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新装備(2)

……………………


 クラウスたちが第9植民地連隊の駐屯地でやることは、第9植民地連隊の司令官に挨拶を行うこと以外にいくつかあったが、残りは纏めて片付けられると思われるものだった。


「随分と遅いお着きで」


 クラウスを第9植民地連隊の駐屯地は隅にある魔装騎士の整備施設──魔装騎士がいないのに、これがあるのは不思議に感じるが、これは魔装騎士の海上移送が仮装巡洋艦に妨害されたためである──に向かった。


 そして、そこでクラウスを出迎えたのは眠そうな目をした、アッシュブロンドの髪を三つ編みにして纏めた女性だった。小柄で年齢は20代前半程度。この植民地軍の駐屯地にあって、軍服ではなく、カーキ色の作業服を纏っている。


「そっちがレムリア重工の、か?」

「その通りデス。自分はレムリア重工のアリアネ・アンファングと言います。どうぞよろしくデス」


 用事のひとつはレムリア重工から派遣された人間に接触すること。


「それで、装備が完成して、引き渡せると聞いたんだが」

「正確には装備の一部が完成して、引き渡してテストしてもらうことができるデス」


 クラウスの言葉に、アリアネが首を横に振って告げる。


「何だ。未完成なのか。未完成の代物を実戦で使うつもりはないぞ」

「あなたの提示した新装備のふたつの提案のうち、ひとつは完成と言っていいほどにできあがりました。ですが、もう一方は依然として研究室から出せない状態デス。だから、一部が完成したといったのデス」


 クラウスが渋い表情を浮かべるのに、アリアネはパチンと指を鳴らした。


 それを合図に人工筋肉で動く作業用の重機の手で運び込まれてきたのは、巨大な木箱だった。レムリア重工のロゴが刻まれた箱で、重機はその箱をアリアネの横においた。


「さて。これはほぼ完成したものの方デス。むしろ、完成したものしか持ってきてないデス。どのようなものかご覧くださいな」


 アリアネはそう告げると、バールをクラウスに手渡した。


「ヘルマ。開けてみろ」

「はいはい!」


 そして、クラウスはバールをヘルマに渡し、ヘルマは新しい武器というのにワクワクしながらバールで箱をこじ開けた。


「……何ッスか、これ?」


 箱の中に入っていたのは形容のしようがない奇妙な代物だった。


 巨大な釘のごときパーツが付いており、それ以外はただ巨大な土台が付いているだけで武器として使えそうなものは見当たらない。


「レムリア重工1888年式対装甲ラム、デスよ。電磁力で突起部を打ち出し、相手の装甲を貫いてダメージを与えるのがこれの役割デス。電磁式なので、チャージに僅かに時間がかかりますが、当初のスプリング式よりいいと思うデス」

「たいそうこうらむ? でんじりょく?」


 アリアネの説明にヘルマの頭の上ではてなマークが浮かびまくった。


「この釘を打ち出して、敵の装甲を抉る武器だ。それだけ理解しておけばいい。対装甲刀剣は些か原始的で、威力も限定されていたが、この武器はある程度の装甲を貫徹できるはずだ」


 クラウスはそう告げて、彼のアイディアが活かされた武器を見る。


 対装甲ラム。所謂、パイルバンカーだ。杭を相手に向けて叩き込み、それによって相手の装甲を破壊し、秘封機関アルカナ・リアクターなり操縦士なりにダメージを与えることが目的の兵器だ。


 クラウスは白兵戦闘での対装甲刀剣の威力不足を感じていた。対装甲刀剣で敵を撃破するには、脆弱な人工感覚器を潰すか、関節部を狙うか、または操縦席のハッチを狙うしかない。それでも、対装甲刀剣がその名に反して、装甲に負けて、折れるということが多々あった。


 よって、クラウスはもっと有力な対装甲兵器として、この対装甲ラムを求めた。電磁力を使った対装甲ラムならば、どんな部位だろうと確実に貫ける。


 電磁力。当初、対装甲ラムは強力なスプリングや火薬の炸裂を使用して、杭を打ち出す予定だった。だが、クラウスが電磁力、つまりはローレンツ力で作動させる方が──秘封機関の容量は食うものの──威力が高く、再利用も容易だと示唆したことで電磁式になった。


 秘封機関はまさに魔法のエンジンだ。装甲を撃破し、敵の脆弱な部位まで食い千切るだけの長さのある杭を打ち出すエネルギーを、つまりは膨大な電気エネルギーを魔術回路に従って流すことを可能にしているのだから。


