第53話 魔王の最強スキル
俺は全ての技を繰り出し、ラブクラフトに攻撃を与えた。
しかし粉々にしても再生してしまう。
『…………』
この野郎、マジか。
不死身なのか……!?
「無駄だ、エルド! ラブクラフトを殺すことはできん!」
高笑いするオルジスタ。
先にヤツをぶっ飛ばすか。いや、そんな余裕はない。
ラブクラフトに対してカルペ・ディエムを何十回と乱発しているが、まるで効かない。
どうすりゃいい……!!
『……ギギギギ』
動き出す触手。ラブクラフトの反撃がはじまり、俺は回避するしか術がなくなった。
「くそ、くそ、くそ、くそおおおおおおおおお!!」
なにか方法はないのか!
不死身のバケモノを倒す策は!!
なにか、なにか……!!
「エルドさん!!」
空から声がした。
お、おい……オーロラ! お前まだ避難していなかったのか……!
「ダメだ、逃げろ!!」
「嫌です!」
「へ」
「わたくしは、常にあなたと共に!!」
ぴゅ~~~んと振ってくるオーロラ。ちょ、おい! マジかよ!!
落下地点に向かい、俺はオーロラをキャッチ。筋力があって良かったぞ。あとオーロラ自身が軽くて助かった。
「お、お前な……!」
「えっへへ。ごめんなさい。でも見捨てられなくて」
「見捨てるとかじゃない。俺はオーロラが……大切なんだ」
「……そ、それは嬉しすぎです」
顔を真っ赤にするオーロラは、めちゃくちゃ照れていた。
という俺も心臓バクバクだ。
ああ、そうか。
こんな状況になって俺は気づいたよ。
俺はオーロラが“好き”なんだ。
ずっとずっと好きだったけど、なぜか気づこうとしなかった。
多分今まで必死に人々を助け、そんな余裕がなかったからだ。でも、今こんな絶望的な状況に陥って認識した。
この戦いに勝利して、コイツと共にスローライフを送りたい――と。
死ぬわけにはいかない。
「一緒に戦ってくれ」
「はいっ!」
まずはラブクラフトをぶっ倒す。
改めて聖剣アルビオンを向け、構えた。
オーロラも手を向ける。
「は、はは! 聖女オーロラを味方につけたところで状況は変わらんぞ!!」
「それはどうかな?」
「まあいい。お前の半殺しにしてオーロラは全裸にして犯す!! お前の前の前で何度も何度も何度も何度もだッッ!!! 寝取ってやる! 寝取ってやる! 寝取ってやるうううううううう!!!」
ついにトチ狂ったかオルジスタ。
俺はもうコイツを人間だとは思わない。
ゾンビ薬を作り、人々をゾンビに変え……こんな醜いバケモノまで作り上げた。
つまり、コイツは『悪魔』である!!
「くらえッ!! テンペスト!!」
嵐を起こし、ひとまずは時間を稼ぐ。
オーロラも続き、聖属性魔法を放つ。
「ホーリークレスト!!」
聖女の輝きがラブクラフトに命中。すると、妙に動きが鈍っていた。
ん、まさか!
あのバケモノ、聖女の力には弱いのか!
「オーロラ、そのスキルを続けてくれ! 出来る限り!」
「解かりました!」
手を翳し、ホーリークレストを連発するオーロラ。その度にラブクラフトは動きが止まっていた。
やっぱり!!
「ど、どうした、ラブクラフト! なぜ動かん!!」
急な事態にオルジスタも慌てていた。
そうだ、あのバケモノも元はゾンビ!
一番の弱点は聖女の『浄化』である。
そうか、オーロラがいればこんなに楽になるんだな。一人より二人だ。力を合わせてヤツ等をぶっ潰す。
ならば、俺はラブクラフトに更なるダメージを与えていく。
聖剣アルビオンで触手をぶった切っていく。
これで少なくともオーロラは狙われない。
この隙にオルジスタへ接近。
「なに立ち尽くしているんだ!」
「エルド! 私がただ立っているだけと思ったか!!」
懐からポーション瓶を取り出すオルジスタは、それを投げつけてきた。ゾンビ薬か!
もちろん、俺は剣で叩き切った。
「こんなもの!!」
「クソが! クソが! クソが!!」
何度も何度もポーション瓶を投げてくるが、無駄だ。
「これで!」
「……フッ」
その時、オルジスタは悪魔のように笑っていた。
なんだこの余裕。
なにかある!!
まさか!
オーロラの方を向くと、ラブクラフトが動き出していた。
「なにをする気だ!!」
「聖女オーロラをゾンビにする!!」
「てめえええええッッ!!」
いや、こんな野郎に構っているヒマはない。俺はオーロラを助ける!!
急いで向かうが、ラブクラフトの大きな口が開いていた。あの動作は初めてみる。秘策ってことか!!
「……!」
オーロラは恐怖で立ち尽くしていた。
「逃げろ!!」
「…………」
だめだ。恐怖で足がすくんでいるんだ。
なんとか間に合え――!!
しかし、ラブクラフトは素早い動きで口からゾンビウイルスらしきものを吐き出していた。多分そうだ。
まずい!!
テンペストで……ハッ、魔力切れだと!
「ちくしょおおおおおおお!」
「ははははは! エルド! お前はまた大切なものを失う!! 何度も何度も失う! お前はNTR勇者なんだからなァ!!」
……それは違うだろ!
ともかく、俺は……む?
『ドオオオオオオオオオオオオオオ……!』
急に目の前で爆発が起き、黒い影がオーロラを救出していた。
なんだ?
「死んだか!」
「いや、オーロラは生きているぜ」
「なんだと?」
よく見るとオーロラは小さな影によって守られていた。あれは恐らくそう……。
「勇者さま! オーロラ様を助けました!」
「ナイス、ネクロ!」
「あのバケモノ。倒しましょうか?」
「……倒せるのか?」
「はい。一発でいけると思います」
「…………よ、よし。やっちまえ?」
いやまさかな。魔王かもしれないとはいえ、そんな実力は――。
「ではいきますよ~! 終焉の煉獄・アルキメデス」
ずどぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんと、とんでもない轟音と破壊的魔力が飛び出し、太陽のような熱光線がラブクラフトの胴体を貫通。
爆炎が上がって、粉々になっても尚燃え続けていた。
「…………えぇ」
終焉の煉獄・アルキメデス。
あれは間違いなく魔王ネクロヴァスの最強スキルだ。
やっぱりネクロは……。
「ば、馬鹿な! 私の子が……ラブクラフトが!!」
その場に崩れるオルジスタ。
再生しようとしても煉獄の炎によって何度も燃やされていた。あれでは消滅しかない。
「ネ、ネクロちゃん凄すぎです!」
「がんばりました、オーロラさん!」
がんばりすぎだろう。
あとで聞くとして、先にオルジスタだ。
俺は、今までの恨みと怒りを込めて拳でヤツの顔面をブン殴った。
「オルジスタ!!」
「――ごほおおおおぼあああああああああああ…………!!!」
顔面がグニャグニャになって崩壊するオルジスタは、砂漠の中を何十回転もして転げ回っていった。
ようやく一発入れることができた。
追いかけて、更に何度も殴っておいた。
「おい、コラ! 人様に、世間に迷惑掛けすぎだお前は!!」
「ぶが、ごべ、ばぁっぶ……………」
このまま殺してやってもいいがな。
いや、コイツの最終処分はゼルファードのみんなに委ねる。
家族を失い、悲しみに暮れている人々の為に。
やり場のない気持ちをコイツにぶつけてもらう。




