第20話 さらば、ティアナ姫
俺のクリムゾンブレイク。
オーロラのホーリークレスト。
村人たちの弓矢。
連携してゾンビ数百体は倒すことができた。しかし、次から次へとゾンビモンスターが現れてキリがない。
「ど、どうしましょう……エルド様。これでは魔力が尽きてしまいます」
「オーロラ。無茶はするな、いったん下がれ」
「は、はいっ」
入れ替わるようにしてクレミアが今度は前に立つ。
「自分にお任せを」
「頼んだぜ、クレミア!」
彼女は落ち着いた表情と態度で手を仰ぐ。すると杖を武器召喚していた。……へえ、こりゃ相当レベルが高いな。
そして、ついに魔法を発動した。
ビリビリと放電をはじめると――。
「ライトニングボルト!」
稲妻が走って、目の前のゾンビモンスターを狩り尽くしていた。凄まじい雷が一撃で屠っていく。
おいおい、こりゃスゲェぞ。
あれは、ただのライトニングボルトじゃない。そのもののレベルが高すぎて高火力・広範囲。しかも、詠唱もほとんどなかった。無詠唱に近い。
魔法学校主席――それは本当のようだな。
おかげでかなりの数を減らせた。
「よくやったよ、クレミア」
「いえいえ。しかし、魔力を使い果たしました」
かなり乱発していたからな。
それでもゾンビの群れはすぐに復活。ティアナ姫のヤツ、どんだけ連れてきたんだよ。
弓矢部隊も必死に攻撃しているが、食い止めるのがやっと。
このままでは……!
次にどうするべきか検討していると、村長がやってきた。
「奮闘しているようですな、エルド殿」
「村長! いや、そうでもない。このままでは全滅だ」
「ふむ。ならば直接戦うしかなさそうかのう……」
「ダメだ。ゾンビ感染するかもいれない! そうなったら、ゼルファードは終わりだ」
「しかし……全滅するよりは」
その通りだ。その通りだが、それでも俺は諦めたくはない。
「仕方ない。このスキルだけは使いたくなったが……」
「なにか秘策があるのですな?」
「ああ。下手すりゃ村を巻き込むかもしれんがな」
「それほどの威力なのじゃな」
「魔王軍を倒すために必要だった……闇の力だ」
「世界を救うには仕方のないこと。なぁに、このゼルファードの住民は細かいことなど気にはせぬのじゃ。思う存分、使うがよい」
「ありがとう、村長!」
「いや。もう私は村長ではない。エルド、お主こそが村長に相応しい」
それだけ言い残し、村長――いや、タルは背を向けて去っていく。
そこまで認めてくれるのなら俺は全力だ。
「あの、エルド様。どうしましょう……」
「オーロラ、そのまま待機。みんなは離れてろッ!」
俺とオーロラ以外は、全員退避させた。でなければ、俺の必殺に巻き込まれるからだ。
「了解だ!!」「任せたぞ、エルド様!」「がんばれよ!!」「村の運命は託した!!」「やっちまえ、勇者様!!」「ゼルファード守ってくれ!!」「ゾンビを一掃してくれ!!」
よし、全員の退避を確認した。
正門に集まるゾンビモンスターの軍勢。これを一撃で消し飛ばすしかない。
それには“この力”を解放するしかないだろう。
「聖剣アルビオンを持っていてくれ」
「解かりました。預かります!」
右手に『闇属性』の魔力を集めていく。
ここ最近散々、大切な人を寝取られたおかげで憂鬱や鬱憤やら、様々な“負のエネルギー”が蓄積している。それが俺にとっての闇の力。
それを全て力に変え、ぶっ放す。
究極にして最強のスキル――『カルペ・ディエム』。
「くらええええッ!!」
全てをぶっ放すと闇が広がってゾンビが、森が全て吹き飛んだ。
この超威力ではティアナ姫も無事では済まないかもしれない。
スキルの放出が終わると、辺りは森から荒野に変貌していた。……だから、出来れば使用は避けたかった。火力があまりに強すぎる。
さて……ティアナ姫は?
気配を探ってみると――背後に?
「…………ッ!」
振り向くと、そこにはテレポートして移動してきたのかティアナ姫が尻餅をついていた。そうか、辛うじてのところで転移してきたか。
「ティアナ姫!」
「…………今ので帰りのスクロールを消費してしまいましたわ。エルド、どうしてくれるの!!」
「知るか! それより、お前よくも……!」
「ひぃっ! 私のせいではありません!! 悪いのは全てエルド、あなたです!!」
……まだそんなことを。
いい加減にウンザリだ。
「もういい。ティアナ、お前を捕まえて……」
「アハハハ! そう簡単に捕まってなるものか! 見なさい、エルド! これは新薬! ゾンビ薬よ!!」
懐から小瓶を取り出すティアナは、その蓋を開けていた。
「お前、村にゾンビウイルスを撒く気か!」
「そうよ! こんな辺境の村なんてなくなってしまえばいいの!!」
「お前ッ!!」
ティアナは、瓶を投げた。
……この女は!!
「残念ですが、ティアナ姫。貴女はおしまいです」
静かに言葉を漏らすオーロラは、ブツブツと何かを詠唱して人差し指を瓶に向けていた。軌道が変わって、瓶はティアナの頭上に。割れた。
え……!?
「ちょ、え、まって……きゃあああああああああああああああああ!!」
地面に落下するはずのゾンビ薬は、ティアナが被っていた。
すぐに体がドロドロに爛れ、醜いゾンビに変わっていた。……自業自得だ。馬鹿野郎。
ゾンビとなった以上はもう終わりだ。
浄化してやるしかない。
俺の手でせめて弔ってやろうと思ったが。
「エルド貴様ああああああああ! ティアナ姫になにをした!!」
「ハルネイド! どうしてここに!」
「混乱に乗じて牢を抜け出したんだよ! それより、姫をどうした!!」
「……それは」
今のハルネイドに事実を言っても信じないだろうが、一応説明はした。絶望するハルネイドは、次第に怒りをにじませて俺を睨んだ。
「お前のせいだ」
「なんだと?」
「エルド、お前のせいでティアナ姫はこんなバケモノに!」
「彼女はもう死んだも同然だ。浄化してやろう」
「うるさい! ティアナ姫は私が連れて治療する! 道を開けろ!!」
ティアナを強引に抱え、ハルネイドは村の外へ向かっていく。そんな状態で治療なんて無理だろう。人間に戻すことも難しいはず。
まあいい、ハルネイドはきっと噛まれて感染する。
二人ともゾンビになっておしまいさ。
俺は止めなかった。
運命は決まっているから。




