ベヤズ霊山強奪
……………………
──ベヤズ霊山強奪
エステライヒ共和国、ルーシニア帝国と同盟。
この知らせは各地に衝撃を与えた。
アルビオン王国政府はついに列強2ヶ国を同時に相手にするのかと身構え、共和国の市民たちは未だに古臭く、非人道的なツァーリズムが維持されている帝国と本当に同盟できるのかと疑問を抱き、帝国の軍部は共和国の実力がどの程度かを試す機会だと策を講じる。
そんな疑念と陰謀の蠢く中心地はアナトリア地域。
列強3ヵ国全てが狙う獲物はアナトリア地域という熟れた果実。
「同盟の正式な布告で、戦線は動きそうだな」
クラウスは第9植民地連隊の駐屯地から移動した前線付近の村でそう呟く。
住民はクラウスたち植民地軍が迫ると逃げ去った。植民地らしい簡素な木造の家屋には生活の臭いが残ったままであるところを見るに、彼らは着の身着のままで逃げ出したようだ。
クラウスたちはそんな村に司令部を設置し、全てのアナトリア地域に展開する共和国植民地軍を指揮するアナトリア方面総軍から入ってくる敵味方の位置情報を地図に記していった。
「兄貴ー。まだドンパチしないんッスか? 新しい装備は凄いクールだし、あたしは早くドンパチしたいッスよー」
そして、そんな地図が広げられたテーブルの上ではヘルマが行儀悪くペタリとへばっていた。
「俺たちだけが勝手に動いても効率が悪い。折角だから、友軍の動きに乗じて行動する。そろそろ味方も敵も大きく動くはずだ。この配置からするとな」
クラウスの地図にはアナトリアに展開している共和国植民地軍と帝国植民地軍の全部隊の配置、そして把握されている王国植民地軍の配置が記されていた。
共和国植民地軍はサウードと本国を後方とし、サウードから展開した部隊はシリアに該当する部分と、アナトリア南東部に展開している。本国から展開した部隊は地球ならばイスタンブールがある地点を越え、アナトリア西部に展開している。
そして、同盟国である帝国植民地軍もメディア──イランに該当する国家──と本国を後方とし、メディアと本国から展開した部隊は共にアナトリア東部で、共和国植民地軍と共に展開している。
対する王国はエジプトとその周辺に相当するミスライムを中心として展開し、アナトリア地域のシリアとイスラエルに相当する部位に1、2個師団を配置。残りは海路でアナトリアに上陸し、カッパドキアに相当する部分であるベヤズ霊山と、港湾都市を結ぶ線を防衛するために展開している。
共和国植民地軍は僅かに増援を受けて6個師団に増加。帝国植民地軍は5個師団。王国植民地軍は更に増援を受けて12個師団に膨れ上がっている。王国政府は他の植民地で活動している植民地軍をも動員して、アナトリアの刈り取りに本気になっているようである。
「王国が西部で動きそうね」
「ああ。共和国植民地軍は馬鹿なことに各個撃破してくださいと言わんばかりの展開をした。王国は西部で共和国を叩いて、反転し、東部で共和国と帝国の本隊とぶつかるだろう」
ローゼが地図を見て告げるのに、クラウスが頷いて返した。
共和国は本国までの緩衝地帯を確保することに必死であり、兵力が分断されていることにも構わずに本国から2個師団の兵力をアナトリアに送り込んだ。だが、これは12個師団を有する王国植民地軍にとっては格好のカモだ。
王国は西部で数において劣勢の共和国植民地軍を打ち破り、西部での安全を確保したら、反転攻勢して、東部において共和国と帝国を蹴り出すことにかかるというのは簡単に予想できることだった。
「むしろ、ここまで露骨だと罠だと思って食いつかないという可能性はない?」
「罠だろうがなんだろうが、西部で2個師団がうろついているのは邪魔だ。時間のかかる東部に仕掛けているときに、背後を突かれるのは煩わしい」