「これはそっちでテストはしたのか?」

「一応の動作確認テストは。しかし、実戦でのテストはまだデスよ。そんなものはただの一企業にはできないデスから」


 クラウスが尋ねるのに、アリアネが首を竦める。


「で、俺たちにテストをしてこい、と」

「これをご所望なのは今のところあなたたちしかいないデス。他の部隊にテストしてくれるように頼んでもいい返事は返ってこないデス」


 渋い顔のクラウスに、アリアネは淡々とそう告げる。


「まあ、ユーザーがちゃんと使いこなせているかを確認するために、自分がサポートに回ることになっているデス。なので、初期不良やご不満な点などがあれば、遠慮なく言ってほしいデス」


 そう告げるとアリアネは整備施設の隅に置いてある魔装騎士を指さした。そこには既に対装甲ラムを装備したスレイプニル型魔装騎士が1体置かれていた、


「まさか、あの魔装騎士で俺たちに付いてくるつもりか?」

「そのつもりデスよ。ユーザーのお傍で、確実に製品情報を収集するのがエンジニアの務め。戦場は慣れているので、足手まといにはならないデス」


 クラウスが怪訝そうな顔をするのに、アリアネはえへんと年相応に豊満な胸を張って告げた。


「全く、従軍した経験でもあるっていうのか?」

「あるんデスよ。植民地軍に6年いました。クシュを巡る戦争にも参加しましたし、他でも様々な植民地人の反乱に対応してるデス。魔装騎士を動かす腕前を買われて、レムリア重工に入ったようなものデスから」


 アリアネがレムリア重工という巨大企業に入社できたのは、彼女が植民地軍で豊富な魔装騎士の操縦経験があったから。本国軍にはない実戦を経験した彼女の意見は重要であり、かつ若い女性が活躍する話に弱いレナーテの感心を引いて、彼女はレムリア重工にスカウトされた。


 彼女はテストパイロットとして高い手腕を発揮し、そして貪欲な知識欲から魔道工学、死霊術、生体工学という魔装騎士に関する知識を貪るように蓄えていった。


 今では彼女はレムリア重工で最高のテストパイロットであり、有数のエンジニアである。


「そういうことなら構うまいよ。どの道、お荷物を連れて行かなきゃならんのだ。で、この対装甲ラムはどれくらいで俺の部隊の全機に取り付けられる?」

「そっちの整備班の腕前次第デスね。腕がよければちゃちゃっと数十分で取り付けられるデス。腕前が悪ければ、何時間も待ちぼうけする羽目になるだけで」


 クラウスが尋ねるのに、アリアネはトントンと対装甲ラムを叩いて告げた。


「取り付け作業自体は非常に簡単デス。これはラタトスク型から共通している兵器増設ポートに接続して固定し、魔道式演算機ウィズ・システムに必要なプログラムをインストールするだけでいいデスから」


 レムリア重工では自社の製品──魔装騎士関連の製品に共通規格を準備していた。対装甲刀剣にせよ突撃砲にせよ、魔装騎士に装備させるにはただその共通の兵器増設ポートに接続して、共通した固定具で固定し、既存の魔道式演算機にプログラムを追加でインストールするだけでいい。


 こうすることでレムリア重工は魔装騎士の拡張性を増した。レムリア重工製の魔装騎士は、他の魔装騎士よりも将来的に拡張していくことが可能だ。専用の固定具を使い、専用の接続ポートを準備し、専用の魔道式演算機をセットしなければならない魔装騎士よりも。


「俺の部隊の整備班は植民地軍で最高の部隊だ。やり方さえ教えてもらえれば、さっさと終わらせてくれるだろう。その点を頼むぞ」

「はいはい。顧客の満足のためにもエンジニアは頑張るのデス」


 クラウスはトラックで魔装騎士の整備施設に入ってきたフーゴたちを指さして告げ、アリアネはフーゴの方に向かっていった。


「さて、用事はもう1件。これで終わりだが」

「それらしい人はいないわよ」


 クラウスは予定場所である魔装騎士の整備施設を見渡すが、そこにはアリアネとレムリア重工から派遣された整備士に、フーゴたちクラウスの部隊の整備兵ぐらいしかいない。


「いやあ。遅くなりました」


 と、クラウスが時間を間違ったかと思ったとき、後ろから男の声が聞こえた。


 クラウスが振り返ると、そこにはサファリジャケットにサファリパンツ姿の探検家然とした恰好をした30代ほどの男が大きく手を振って歩いてきていた。恰好こそ探検家のようだが、分厚いレンズのメガネをかけ、髭も綺麗に剃られているために、どうにも似合っていない。


