内通者
ルセランテは、全てを見ていた。
影で作った小動物や虫を通して、国中の混乱を見ていた。
毒を作り、ネズミに散布させて、疫病を発生させた。
虫を使って蝗害を引き起こした。
国政会議での出来事を記録して、村々に流した。
面白いほどに、順調にことが進んだ。
ルセランテは一人の部屋で、終始ご機嫌だった。
全てルセランテの手によってなされたことなど、誰も気がついていない。
気がつくはずがない。
国中が混乱している今、幽閉して何もできないルセランテを気にするものなどいないからだ。
ルセランテは王城中の情報を集めている時、偶然クライス王国の内通者を何人か見つけていた。
他の国の内通者もいたが、一番多くて内部に入り込んでいたのがクライス王国だった。
確かクライス王国は、この大陸の覇権を狙っている野心家の国王が治める国だったはず。
ルセランテの最優先の復讐相手は国王。
次に王族。
そして貴族。
それらを苦しめるためにこの国の市民を利用したが、事が終われば市民に用はない。
クライス王国にあげるのも、いいかもしれない。
そうなれば、内通者に間に入ってもらって、あちらの国王と話し合いをする必要がある。
もしこちらの復讐を邪魔するつもりなら、あちらの相手もしないといけなくなるから。
さて、どうやって接触するか。
そこが問題だ。
猫か鳥か。
「猫にしましょう。さあ、可愛い子。手紙を届けてちょうだいね。」
陰を潜り、目的の人物の近くに送り込む。
「ちゃんと今夜、来てくれたらいいのだけど。」
ルセランテは、今夜のために仮眠を取ることにした。
深夜。
微かな月明かりが差す中、蠢く影があった。
影から影へ移動してきたルセランテだ。
待ち人は……近くの木の影から気配がするので、来てはいる。
姿を見せるつもりは、ないみたいだが。
それはルセランテも同じ。
こちらも影に隠れているのだから。
「こんばんは。いい夜ね。逢瀬には、最適だわ。」
「お前は、誰だ?手紙を送ってきたのはお前だな。」
「ええ。ルセランテと言えば、わかるかしら?」
「『傾国の魔女』……」
「その呼び方、嫌いなの。やめてくれない?手元が狂ってしまうわ。」
ルセランテは影から影を伸ばし、正確に相手の首を捉えていた。
「っ……失礼した。なんと呼べば?」
「ルセランテと呼んで。」
「わかった。早速だが、用件は?」
「あなたの主人、クライス国王に伝えてもらえる?今は私の舞台なの。終わったらいらないから、それまで待っていてほしいの。」
「伝言は伝える。だが、主人が承認するとは限らない。」
「それは仕方ないけど、そうなったらあなたの国も私の舞台にあげるわ。滅びたくなければ、今はまだ大人しくしていて欲しいわね。」
「……伝えておく。」
「ふふっ。ありがとう。それではね。いつも見ているから、返事が来た頃にまた連絡するわ。」
一方的に話だけ告げて、再び冷たい部屋に戻ったのだった。