ローゼの言うように本国から展開した共和国植民地軍は王国にとってあまりにいい獲物すぎる。これを罠だといぶかしんで、王国が無視する可能性がないわけではなかった。
だが、クラウスは王国は間違いなく西部を叩き潰すだろうと判断した。そうでなければ、数において拮抗している共和国、帝国の植民地軍とやりあっている間に、僅かに2個師団とは言えど攻勢をかけられれば面倒なことになるが故に。
「なら、どう動くの、クラウス?」
「王国が西部に向けて動いたと同時に、東部で仕掛ける。時間との勝負になるが、俺たちの即応性を考えればできないことではない」
クラウスの案は王国が本国から展開した共和国植民地軍を叩き潰さんとする瞬間を突いて、東部において攻勢を仕掛ける案だった。
「あなたのことだから、既に計画は提出済みなんでしょうね」
「ああ。ファルケンハインの親父の名前付きで、作戦計画を提出しておいた。ヘンゼルの親父は嫌な顔をするだろうが、気にすることはない。俺の計画は参謀部の作戦課長ごときに止められることじゃないからな」
クラウスの東部における攻勢案は既にアナトリア方面総軍司令部に提出されていた。植民地軍司令官であるファルケンハイン元帥の名前が付いた計画を無下にできるわけもなく、クラウスの提案は受け入れられるだろう。
「問題は?」
「帝国植民地軍の動きだ。奴らにどこまでやる気があるのか疑問だ」
クラウスの懸念は帝国植民地軍の動き。帝国植民地軍の質は、共和国植民地軍や王国植民地軍よりも圧倒的に劣る。それがどこまで戦えるものか。
「キンスキー大尉! 通信です!」
「読み上げろ」
クラウスたちが作戦会議を行っていたとき、将校のひとりが通信文を持って駆け込んできた。
「“共和国植民地軍はこれより大攻勢を開始する。ヴェアヴォルフ戦闘団は友軍を適時援護しながら、エーテリウム鉱山の確保を目指すこと”だそうです」
「上出来だな」
クラウスの計画通り、共和国植民地軍は東部での攻勢を開始した。
「ヘルマ。実戦の時間だ。実力を示せ。背中は任せるぞ」
「了解ッス、兄貴!」
今までは退屈していたヘルマが水を得た魚のように生き生きとする。
「ローゼ。副隊長として万が一の場合は任せるぞ。それから今回は装甲猟兵中隊が大きく活躍するだろう。相手は魔装騎士で武装しているらしいからな」
「任せて」
そしてローゼはいつものぶっきらぼうな返事を返す。
「では、行くぞ。俺たちの野望のために」
……………………
……………………
「クソ! 機関銃が据えられてて、碌に動けないぞ!」
共和国植民地軍は東部において攻勢を始めたが、上手く行っているとは言い難かった。王国は共和国の侵攻に備えて、厳重な防御陣地を構築し、歩兵と砲兵しかいない共和国植民地軍は苦境に立たされていた。
『こちらヴェアヴォルフ戦闘団。そちらの援護に回る』
と、共和国植民地軍の周波数で、そのような呼びかけがあった。
「ヴェアヴォルフ戦闘団? ああ。ヌチュワニンのか。何にせよ、魔装騎士は歓迎だ。あの忌々しい機関銃を吹き飛ばせる」
東部の攻勢に参加していた歩兵部隊の大尉は安堵の息を漏らす。
この大尉が想定していたのは、ラタトスク型魔装騎士のノッソリとした動きであり、援護に回るという連絡があっても、実際に援護が行われるまでには時間がかかるだろうと思っていた。
だが、支援はすぐに行われた。
機関銃の据えつけられていた塹壕が焼夷弾で焼き払われ、馬や自動車よりも速い速度で駆ける第2世代型のスレイプニル型魔装騎士は、大尉の歩兵部隊を颯爽と横切り、そのまま塹壕に飛び込むと、砲弾の雨を浴びせて、王国植民地軍の塹壕を血と肉の宴に変えた。
