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鏡竜機神ジャバウォック 多次元海賊戦記  作者: 84g
海賊船セカンドジョーカー。
31/31

【スケルツォ症候群】

 ――オッドアイは相談するつもりだったが、慈朗は決定を伝える気だった。

 チャンバラーへは、既に美剣が戻っているはずなので、迎撃の準備を終えているだろう。

 ロックロックの無線施設を作っても、拉致された岩人間たちを取り戻さなければならない。

 オッドアイは相談するつもりだったが、慈朗は説明をする気だった。

 既に答えは、決まっているのだ。


「全員倒せばいいだけだ」


 源三兄弟、兵士たちを率いるデジュン、ロックロック代表のオッドアイによって行われたミーティングにて。

 慈朗は風琵朗の作ったギョウザ定食を食べつつ、事もなげに言い放った。


「……お前たち海賊たちで、一番強いのは誰だ?」

「俺っちだ!」

「……この前、お前の能力……ジンキ、だったか……は見せてしまったんじゃないか?」

「おう! 見せたな!」

「……そうか……私は君たちとは思考が違うから……何か勘違いしているのかもしれないんだが……美剣はチャンバラーでも最強のサムライらしいが、それに次ぐ剣客は複数いるらしい……それを、つまり、護朗、お前は全員倒せるのか?」

「無理だな! 美剣ひとりで限界だと思うぜ!」


 元気いっぱいすぎる護朗だが、聞いているオッドアイはいっぱいいっぱいだった。

 ジャックポットランキング、というのを航行中に海賊たちが話すことがあった。

 船に乗っていたジャックポットの作った“戦闘力ランキング”で、

 板渡りのような場面での序列のために行っているそうだが、少なくとも武闘派の多い海賊の中でも、無視のできるものではないらしく、妥当性はあるらしい。

 それによれば、護朗は九位。無数にいる海賊たちの中で九番目に強く、その護朗のジンキ、迅疾も見せてしまった。

 対策もされているだろうに、それでも護朗には余裕しかない。

 短い付き合いとはいえ、気楽な性格の人間だとは思っていたが、こういう場でふざける人間でもないとも思っている。


「風琵朗や慈朗が――お前より強いということ、とか、か?」

「俺っちがトレーニングしてる分、強いかなァ。風琵朗は食堂で忙しくて休みがちだし、兄貴は忙しすぎるしさぁ」

「……慈朗もジンキが使えるのか?」

「使えるぜ、兄貴のは……あ、兄貴、言っていいよな?」


 喋ることも億劫とばかりに視線も言葉もむけない長男、止められないなら良いのだろうと喋ることを好む次男は続けた。


「……雷鳴、強そうだな」

「そりゃもう! どこでも雷鳴を鳴らせるんだぜ!」

「……つまり、どこにでも稲妻を放てる……?」

「それじゃ電撃とか落雷だろ。兄貴のは雷鳴。雷鳴を自在に鳴らせられるし、雷鳴がどこで鳴っても突き止められるんだ」


 ばちばち、ごろごろ……。

 興奮気味に語る護朗を盛り上げるように、室内に雷鳴が鳴り響いた。

 ――それだけだった。


「……なるほど。理解したが……理解できていないんだが……勝てるんだな? 美剣を含むサムライたちに」

『勝てる』


 それは、饒舌な護朗、ギョウザ定食を食べ終えた慈朗、黙っていた風琵朗。

 三兄弟が、兄弟であると感じるほどに揃った一言。


「……いつもこうさ。非常識な連中の、非常識な決定に、俺たちはいつも従うだけさ」


 兵士たちをまとめあげるデジュンは、呆れたように、それでいて納得した様子で海賊たちのミーティングをしめくくる。

 船長の芳樹を呼び、迎え撃つサムライたちの情報確認へと移った。


「……私が、本当に、仲間の情報を喋ると思うか?」

「反論するなら少しは考えてからにしろ。お前が喋らないならお前の部下たちに訊くだけだ。奴隷商人をさせられて自害までしようとした責任感のある連中に、な」


 意訳すれば、“部下に責任を押し付けたくなければ速やかに喋れ”。

 切腹ハラキリというシステムの残るチャンバラーの現状を考慮すれば、それを喋らされた部下はタダでは済まないだろう。

 そして、この芳樹という男は、有能ではないかもしれないが、人でなしというわけでもない。


「……美剣ほどではないが、坂本竜次さかもとりゅうじだな。オールバックで鷹のような目をした……二丁拳銃の男だ。異能力者で……“鉄壁”のキーワードを持っている」

「ジンキだよな。ならお仲間だな」

「具体的にはどんなことができるんだ?」

「見たことはないが、自身や弾丸にかけて防御を行うとは聞いた」

「写真はあるのか?」

「……名士目録が、そこの本棚にある」

「なら、作りながら聞くか……」


 そこからのデジュンは事務員顔負けの手際で船長室に備えられたパソコンで資料を作っていった。

 目録の気になる人間の聞き取りをしつつ、警戒すべきサムライの一覧を作っていく。

 ギョウザ定食を食べ終わってからは慈朗も参加し、それを眺めるのは、料理一辺倒の風琵朗、戦闘一辺倒の護朗、そもそもキーボードを叩こうにも割りそうなオッドアイ。


「ワクワクはしちまうなぁ、デジュン! 強いヤツばっかりか!」

「俺にはお前ほどの余裕はないよ。船長、これは?」


 デジュンの差し出したページには、隣にいる顔を精悍にしたような顔に、日連堂ひれんがどう)という名字の付いた剣客が記されていた。

 どうみても、日連堂真断座衛門(まだちざえもん)利樹(としきの身内だった。


「そいつは……日連堂真断座衛門正樹(まさき)は、腕利きだったが、気にする必要はない。死んでいる。私の兄で……半年前にな」

「ちなみに……死因は?」

「心配するな。戦闘で死んだわけではない。スケルツォ症候群でだ」


 スケルツォ症候群。

 聞きなれない病名についた、聞き流せない言葉だった。スケルツォだって?