「30分前には到着してたんですけどここって意外に広くて、どこに魔装騎士の整備施設があるのか分からなくて。魔装騎士の整備施設なら魔装騎士の姿が見えるだろうと思ったんですけど、これがまるで見えないんですよ。いやはや本当に困ったもので」


 男は息を切らせながら、ペラペラと実によく喋った。


「お前がレナーテの寄越した弁護士か?」

「その通り。SRAGの法務部に勤めておりますダニエル・ダイスラーです。レナーテ・フォン・ロートシルト女男爵閣下の命を受けまして今回ここにやって来た次第です。どうぞよろしく」


 ダニエルと名乗った男はニコリと笑うと、片手を差し出した。


「本当に役割が務まるんだろうな?」

「その点は問題なく。私が法律上の手続きを解消しますので、そちらは軍事上の手続きを解決していただければ、万事上手くいきます」


 クラウスが一応は握手に応じて尋ねるのに。ダニエルは笑みを浮かべたままにそう返す。


「なら、こちらが分捕ったエーテリウム鉱山の採掘権を手に入れられるんだな?」

「ええ、ええ。私どもが“発見者”として権利を主張すればいいだけです。先に王国が見つけていようと、現地の薄汚い植民地人が見つけていようと、共和国において発見したのは我々。全ての権利は我々にある。鉱山開発法第31条です」


 クラウスがレナーテにわざわざこんな弁護士なんぞを寄越すように要請したのは、クラウスの確保したエーテリウム鉱山が確実にSRAGのものになるように配慮するためであった。


 クラウスは鉱山を軍事的に実効支配すれば権利は得られるだろうと最初は考えていたが、共和国は法治国家だ。軍事力で支配して、それで権利が得られるほど簡単ではないとすぐに分かった。


 植民地軍には鉱山を発見しても権利は与えられず、植民地人も同様。鉱山を発見して権利が主張できるのは本国の国籍を有し、鉱山を開発する資産を有するものに限定されていた。資産があるものという制限は、金のないものが権利だけを主張し、共和国に必要なエーテリウムの採掘が行われないという事態を防ぐためだ。


 これは問題になった。


 何せ、折角クラウスたちがヴェアヴォルフ戦闘団を使って鉱山を王国や帝国から奪っても、その権利は後でやってくる入植者たちが手に入れるか、共和国政府が没収して競売にかけるかだ。これではクラウスとレナーテの取り引きは成立しない。


 そこで、クラウスはこの法律的な問題を解決できる人材をレナーテに要請し、レナーテはその要請通りに弁護士をアナトリア地域に送り込んだ。


「つまり、俺たちが鉱山を分捕ると同時に、お前が権利を主張すればいいわけだな。で、そのためにはお前が同行する必要がある」

「恐ろしいことですがその通りです。ロートシルト女男爵閣下は私にキンスキー大尉に同行し、鉱山を獲得してくるようにと告げられました」


 鉱山の権利が与えられるのは第一発見者か、その権利を買ったもの。


 よって、第一発見者をSRAGにするために、レナーテはこのダニエルをクラウスに同行させることにしたのだった。


「最初に発見した、と言っても書類などが必要になるだろう。その準備は?」

「既に提出済みです。アナトリア地域の開発権をSRAGは植民地省から購入しました。どこでも発見しさえすれば、スムーズに開発が行えます。それから最初に発見した際に権利を主張するものとしての書類や、こちらに鉱山開発を行う能力があるということを照明する鉱山開発法第20条に関する書類、それに鉱山開発法第12条と第13条で提出が義務付けられている埋蔵エーテリウム量測定計画書に……」


 クラウスが尋ねるのに、ダニエルはアタッシュケースを開き、あれこれと30枚以上の書類をペラペラとクラウスに説明する。


「もういい、分った。法律と書類仕事は全面的にそちらに任せる。で、最初に発見したと証明する方法は?」

「エーテル通信で植民地省資源開発局に連絡すればオーケーです。最寄の資源開発局の出張所はアナトリアとサウードの国境付近に1箇所あります。魔装騎士のエーテル通信の出力でも十二分に届くでしょう」


 書類にうんざりしたクラウスが話を進めると、ダニエルはアナトリア地域を中心とした地図を広げて指差した。彼の指差した場所にあるのが、クラウスとレナーテのビジネスを成立させてくれるために必要な国の機関だ。