「な、なんだ、あれは……?」
歩兵部隊の大尉は何が起きたのかを理解することもなく、クラウスたちの魔装騎士は飛ぶような速さで駆け抜けていき、そのまま姿を消した。
「王国軍に対装甲砲はあまり配備されていないな。こちらが魔装騎士をそこまで配備していなかったから油断したか、それとも魔装騎士で相手をするつもりか」
クラウスは真っ直ぐベヤズ霊山に向けて突き進みながら、戦況を把握する。
これまで何度か王国植民地軍の兵力と衝突したが、彼らが有しているのは精々機関銃程度で、魔装騎士を撃破するにはナセル族がやったように梱包爆薬を纏めて運用するより他なかった。
だが、王国には最大の対魔装騎士兵器である魔装騎士が存在する。
配備されているのはサイクロプス型だろうが、それでもそれなりの脅威だ。サイクロプス型の6ポンド突撃砲はスレイプニル型の魔装騎士の装甲を抜くことができる。
『兄貴。このままベヤズ霊山って場所を目指すんッスか? 友軍が付いてくるのを待たなくていいんッスか?』
「構わん。俺たちほど機動力のある部隊を止めることは容易ではないし、王国軍の大部分は友軍が受け持っている。俺たちはこのままベヤズ霊山を目指し、エーテリウム鉱山を手に入れるぞ」
クラウスたちは電撃的に王国の戦線を食い破っている。かつて地球は第二次世界大戦において“幽霊師団”と呼ばれたロンメル将軍の部隊のように、安全なはずの後方に突如として姿を現すヴェアヴォルフ戦闘団に王国は対応しかねていた。
突如として後方に姿を現し、兵站基地を破壊し、司令部を襲撃し、後方連絡線を撹乱するヴェアヴォルフ戦闘団。彼らのこの撹乱のおかげで、共和国植民地軍は勢いを得た。
そんなクラウスたちの目的は大規模なエーテリウム鉱山が発見されたベヤズ霊山だ。そこを目指して、クラウスたちはエーテリウムを現地調達しながら、前へ、前へと前進を続けていた。
そして、クラウスたちが王国植民地軍の後方地域を撹乱するのに乗じて共和国と帝国も動いており、戦線は徐々に共和国と帝国がアナトリア地域を奪い返すようになっていた。
『補給は本当に大丈夫なの?』
「大丈夫だ。砲弾は節約して使っているし、友軍が戦線を押し上げているから、補給中隊を後方に送ることもできるようになる。心配することはない」
ローゼが険しい表情で尋ねるのに、クラウスは悠然と返した。
エーテリウムは現地調達できるが、弾薬はそうはいかない。王国と共和国の弾薬は共通ではなく、敵から奪っても使えない。まだ鹵獲した敵の装備を使うということも、レムリア重工の共通規格によって不可能だ。
よって、ヴェアヴォルフ戦闘団の生命線である補給中隊はどうあっても後方の友軍勢力下に送らねばならない。クラウスは補給中隊のトラックを鹵獲した王国のものにし、兵士たちに王国植民地軍の制服を着せ、それで偽装して王国の後方地域から、友軍の勢力下まで物資を受け取りに行かせていた。
『相変わらずの自信家。それだけ自信があるとこっちも安心する』
「指揮官は弱いところを見せるべきではないからな。指揮官が恐怖すれば、それは兵卒に伝染する」
ローゼは呆れたような、感心したような言葉でそう告げ、クラウスはそう返す。
「さて、ベヤズ霊山まで残り12、13キロメートルだが」
クラウスはそう告げて。周囲を見渡した。
前方に高く聳える緑に覆われた山がベヤズ霊山だろう。そして。その周囲にはベヤズ霊山を守るために展開している王国植民地軍の大部隊が存在していているはずだ。
「一度ここで待機しろ。確認することがある」
『了解。あなたがいない間の指揮は引き継ぐ』
クラウスは魔装騎士を駐機状態にし、魔装騎士から降りた。
