返す。


「パトリシア嬢は幸せものね。あなたに守ってもらって」


 ローゼはそう告げると、トンとクラウスの腕に自分の肩を寄せた。


「ねえ、クラウス。あなたは守ってあげたい女の子と自分で自分の身は守れる女の子のどっちが好き?」

「どっちか、か」


 ローゼが尋ねるのに、クラウスが顎に手を置く。


「分からんな。手がかかりすぎると面倒だし、まるで手がかからないと可愛げがない。何事もほどほどの奴が一番いいんじゃないか」


 暫し考えた末にクラウスはそう告げた。


「そう。可愛げがない、ね」


 クラウスの言葉にローゼは小さくそう呟くと、そのまま自分の魔装騎士に向かっていった。


「さて、俺も一応は動かせるようにしておくか。どうせ今回も接待役で、魔装騎士を動かしているような暇はないだろうけどな」


 クラウスはうんと伸びをすると、彼も自分の魔装騎士に向かっていった。


 ヴェアヴォルフ戦闘団が拠点を置く第8植民地連隊の駐屯地にエカチェリーナが訪れたのは、クラウスが隊員たちに注意事項を述べてから1時間と30分後のことであった。


……………………

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