「ああ。敵の妨害がなければ、通信は届くだろう。念のために指揮通信用の大型エーテル通信機も積んである」


 クラウスの機体には指揮官機として、指揮通信に支障が生じないようにする大型のエーテル通信機が搭載してある。出力も普通のエーテル通信機とは桁違いのため、通信の届く範囲も広大だ。


 もっとも、あまり大出力のエーテル通信を行うと、敵に逆探知されて存在を察知される上に居場所を知られることになるので、普段は出力を落として使用している。


「それは結構です。では、私はどうやって部隊に同行すればいいでしょうか?」

「車か何か持ってこなかったのか?」


 ダニエルが満面の笑みを浮かべて尋ねるのに、クラウスが怪訝そうに返した。


「車は乗ってきたのですが、道が悪すぎてタイヤがパンクしてしまいまして……」

「まさか、本国で乗り回すような乗用車で来たのか? オフロード車じゃなくて?」


 ダニエルはどうやら本国の舗装された道路で運転することを想定して作られた車に乗ってきたようで、その人工筋肉製のタイヤは筋肉が千切れ、ゴムからは空気が抜け、動かなくなってしまっていた。


「なら、選択はふたつだ。ひとつ、整備中隊のトラックに乗車して同行する。ひとつ、あそこにいるレムリア重工のエンジニアが乗る魔装騎士に同乗する」


 クラウスは整備中隊のトラックと、アリアネの魔装騎士を指差した。


「そのう。もっとこう、リラックスできる移動手段はないでしょうか?」

「ここがどこか分って言ってるのか? ここは戦場だぞ?」


 弁護士で高給取りであるダニエルにとっては植民地軍の油に塗れた整備兵たちと鮨詰めになって道なき道を移動するのは最低だったし、かといって戦場では戦闘に巻き込まれることが確定しているような魔装騎士も御免だった。


 だが、選択肢は他にない。クラウスが有している安全な輸送手段はそれらだけだ。クラウスのヴェアヴォルフ戦闘団には他にジープなどがあるが、それは前線での偵察に使用されることになっているし、補給中隊のトラックは予定でいっぱいだ。


「はあ。分りました。では、整備中隊の皆様と同行させていただきます」


 しょぼんと肩を落とすと、ダニエルはそう告げた。


「ああ。そうでした、そうでした。名刺をば。万が一、法廷に引き出されたときなどにはこのダニエル・ダイスラーに弁護をお任せください。ロートシルト女男爵閣下のご友人であれば、無料で弁護を行いますよ」

「法廷に引き出される前に手を打ってくれ、弁護士。それが仕事だ」


 いい弁護士は法廷で争う前に事件にケリをつける。クラウスもダニエルが使える弁護士であって、レナーテが使えない弁護士を処分するために送りつけてきたのではないことを祈った。


「ええ、ええ。法廷での争いは金と時間ばかりかかりますからね。それでは、エーテリウム鉱山でお会いしましょう!」


 ダニエルは大きなアタッシュケースを抱えると、イソイソと整備中隊のトラックに向かっていった。


「弁護士。使えない印象しかない。改正農地法が施行されたときに、うちの家も弁護士を雇ったけれど、結局領地は共和国政府に没収されてしまったもの」

「あれは一応は巨大財閥の抱えている弁護士だ。そこら辺の法律相談屋とは違うだろう。そうでなければ困るのはレナーテとて同じだからな」


 ローゼがダニエルの後ろ姿を見て呟くように告げるのに、クラウスがそう返す。


「そうね。利害の一致という簡単な話。でも、共和国最大の大財閥と利害が一致してるだなんて、今でもちょっと驚く。少し前は没落貴族のひとり娘だったのに」

「言っただろう。大金持ちにしてやるってな」


 ローゼとクラウスはそう言葉を交わすと、整備中隊のフーゴにアリアネから渡された新装備を、ローゼの装甲猟兵中隊を除く全魔装騎士に取り付けることを命じた。


 そして、それを命じられたフーゴはアリアネから装備の説明を受け、プログラムの刻まれた魔道式演算機用のパンチカードを受け取った。この世界では未だにプログラムはパンチカード方式だ。


 装備の転換はフーゴたちの手際がよかったこともあって、2時間で全機の装備の追加が終わり、加えて長旅での損傷がないかのチェックも済み、ヴェアヴォルフ戦闘団は戦闘準備を完了した。


 クラウスたちがアナトリア地域で、野望を果たすべきときが迫っている。


……………………

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