「ヘルマ。お前も来い。俺の護衛だ」
『了解ッス』
続いてヘルマの魔装騎士が駐機状態になり、ヘルマが機体からピョンと飛び降りた。
「兄貴。何を確認するんッスか?」
「現地の地形がどうなっているかと今後の情勢について、だ」
クラウスはそう告げると、クラウスの魔装騎士の背中に搭載しておいたジープを降ろし、それに乗るとベヤズ霊山へと進み始めた。
「でかい山ッスねー」
ベヤズ霊山はその名に恥じない神秘さを持った高い山であった。恐らくは富士山よりも一回りは大きく、周囲はエーテリウムの影響で異常成長した植物で覆い尽されている。
「あそこだな」
クラウスはそんな山を確認しながらも、山の付近にある村落にジープを走らせた。
「よう、大将。随分と早く着いたな」
村落の集会場と思しき場所では、市民協力局のノーマンが、煙草を吹かしながらクラウスを待っていた。
「このパーティーに遅れると大金を台無しにするからな。で、王国の連中の様子はどうだ?」
「ちいと不味いことになってる」
クラウスが問うのに、ノーマンは渋い表情で煙草を咥えた。
「不味いこと? 何が起きた?」
「連中、本国軍を投入しやがった。魔装騎士部隊を中心に、本国軍が2個師団投入されている。これは明らかに不味いだろう?」
本国軍。それは植民地戦争では絶対に姿を現すことのない部隊。植民地軍とは桁違いの精鋭。それが投入されたとノーマンは告げている。
「ほう。共和国と帝国とが同盟したことに焦ったか」
「そんなところだろうな。帝国と共和国が同盟して数の上ではトントンになった。となると質ででも挽回しなけりゃ、列強2ヶ国を同時に戦うのは難しいって話だ」
共和国と帝国の同盟は王国に衝撃を与えた。これまで絶対に手を組むはずがないと思われていた2ヶ国がアナトリア地域に関して同盟し、自分たちの敵になったのに、王国は焦りを覚えた。
今は数において僅かにでも優勢だが、このまま戦いが続くならば、数においても挽回される恐れがある。時間が経つごとに自分たちは不利になる。
そこで本国軍の投入だ。
質で勝る本国軍を投入することによって占領の既成事実化を急ぎ、共和国と帝国の同盟軍を破る。それが王国政府が決定したことであった。
「しかし、本国軍の投入とは王国も思い切ったことをする。下手をすれば世界大戦だぞ」
「そこら辺は上手に偽装しているさ。魔装騎士部隊はわざわざ旧式の第2世代型での武装に切り替え、歩兵部隊の装備も植民地軍基準に引き下げてある。このアナトリアは下手に突くと本当に世界大戦だからな」
クラウスが呆れたように告げるのに、ノーマンが支援を漏らしながらそう告げた。
アナトリアは共和国と帝国の両列強と国境を接する地域である。そんな場所に本国軍を投入して、全土を支配しようとすれば、それは植民地戦争ではなく、本国への挑戦だと思われるだろう。
それを防ぐために王国は本国軍の装備を植民地軍より僅かに優っている程度にまで引き下げ、ふたつの列強を刺激しないように配慮した。これで本当に共和国と帝国が自分たちの本土への危機を感じるか、感じないかは分からないが、少なくとも王国には世界大戦を始めるつもりはない。
「王国は本国軍を投入。植民地人どもは?」
「半分は王国に反発して、半分は王国に協力してる。分断統治さ。いつもおなじみのな」
分断統治。サウードで共和国が行っているように、ひとつの部族を優遇して支配階級に据え、別の部族を冷遇する。そうやって、自分たちに向けられる憎悪を分割する統治方法。
当然ながら、王国も共和国と同じことをやっている。むしろ、最初に分断統治を始めたのは王国だ。
「反発している部族に反乱の兆候は?」
