表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生したらゾンビでした  作者: 矢倉
14/269

ゾンビ、噂を耳にする

「けんかすると、吸血鬼に連れていかれるよー!」


突然、すぐそばで声が響いた。

私はびくりと肩をすくめて振り向く。


見れば、小さな子供が石を蹴りながら通り過ぎていくところだった。

その瞳は無邪気そのもので、私たちの会話などどうでもよさそうに、ぴょんぴょんと跳ねながら消えていった。


「……吸血鬼?」

「へぇ、このあたりにも伝承があるんだね」


ユエルはそういって、遠くの山を見つめた。

山には夕日が掛かり、空は夕暮れから夜へと向かっていた。


「“北の山には吸血鬼が棲んでいて、悪い子は連れていっちゃう”ーー昔からよくある、おどし文句の一種かもしれないけど、ね」


そう話していると、本屋の店主が話しかけてきた。


「気にすんな、ああいうのは昔からある迷信だ。信じるだけ損ってもんだよ」

「でも、伝承には元になるお話があるって、よく聞きますけど……」

「まぁな。でも、もし本当に吸血鬼がいるんなら、悪い子供じゃなくて、悪い大人を連れてってほしいもんだぜ」


店主の声はひそめられていたが、言葉には棘があった。


「この村の領主はなぁ、必要以上に税金を取り立てて、領民の暮らしは苦しくなるばっかりだ。それだけじゃねぇ……裏じゃ、子供の売買もしてるって噂もある」

「……え?」


私の背筋に冷たいものが走る。

店主はちらりと周囲を見渡し、さらに声をひそめた。


「……冒険者なんだろ?王都に行くんなら、ついでにチクっといてくれよ。ああ、もちろん、俺が言ったなんてのはナイショでな」


私とユエルは顔を見合わせる。

信じがたい領主の悪行。

そして、それを誰も口にできないまま、うすぼんやりとした空気の中にのまれている村。


「ユエル……これ」

「うん。なにか起きるって顔してるよね、この村」


―――


私たちはひとまず本屋を離れ、こっそりと村の一角にある領主の屋敷へと向かった。

夜を過ごす場所は決まった。

領主の家の馬小屋。

何かが起こるとすれば、きっとここだ。息をひそめ、わらの敷かれた床にしゃがみこむ。


「わらのベッド……」


決意を固めながらも、私はふわふわベッドへの未練をまだ捨てきれていなかった。


「寝られるかは微妙だけど、寝転がるくらいはできるよ」


順応性が高いユエルは、気にしないようだった。

ため息をついて、馬小屋のわらの上に寝転がる。


「ふわふわのベッドで一度は寝たかった人生だった……」

「もう死んでるけどね」

「…ちょっと静かにして」


馬小屋の干し草は、意外と温かかった…気がした。気がしただけだ。



―――



時間が過ぎていく。

外は次第に暗くなり、すっかり夜になった。

山間の風が吹き、月が雲に隠れ、次第に冷え込んでくる。

草木も眠ったように静まり返った深夜。

今日は何も起きないのかと、そう思い始めたときだった。



「ぎゃああああああっ!!!」



屋敷の中から、悲鳴が上がった。

それは驚き、恐怖、混乱、すべてが混じりあった、生々しい絶叫。

私とユエルは顔を見合わせ、一瞬の間もなく立ち上がった。


「……行くよ」

「うん!」


屋敷の明かりが揺らめく。

窓の向こうに、人影が走るのが見えた。

風が吹き、雲が流れーー

月が姿を現す。


そして月光の下で見えたのは、ガラスが割れ、血を滴らせた窓。


「ユエル……まさか、本当に……」

「うん。ノア、今夜は眠れないかもね」


ついに、探していた者と邂逅する瞬間が近づいていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