 それは、この場にいる海賊たちの誰もが加入する前ではあるが、かつて戦った強敵として伝え聞いている名前だった。


「お前たちの世界にはないのか? 身体の一部が消える病気だ」

「……消える、というと……どういう消える、だ?」

「消えるだ。臓器が消えていったり、手足から消えていくこともある。消しゴムをかけるよう、と形容される。

 近年、徐々に増え続け、それで我々はマルスニウムを必要としていた。

 マルスニウムから生成される薬だけが、症状を抑えることができるからだ」

「確認だが……人間にはよくある症状なのか?」


 オッドアイの質問に風琵朗が首を横に振った。

 他の鏡域では聞いたこともない症状だったのだ。


「けど、マルスニウムにそんな効果、あるの?」

「前に兄貴が言ってたよな。マルスニウムは鏡域によっては賢者の石とかエリクシルとか呼ばれて、万能薬扱いされているってよ。

 にしても、岩人間の身体を削って作った薬で、身体が消えるのを防ぐのか、シュールすぎけどな」


 護朗の軽口に続いて、溜息のように端的に、重々しく言葉を放った。


「……芳樹、それは感染するのか?」


 それは、海賊たちの最も気にすべきことだった。

 自分たちの生命はもちろん、自分たちが移動することで鏡域間に未知の病原体を媒介するようなことがあってはならないからだ。


「原因不明ではあるが、感染性は確認されていない。だから発症の経緯すらわからない。そもそもそれなら、弟よりも先に私が発症しているはずだ」

「……芳樹、今、なんつった?」

年齢としの離れた弟もスケルツォ症候群だ。膵臓と肩甲骨の一部が消えている。感染するならば弟より先に一緒に仕事をしていた私が発症しているはずだろう? だが現実には離れて暮らす弟だけが……発症した」

「じゃあ、お前、弟のためにロックロックを攻め込んでたのか?」

「“誰かのため”というつもりはない。それは“誰かのせい”の言い換えでしかない。

 私は私の責任と意思によって、岩人間たちを襲っていた。

 そして、その行動に一切の後悔はない」


 つまり、今回、岩人間たちのロックロックを解放するということは、芳樹たちの薬の生産ルートのひとつを潰す、ということに他ならない。

 “辞める”選択肢はない。ロックロックが犠牲になっていいわけではない。

 だが、迷わない、わけでは、ない。


「……薬があるなら、つまり、薬効を理解はしているんだな」

「マルスニウムはハートクインダムへ上納後、薬に加工して戻される。大幅に天引きされて、な。

 ……だから我々チャンバラーは、生成方法を教えれらていないし、クインダムの下についている」

「それって……!」

「ストップだ護朗。脱線してきた。まずはサムライたちのリスト作成だ。

 前々からクインダムが腐ってるのはわかっていたことだ。行動は変わらない」


 俺たちは正義の味方じゃない。

 海賊たちの合言葉のようなそれは、普段から不機嫌そうな慈朗の、フラットな無表情がそれを感じさせた。

 決意と憤りが混じった感情を燃やす、内に秘める闘志であるとこの場にいる誰もが理解していた。


「……芳樹。お前んとこ、死んだ兄貴とお前と弟で三人兄弟か?」

「ああ……お前と同じ二番目だな、護朗」

「スケルツォ症候群ってそれ、俺たちも調べるからよ。絶対、治療法、見つけような」


 護朗の言葉に、芳樹は滲み出すように笑った。

 今から母国を襲撃して貴重な資材である岩人間を奪おうとしている海賊たちに励まされ、それを心強く思っている自分に、ただ、笑いがこぼれたのだ。




 練りに練った作戦でたどり着いた“港”。

 陸上競技でもできそうな莫大な一枚鏡が設置されているだけの空間だが、鏡域間移動をするには最低限。

 慈朗たちも特段驚くことはなく通り抜け、作戦のために周囲に意識を向け、愕然とした。

 考えるより早く、それは起きた。

 相手の陣形もいくつか予想がついていた。

 第一警戒は美剣、そして二丁拳銃の坂本竜次……その坂本が、すぐに目の前にいた。

 二丁拳銃を持つはずの両腕がゴムのように折れ曲がり、港の大鏡の上で、薄氷の上で息絶えたバッタのように動かない。


「ブージャムだ……!」


 海賊たちの本来の敵。

 鏡域間を移動するスナークの中でも最悪の種族、ブージャムたちが、現れていたのだ。

感想、いいね、評価、読了ツイートなどお待ちしています。

反応がないと虚空に向かって小説を投げつけているのかと脳が錯覚するので。

読者さんの反応が、他の趣味 (ゲームとか)に使う時間を小説に向けさせるモチベーションになるのでよろしくお願いします。

(意訳・続きが早く読みたいときは応援してね!)

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