「そんなもの、王国が叩き潰しているさ。植民地人どもには期待するな。空気のようなものだと思っておけよ。植民地人に期待するほど馬鹿なことはない」
クラウスはベヤズ霊山で反乱でも起きれば自分たちに優位になると思ったようだが、反乱の動きは反乱を誘発させる任務を担った部署であるノーマンの市民協力局でも確認できなかった。
「ああ。それから本国軍から精鋭が送り込まれている。ウィルマ・ウェーベルって女軍人だ。凄腕の魔装騎士の操縦士らしいが知ってるか?」
「いや。生憎、俺が知ってるのは植民地に関することだけだ。本国軍のエリートの話なんて知らないし、興味もなかった」
ノーマンが1本目の煙草を床に押し付けて火を消し、2本目にマッチで火をつけるのに、クラウスが首を振って返した。
「なんでも相当優秀な奴でな。魔装騎士3、4体で、1個歩兵連隊と1個魔装騎士大隊を全滅させたことがあるらしい。こんな奴を投入してくるってことは王国もかなり本気だぞ、これは」
ウィルマ・ウェーベル子爵。本国軍では白騎士と呼ばれ、優秀な魔装騎士の操縦士として知られる人物。そして、このアナトリア地域に王国の切り札として投入された人物。
「待てよ。ウィルマ・ウェーベルの名前は聞いたことがあるぞ。確かヌチュワニン鉱山を襲った連中の口からそんな名前が出ていた。ウィルマ・ウェーベルから訓練を受けたとかなんとかな」
不意にクラウスは自分がウィルマの名前を聞いたことがあることを思い出した。そうヌチュワニン鉱山を襲撃した王国植民地軍の魔装騎士乗りたちを尋問した時に、彼らの口からウィルマ・ウェーベルという名前が出ていた。
「ほう。その連中、強かったか?」
「全く。軽く捻れる相手だった。この程度の訓練しか施せない相手ならば、さして気にする必要もないか」
ヌチュワニン鉱山を襲った王国植民地軍は数の有利があったにもかかわらず、クラウスたちのヴェアヴォルフ戦闘団を前に敗れ去っている。
「だが、油断はするまい。相手が軍のプロパガンダで有名人になっているにせよ、実際に実力があるにせよ、立ち塞がるならば全力で叩き潰すだけだ。敵を殺すのに手は抜かん」
「おうおう。ついこの間まで街のならず者を率いてた良家のお坊ちゃんの台詞とは思えんね。まるで本物の軍人みたいな台詞じゃないか」
クラウスが告げるのに、ノーマンがクスクスと笑う。
「俺は軍人だとも。今も昔も。ただし、忠誠なき軍人だがな」
クラウスは最後にそう告げて、ノーマンのいた家屋を去った。
「兄貴。市民協力局のおっさんとの話は終わったッスか?」
家の外ではヘルマがカービンモデルのMK1870小銃を手に警戒していた。
「終わった。王国は本国軍を動かしたらしい。そう簡単にはいかなくなったぞ」
「げっ! 本国軍ッスか!? 植民地戦争に本国軍が出てくるなんて反則じゃないッスか! 王国の連中はズルばっかりするッス!」
海では仮装巡洋艦で航行を妨害し、陸では部族に反乱を起こさせて路線を塞ぎ、アナトリア地域では本国軍が出撃してくる。ヘルマには王国はズルばかりしているように思えてならなかった。
「戦争はもっとも嫌がらせの行われる人間の営みだ。ズルなんて言葉はない。どんなことをしようとも勝ちさえすれば、それでいい」
クラウスはそう告げながら、ジープのエンジンをかける。それと同時に秘封機関が作動する低い音が響き、ガタンガタンと何度かジープが揺れる。
「ヘルマ。行くぞ」
「帰るんッスか?」
運転席に座ったクラウスが告げるのに、ヘルマがチョコンと首を傾げながら、ジープに飛び乗った。
「まさか。これからが本番だ。そう偵察っていう重要な仕事のな」
クラウスはそう告げると、ベヤズ霊山に向けてジープを走らせた。
……………………




